文化・ライフ

ゲストは、能楽囃子大倉流大鼓の家に生まれ能楽師として世界を舞台に活躍する大倉正之助さん。「伝統芸能の鼓を、時空を超える新しい表現で現代の人に届けたい。それが私の役目」と話します。たそがれ時の東京・代々木能舞台で、素晴らしい鼓の演奏とお話を堪能しました。

大倉正之助氏プロフィール

大倉正之助(能楽師 囃子方大倉流大鼓)

(おおくら・しょうのすけ)重要無形文化財総合認定保持者。能楽師。囃子方大倉流大鼓。1955年生まれ。能楽囃子大倉流大鼓、小鼓の家に生まれ、厳しい稽古を受け9歳で初舞台。世界各国の首脳・VIP来日時や海外での公演も多い。

 

古代と現代を結ぶ架け橋となって鼓を打つ

 

佐藤 本日は安倍晋三首相の訪中に伴い開催される日中文化交流展に参加前のお忙しいところ、ありがとうございます(編集部註:取材日は日中平和友好条約締結40周年に際し、李克強首相、習近平国家主席との首脳会談を控える安倍首相の訪中前日。大倉氏も演奏のため同伴)。取材用にこんなに素敵な場所までご用意いただいて。東京の街中に能舞台があることに驚きました。

大倉 ここ代々木能舞台の敷舞台は1933年、本舞台は50年に国の文化財にも認定されているんですよ。

佐藤 そんな由緒正しい場所で、先ほどは素晴らしい鼓の演奏を聴かせていただき、夕空に響き渡る澄んだ音色に感動しました。それと、演奏前に鼓を組み立てるところを初めて見ました。鼓は最初から鼓の形であるわけではなく、大倉さんご自身が組み立てていたんですね。

大倉 毎回組み立てています。馬の革、桜の木、麻の紐など、一つ一つの素材は日本古来の神聖なものです。特に鼓胴は蒔絵が施され本日使用した御道具は、安土桃山時代のものです。麻の紐はねじりながら編み込んでおり、鼓を見た人が、「螺旋状の遺伝子の構造みたいですね」と言っていました。

佐藤 鼓は神々の楽器、それも分かる気がします。そう言えば、大倉先生と久々に再会したのも、熊野三山の奥の宮の玉置神社でしたね。私は初めての参拝でしたが、神楽殿から鼓の音色が聴こえてきて、大倉先生の演奏だったので、その邂逅にびっくりしました。

大倉 波長が合うのか、地球上のあの一点でお会いできたのだから不思議なものですよね。

 

大倉正之助氏がバイクや自然を愛する理由

 

佐藤 熊野三山にはよく行かれるんですか?

大倉 招待されて演奏にも行きますし、毎年5月の連休はバイクで熊野詣で仲間たちとツーリングをしたり、ドライブしたりもしますよ。

佐藤 バイクは大倉先生のご趣味ですしね。若い頃は走り屋だったとも聞きました(笑)。

大倉 若い頃はそうですね(笑)。バイクは趣味というよりもライフスタイルです。車の運転も好きですが、バイクで走るのはもっと好きです。世界各地をライダー仲間たちと共に走ったりします。大自然の中、雨風を受け風の冷たさ、日差しの強さなどを五感で感じることで、感性が刺激され研ぎ澄まされるような気がします。

佐藤 大倉先生の演奏に心を奪われるのは、その独特の感性や魂が伝わってくるからですよね。

大倉 鼓をはじめ伝統芸能は、戦国の武将たちが嗜んでいたものです。それを現代でも楽しめるよう、私は昔と今を結ぶ架け橋として活動しています。バイクや自然が好きなのは、古代から続く息遣いを全身で感じられるのもありますね。

 

大倉正之助氏が能楽師として生きる価値を見つけた経験とは

 

大倉正之助、佐藤有美

大倉正之助氏と佐藤有美・経済界社長

 

佐藤 代々能楽師の家系に生まれ、生き方を運命づけられた環境だったかと思います。鼓には子どもの頃からすぐに興味を持てたのですか? プレッシャーはありましたか?

大倉 プレッシャーはありましたね。他所の家にはない敷居の高さも感じましたし、伝統芸能としての鼓の奥深さにおののきました。でも、10代の終わりに、自然農法に関わる機会に恵まれ、そこであらためて鼓に真剣に向き合おうと自然に思えた。ずっと家にいたら、閉塞感で嫌になってやめていたでしょうね。

佐藤 10代の時に鼓の世界とは全く違う自然農法の世界に飛び込まれたのですね。きっかけは何だったのですか?

大倉 野菜のおいしさに感動したんです。最初は自然農園にて修業し、その後伊豆の山に小屋を建ててそこで寝泊まりしながら自然農法に励みました。当時、同年代の仲間たちと、家業を継ぐ、継がない等の相談を聞くうちに、自分に与えられた能楽師の道やその価値について再認識したのです。こんな不肖の息子でも、鼓の家に生まれる縁があったわけですし。私ができることは、いにしえの価値ある鼓を現代に見合った新しい形で届けることだと思ったんです。

佐藤 外の世界での良い経験、良い仲間たちの影響もあって人生を決めたわけですね。今はお弟子さんたちに技術伝承されていると思いますが、次世代を担う若者たちに教育や啓蒙などもされているのでしょうか。

大倉 経済と文化の融合を目指し、日本古来から伝承文化に触れるようなことを通して、世界に貢献できる人材づくりを目指す、新しい日本文化の教育プロジェクトを立ち上げたいと思案しています。2017年現在、全国の小学校約2万校、生徒数は約600万人以上、中学校は1万校、生徒数は約300万人に対し働きかけていきたいと思います。

似顔絵=佐藤有美 構成=大澤義幸 photo=佐藤元樹

 

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