政治・経済

「国の借金で破綻する」という嘘キャンペーンを継続する理由

 日本の財務省とマスコミは、まさに十年一日のごとく「日本は国の借金で破綻する」キャンペーンを続けている。

 彼らは何と、1981年以来、既に32年間も「国の借金で破綻する」と主張し続けているのである。

 財務省が「国の借金で破綻する」キャンペーンを継続している理由は簡単だ。単に、消費税増税を実現したいためである。

 とはいえ、現在のデフレ下の日本が増税をすると、本連載第2回で取り上げたとおり、政府は減収になる。

 もちろん、増税をするべき時期というものもある。インフレ率が健全な範囲を超えて上昇している時期、あるいはバブル期だ。高インフレやバブル化など、国民経済が過熱している時期は、政府はむしろ増税を実施しなければならない。増税で国民の消費や投資意欲が冷めれば、景気が沈静化する。

 ところが、日本の財務省は経済のインフレ、デフレとは無関係に、常に増税をしたがる。しかも、増税を実現するために「国の借金で破綻する」という、極めて悪質なプロパガンダを展開してくるわけである。

 2013年5月10日、大手新聞、大手テレビが一斉に「国の借金991兆円、13年度末には1千兆円台」あるいは「国民1人当たりおよそ778万円の借金を抱えている計算になる」という報道を流した。

 大手マスコミの記者は財務省の記者クラブ「財政研究会」で渡された資料をコピー&ペーストして記事を作るため、必ず同じタイミングで、同一の内容の記事が新聞に載る羽目になるわけだ。

 上記の「国の借金」「国民1人当たり778万円の借金」というのは、これはもう根本から間違っているミスリード、あるいはプロパガンダである。何しろ、財務省がいう「国の借金」とは、「日本国家の借金」ではない。あくまで「日本政府の負債」だ。

「国の借金」とは日本国民の負債ではない

 そもそも、日本国の借金とは「対外負債」を意味している。すなわち、日本国が外国に負っている借金だ。ちなみに、確報値がリリースされている12年9月末時点のわが国の対外負債は、実に362・3兆円に及ぶ。

「何だ、やっぱり巨額の【国の借金】があるんじゃないか」

 と、思われたかもしれないが、わが国は対外負債以上に「対外資産(外国が日本に負っている借金)」が巨大だ。同時点の日本国の対外資産は、何と636・9兆円にも達している。結果的に、わが国の対外「純」資産は274・6兆円と世界最大である。

 正しい意味における「国の借金」を見れば、日本国は借金大国でも何でもない。むしろ、世界一の「お金持ち国家」という表現が正しいのである。

 無論、日本「政府」は確かに巨額の負債を抱えている。とはいえ、別に財務省式に、

「国の借金のツケを将来世代に先送りしないために、増税を」

 という話にはならない。そもそも「国の借金」とやらは日本国民の負債ではないのだ。

 しつこいが「日本政府」の負債である。そして、日本政府の負債は100%が日本円建てであり、かつ「債権者」のほとんどが日本国民だ。

「国の借金」という嘘を流し続ける財務省の罪

 日本政府の負債(財務省やマスコミがいう「国の借金」)とは、そのほとんどが日本国債だ。そして、日本国債は日本の民間銀行、生命保険、損害保険、年金などの金融機関に購入されている。要するに、日本の金融機関が、日本政府におカネを貸しているわけだ。

 とはいえ、銀行にしても生損保にしても、あるいは年金にしても、自己資金を政府に貸し付けているわけではない。われわれ日本国民が銀行に「貸し付けた」預金や、徴収された保険料の運用先(=貸付先)として日本国債を選んでいるにすぎない。

 すなわち、財務省がいう「国の借金」の、最終的な「債権者」こそが日本国民なのである。財務省式のレトリックを使えば、

「日本国民は『巨額の債権』を将来世代に先送りする」

 という話になる。

 しかも、日本国債は100%が日本円建てだ。中央銀行を通じ、日本円を発行できる日本政府の「負債」が残ることが、なぜ「将来世代へのツケの先送り」になるのか。

 財務省をはじめとする増税推進派のレトリックは、二重の意味で奇妙なのである。何しろ、日本政府は日本国債を日本銀行に買い取らせることで、負債の返済義務や利払い義務がなくなってしまう。日本銀行は、日本政府の子会社なのだ。

 12年9月末時点で、日本政府が過去に発行した国債の10%強が日本銀行により保有されている。この10%分の国債について、政府は返済する必要がない。子会社と親会社との間のおカネの貸し借りは、連結決算で相殺されてしまうためだ。

 もちろん、利払いも同じなのだが、日本政府は一応、日本銀行が保有する国債について律儀に金利を支払っている。とはいえ、日銀の決算が終わると、「国庫納付金」として返還される。

 結局のところ、財務省は現実には存在しない「国の借金問題」あるいは「財政問題」をクローズアップさせ、自省の望み(増税)を実現しようとしているだけなのだ。

 財務省がマスコミを通じて流すレトリックに国民が「騙され」続けると、わが国のデフレが深刻化し、国民の所得が減り、さらに税収減により財政が悪化する「増税」が実施されることになる。そんな未来を、日本国民は望むのだろうか。

筆者の記事一覧はこちら

雑誌「経済界」定期購読のご案内はこちら

経済界電子版トップへ戻る

関連記事

好評連載

深読み経済ニュース

一覧へ
一般社団法人かぎろい出版マーケティング代表 西浦孝次氏

[連載] 深読み経済ニュース解説

2015年の経済見通し

[連載] 深読み経済ニュース解説

再デフレ化に突入し始めた日本経済

[連載] 深読み経済ニュース解説

消費税率引き上げ見送りの評価と影響

[連載] 深読み経済ニュース解説

安倍政権が解散総選挙を急ぐ理由

実録! 関西の勇士たち

一覧へ

稀有のバンカー、大和銀行・寺尾威夫とは

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第20回)

実録! 関西の勇士たち

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第17回)

三和銀行の法皇・渡辺忠雄の人生

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第14回)

住友の天皇・堀田庄三の人生

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第11回)

商売の神様2人の友情 江崎利一と松下幸之助

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第7回)

関西財界の歴史―関経連トップに君臨した芦原義重の長期政権

ビジネストレンド新着記事

注目企業

一覧へ

総合事業プロデューサーとして顧客と共に成長する―中尾賢一郎(グランドビジョン社長)

広告やマーケティング、ブランディングを事業プロデュースという大きな枠で捉え、事業が成功するまで顧客と並走する姿勢が支持されているグランドビジョン。経営者の思いを形にしていく力で、単なる広告代理店とは一線を画している。中尾賢一郎・グランドビジョン社長プロフィール事業プロデュー…

中尾賢一郎(グランドビジョン社長)

人材戦略を経営の核に成長する駐車場ビジネスのプロ集団―清家政彦(セイワパーク社長)

「PCのかかりつけ医」として100年企業への基盤構築を進める―黒木英隆(メディエイター社長)

新社長登場

一覧へ

カリスマ創業者の後任として描く「新しいマネックス証券像」― マネックス証券社長 清明祐子

2019年4月、国内インターネット専業証券で初の女性社長が誕生した。創業者であり、カリスマ社長と呼ばれた松本大前社長から後任を託されたのが清明祐子氏。清明氏は09年にマネックスグループに入社し、子会社社長やグループ役員を経て、マネックス証券の社長に就任した。清明社長はカリスマの後任としてどんな会社をつくってい…

マネックス証券社長 清明祐子

「若者需要の開拓でビール市場を盛り上げていく」塩澤賢一(アサヒビール社長)

「事業部門の連携を活性化させ営業利益100億円を目指す」 内藤宏治(ウシオ電機社長 )

イノベーターズ

一覧へ

シリコンバレーへの挑戦が生んだ「起業家と投資家が待ち望んだサービス」― 戸村光・ハックジャパンCEO

起業家のスタンスとして、画期的な技術やビジネスモデルを社会で活かすことを目的としたイノベーション先行型もあれば、社会課題解決を最優先とし、そこに必要な技術やノウハウを当てはめていくやり方もある。ハックジャパンCEOの戸村光氏の場合は後者。対象となる課題は「身の周りの気付いたことすべて」だ。(取材・文=吉田浩)…

戸村光・ハックジャパンCEO

「測量美術」が起こす道路工事のイノベーション―草木茂雄・エムアールサポート社長

IT化で変革する産業廃棄物処理の世界―福田隆(トライシクルCEO)

大学の挑戦

一覧へ

専門分野に特化した“差別化戦略”で新設大学ながら知名度・ブランド力向上を実現――了徳寺大学・了徳寺健二理事長・学長

2000年設立で、了徳寺大学が母体のグループ法人。医療法人社団了徳寺会をグループ内に持つ。大学名の「了」は悟る、了解する、「徳」は精神の修養により、その身に得た優れた品性、人格を指す。「了徳寺」は人間としての品性、道を論す館の意味を込めた大学名だ。 聞き手=本誌/榎本正義 、写真/佐々木 伸 …

大学の挑戦

創立100周年、西南学院大学・K.J.シャフナー学長「世界に貢献しインパクトを与える人材を育てる」〜国際交流・就職支援・インターネット出願〜 

「“STAND BY YOU”のスローガンの下、学生一人ひとりに寄り添う教育を」――中央学院大学・佐藤英明学長

経済界からのお知らせ

最新号のご案内

経済界2020年1月号
[特集] 新しい街は懐かしい
  • ・「街の記憶」で未来をリノベーション
  • ・日本橋が「空を取り戻す」水辺と路地がつながる街へ
  • ・水辺はエンタメの宝庫だ 大阪が目指す観光客1300万人
  • ・街の誇りを取り戻せ 名古屋・堀川復活プロジェクト
  • ・なぜ水辺に都市が栄えるのか
  • ・2020以降は海と川がさらに面白くなる
  • ・「住む」と「働く」両方できるが求められている(たまプラーザ)
  • ・「土徳」が育む一流の田舎(南砺市)
  • ・音楽ファンが集う街づくり
[Special Interview]

 辻 慎吾(森ビル社長)

 東京が世界で勝ち抜くために必要なこと

[NEWS REPORT]

◆飛びたくても飛べないスペースジェットの未来

◆エンタメが街を彩る 地方創生に挑むポニーキャニオン

◆問題噴出のコンビニをドラッグストアが抜き去る日

◆始まった自動車世界再編 日本メーカーはどう動く?

[特集2]

 経済界福岡支局開設35周年記念企画

 拓く!九州 財界トップが語る2030年のかたち

ページ上部へ戻る