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日本人の英語学習の課題解決に向け、学習者目線のアプリを開発―― 山口隼也(ポリグロッツ社長)

株式会社ポリグロッツ 社長 山口隼也氏

グローバル化が進む中、多くのビジネスパーソンにとって英語力の向上は大きな関心事の1つ。日本人が相変わらず英語を苦手とする理由と解決策について、英語学習アプリで展開するポリグロッツの山口隼也社長を取材すると共に、同社が提供するサービスについても聞いた。(取材・文=吉田浩)

日本でますます高まる英語学習熱

 

 2010年に日本でいち早く英語の社内公用語化を打ち出した楽天に続き、12年にはファーストリテイリングも同様の方針を打ち出し話題を集めた。その後、公用語化まではいかずとも、大手企業を中心に英語力を昇進の条件に加えるケースも増えた。ビジネスの世界において、英語力は必須スキルとなりつつある。

 また、インバウンドの増加と共に、日常生活においても外国人と接する機会が増えている。観光産業のみならず、官公庁や地方自治体、その他さまざまな分野で外国人への対応、とりわけ英語による対応が求められるようになってきている。

外国と比べて低下する日本人の英語力

こうした背景から英語への関心は高まっているものの、諸外国と比べると、日本人の相対的な英語力はむしろ低下しているというショッキングなデータもある。

116カ国で外国語学習や留学などを手がけているイー・エフ・エデュケーション・ファーストの調査によると、現在、日本人の英語力の順位は88カ国中49位。2011年度は44カ国中14位だったが、年々順位を落とし、2018年は過去最低となってしまった。

ビジネスや教育現場の共通語として英語の学習熱が世界中で高まる中、日本は完全に後れを取っている格好だ。

 

なぜ日本人の英語力は伸びないのか

 

そこで、今回話を聞いたのが、英語学習アプリPOLYGLOTS(ポリグロッツ)で展開する株式会社ポリグロッツの山口隼也社長だ。山口氏は、日本人が相変わらず英語を苦手とする理由について要因を以下のように語る。

 1.英語を使わなくても生きていける環境

「英語がうまくなりたいという人は多くても、まだ日本は英語を使わなくて生きていける環境であることが大きい。仕事で英語が必要な人にしても、出張でたまに使うくらいの人がほとんど。ただ、外国人労働者が増えたり、インバウンドで外国人観光客が増えたり、じりじりとした環境の変化が起きています。おそらくどこかの時点で臨界点を超えて、状況がパッと変わる気がします。その時はおそらく、学校でクラスの3割ぐらいが外国人とか、職場の1~2割が外国人というイメージです。そのタイミングは、ここ5年~10年で来ると思います」

2.英語と日本語の文法上の構造と発音の違い

「日本語と英語では、文法の構造が逆なのも影響しています。特に受験勉強では、関係代名詞の後にくる文を先に読んで、後ろから訳すようなことをするので、リスニングで文頭から流して聞くときに障害になってしまいます。脳のメモリの使い方が逆転するので、ついていけなくなるんです。発音に関しては、英語には日本語にない発音が12音くらいあるので、これは訓練するか聞いて真似るしかありません」

3.英語教育の問題

「学校の授業では、各生徒の興味の違いや、英語力の高い低いに関係なく、全員が同じ授業を受けます。それも落ちこぼれる人が出ないように、レベルの低い人に合わせた内容となります」

また、対話式ではなく先生が一方的に教える授業スタイルも、外国人の前でなかなか発言しない日本人のシャイな性格形成に影響していると思われる。

 

従来の英語学習の問題点を解決するアプリ

 

学習者目線でさまざまな機能を搭載した英語学習アプリ「POLYGLOTS」

学習者目線でさまざまな機能を搭載した英語学習アプリ「POLYGLOTS」

山口氏が英語学習アプリ「POLYGLOTS」を開発したのは、まさにこれらの課題を学習者目線で感じたからだという。

大手企業でシステムエンジニアだった同氏は、出張で米国を訪れる機会が度々あったため、さまざまなスマホアプリで英語を独学していた。その中で、最も継続できたのが仕事の分野に関するニュース記事を読む勉強だった。この時、分からない単語を別の単語帳アプリで調べていたが、「調べる機能も1つのアプリに入っていた方が便利じゃないか」と気付いたという。

「それなら自分で作れるなと。英語がうまくなりたいけど、そこまで切羽詰まってない僕みたいな日本人はたくさんいるだろうなと思ったんです。それも、受験勉強みたいな努力をせずに、情報収集しながら趣味の延長で学べるスタイルが日本人に合っている気がしました」

山口氏が意識したのは、アダプティブラーニング。つまり一人一人にカスタマイズされた学習だ。学習者の英語力のレベルだけでなく、興味も加味することで「好きを学びに」というコンセプトを掲げた。切羽詰まって英語を勉強する人はまだ少数派であるため、長く楽しみながら使えるように。継続できることを重要視したという。

こうして2014年5月に起業。3カ月後に英語学習アプリ「POLYGLOTS」をリリースした

英語学習アプリ「POLYGLOTS」の特徴

学習者が興味のある分野の英語記事でレベルに合わせて学ぶ

POLYGLOTSによる学習法は、学習者が興味のある分野のニュース記事を、機械の音読に合わせて追っていくというもの。以前はアプリ内の記事しか使えなかったが、現在はウェブサイト上の好きな記事もPOLYGLOTSで読めるようになった。

音読の速さはペースメーカーで調整可能で、WPM(ワード・パー・ミニット)、つまり1分間に何単語読み、聞けるかを指標にして学習できる。ちなみに、ネイティブスピーカーであれば230WPM以上、TOEIC600点から700点レベルの人なら160WPM程度が指標になる。自分が目指すレベルに応じて調整できるのが特徴だ。

途中で分からない単語が出てきた場合は、画面をタップすると辞書で調べられる機能も付いている。一度調べた単語は単語帳にストックされるため、復習するのに便利だ。

これらベーシックの機能に加え、有料サービスとしてリスニングや英会話のフレーズ学習、理解度チェックのための4択テスト、さらに、先生にオンラインのチャットで質問できるといった機能も現在は追加されている。

英語学習に導入されるAI

ユーザーから特に評判が良いのは、人工知能(AI)によって、学習者が自らカリキュラムを生成できる「マイレシピ」という機能だ。

「好きな記事を見つけたとしても、勉強のやり方がよく分からないという人も多いので、毎日何をするべきか、カリキュラムを提供する機能です。事前に10問ぐらいのテストを受けてもらって、機械学習で学習者のレベルを図って、『いつまでに、これをできるようになりましょう』という目標を提示します。カリキュラムの内容は、もちろん学習者の趣味趣向も考慮したものになります」と、山口氏は説明する。

レシピは、ユーザーが過去に読んだ記事や読むペースや調べた単語などをトラックし、他の学習者のデータも分析した上で作られる。また、「単語力だけ伸ばしたい」「文法だけ伸ばしたい」「リスニングだけ上達したい」といった、重点的に強化したいスキルがあれば、それも加味されるようになっている。

テクノロジーの導入で変化する英語学習のスタイル

英語学習は自習が中心に

 こうしたアプリの登場によって、英語の学習法も変わっていきそうだ。

「学校でも先生は基本だけ教えて、あとは生徒がタブレットPCやスマホで自習するスタイルが広がるでしょう。先生には成績が伸びない子のコーチングやサポーターとしての能力の方が求められるようになるかもしれません。地方の学校全てにネイティブスピーカーの先生を派遣するのは予算的にも無理なので、AIとスマホを導入する方向に行かざるを得ないでしょうね」と、山口氏は言う。

自動翻訳機は英語学習を不要にするか

 将来は自動翻訳が発達して、人が英語力を身につける必要がなくなるという説もある。この点に関する山口氏の考えはこうだ。

「インターネットが普及し始めたときも、もう人と人が会うことはなくなると言われていましたが、結局はリアルなコミュニケーションもテクノロジーも両方進化していきました。外国人と話すときも、直接会って話してニュアンスを理解したいという欲求は人間の根本にあるので、リアルタイム翻訳ができるようになっても、自分の脳や肌で感じたいという欲求はむしろ強まるのではないでしょうか」

そうした考えを持つ一方で、最終的には学習者から集めたビッグデータによって機械翻訳の精度も高めていくという構想を持っている。アプリが普及し、さまざまなレベルや趣味趣向の人々のデータが蓄積すればするほど、自動翻訳機能のベースになる日本語と英語の対訳データが拡充していく。将来は、それらを活用した事業展開も視野に入れているとのことだ。

英語学習で最終的に一番重要なことは?

「POLYGLOTS」のダウンロード数は現在100万を突破。リリース以来右肩上がりを続けており、「1千万まではいく感触を持っている」と山口氏は言う。

「このサービスが広がったのは、学習者目線だったから。あくまでも自分がやりたい勉強の形を具現化したのが良かったと思うので、そのマインドは変えずに作り続けていきます」

もはや昔のように、辞書を片手に英文と格闘するような時代ではなくなってきたようだ。ただ、山口氏はこうも付け加えた。

「アプリで勉強すれば一定レベルまでは必ず行きますが、たとえアプリがなくても辞書をコツコツ引いてやるような人であれば、英語はできるようになると思います」

やはり最後は、学習者個人のマインドが最も大切ということなのだろう。

山口隼也・ポリグロッツ社長プロフィール

山口隼也

(やまぐち・じゅんや)1976年生まれ、大分県出身。九州大学原子力工学科卒業後、フューチャーアーキテクト、ハイマックス、イプロスでシステムエンジニアとして勤務。英語学習で思うような成果が出せず、自らアプリを作ることを決意して2014年に起業。英語学習アプリ「POLYGLOTS」をリリースし、現在100万ダウンロードを突破。学習者目線の商品を作ることにこだわり続けている。

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