一般には馴染みが薄い産業廃棄物処理の世界。古い慣習が残る業界を、ITによって変えようとしているのがトライシクルの福田隆社長だ。業界の老舗企業がテクノロジー導入に舵を切った背景と今後の展望を聞いた。(吉田浩)

 

福田隆・トライシクルCEOプロフィール

福田隆氏

(ふくだ・たかし)東京都出身。1996年成城大学経営学部卒業後、ミネベアに入社。その後外資系コンピュータ企業のEMCジャパン(現DELL-EMC)に勤務するも、家業を継ぐため02年に東港金属入社。先代社長の急逝に伴い、半年後に社長就任。売上高を大きく伸ばす。18年にトライシクルを設立しCEOに就任。19年2月にサーキュラーエコノミー対応プラットフォーム「ReSACO(リサコ)」をリリースする。

 

産廃処理で「B to B版メルカリ」を目指す

 

 世界的に環境保護への意識が高まる中、産業廃棄物処理の世界にも新たな動きが出てきた。トライシクルが2019年2月にリリースしたサーキュラーエコノミー対応プラットフォーム「ReSACO(リサコ)」は、いわば「B to B版メルカリ」だ。

 ReSACOは、不要になったオフィス用品、機械、工具、備品などの売り手と買い手をマッチングして再販売を促すアプリで、リリース後約4カ月で1千社程度が登録している。アプリ開発の理由について福田隆CEOは

 「世の中で中古品販売やシェアリングの流れが強まる中、産業廃棄物も資源リサイクルだけに固執する時代ではなくなりました。それなのに業界として何も変わっていないのはリスクだと思ったんです」と語る。

 親会社の東港金属は1902年創業で、金属スクラップやプラスチックのリサイクル、産廃処理などを手掛けてきた。一般的なフリマアプリと違い特殊な製品を取り扱うため、長年の経験や法的な知識をトライシクルの事業に活かせる、と福田氏は説明する。

 ユーザーから出品される製品によっては、なかなか買い手が見つからないものや、再販売に向かないものもあるため、資源リサイクルに回したり、産廃として処理したりする場合もある。そうした判断も含めて、ワンパッケージで対応できるのがReSACOの特徴だ。

ReSACO

「B to B版メルカリ」をイメージして開発した「ReSACO」

 

規模のハンデをITで補う

 

 一般的には馴染みが薄い産廃処理業界。ある種特殊な世界だけに、古い慣習もいまだに根強く残っている。

 福田氏が東港金属の社長に就任した2002年当時は、営業活動すらほとんど行わず、古くからの付き合いをベースにした待ちの姿勢だったという。まず、ここにメスを入れた。

 「少し顧客目線に立つだけで、仕事がもっと取れるようになるだろうと思いました。単純に処理単価だけで競争するのではなく、例えば、中古品や資源ごみとして出してもらったりして、トータルコストを抑える提案をしていきました」

 その後わずか4年ほどで売上を7倍にまで伸ばすことに成功。福田氏は東港金属に入社する以前、外資系IT企業に勤務した経験があり、そこで身に付けたTCO(トータルコストオーナーシップ)に対する考え方が役立ったと語る。顧客目線でやり方を工夫してきた経験も、ReSACOの開発につながっていった。

 IT化に舵を切った背景には、東京を拠点にしているハンデもあった。廃棄物処理や資源リサイクルでは、大規模な工場を保有することが競争力につながるが、地価が高い東京では難しい。規模で勝負できないぶん、関連企業や人材の豊富さで東京立地でも優位に立てるIT活用で勝負しようという発想だ。

産廃PHOTO1

産業廃棄物の処理には多くの事業者が頭を悩ませる

 

実際に稼働させて分かったB to Bアプリならではの気付き

 

 アプリの開発に際しては、メルカリの影響を大きく受けたという。ただ、実際にリリースしてみると、B to Bアプリならではの気付きもあったという。

 「企業はメルカリのように一品ずつ写真を撮って出品するような面倒なことはせず、多数の品をまとめて出したいというケースが多いんです。そこで、トータルソリューションを準備する必要があると考えました」

 また、出品する企業側としては、高く売れることより安心感の方を重視する傾向にあることも分かった。メルカリのように、製品の質や荷物の運び出しなどをめぐって後日トラブルになるような事態は、極力避けたいと考える担当者が多いからだ。

 これらを受けて、6月にはReSACO上で新たな2つのサービスをリリースした。

 1つめは「プレミアム無料回収サービス」。オフィス什器や家電製品、建築資材、店舗備品などの不用品を対象に無料回収することで、顧客企業の負担を減らすことができる。

 もう1つは「不用品まるっとおまかせサービス」。不用品の買取、再販先のマッチング、リサイクル、廃棄処分まですべて引き受けるというもの。事務所移転などで、多種多様な不用品が発生する際には非常に便利だ。

 再販できるものはReSACOに出品したり業者に売却したりする一方、すぐに売れないものに関しては一定期間保管しておくことになる。この「ダム機能」を担う拠点として、千葉県にある2万3千坪の広大な敷地にリサイクルセンターを設け、19年秋から稼働させる予定となっている。

 「ダム機能を持っていると、顧客にはそれだけで相当な期待感を持たれるんです」

 と、福田氏はその意義を説明する。

オフィス用品

トライシクルでは中古品として売買可能なもの、リサイクルできるものなど、ワンパッケージで引き受ける

 

リサイクル、産廃処理の世界でもIT化は必然

 

 ReSACOへの出品数は現状、数百品ほど。当面はこれを拡張していくことに力を注いでいく方針だ。

 「今は首都圏での展開が中心で、案件が増えるにつれて口コミで顧客企業が増えていくものと想定しています。無料回収サービスのインパクトは大きいので、利用したい企業はたくさんあるのではないでしょうか」

 トライシクルの試みは、親会社の東港金属と完全にバッティングすることになるが、そこは必然だと割り切っている。

 「将来的に従来のリサイクル事業はシュリンクすることが分かっているので、顧客にとって便利なサービスに移行して、企業グループトータルとして利益が上がる方向にもっていきたいと思います」

 B to B取引の市場は、国内だけ見ればそれほど大きくない。例えば、顧客企業の業界自体が縮小している場合、業務用の機械が出品されたとしても、国内に買い手がなかなか見つからないこともある。

 一方、メードインジャパン、ユーズドインジャパンの中古品は海外でも評価が高い。そのため、海外の販路とつなげるための仕組みづくりも今後の課題となりそうだ。

 

産廃業界の古いイメージを変えていく

 

 IT化をキッカケに、採用する人材も変わってきた。

 「これまで社内にいなかった、中古品売買に携わってきた人材やマーケティング出身者などもトライシクルの事業に興味を持ってくれるようになりました」と福田氏は言う。

 市場が飽和しているコンシューマー向けと違い、B to B領域はマーケット拡大の余地が多分に残されている。さらに、世界的にSDGs(持続可能な成長)が企業経営の重要テーマとなったり、ESG(環境・社会・ガバナンス)投資が盛んになったりと、環境関連ビジネスには追い風が吹いている。

 これを機に、「業界全体に対するイメージも変えていきたい」との考えを抱く福田氏。業界のパイオニアとして、挑戦は始まったばかりだ。

 

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