2007年の初代発売以来、世界で急速に普及したiPhone。日本企業も、電子部品の供給などで関わっているが、今年に入りアップルがiPhoneの減産に踏み切り、各社の業績を直撃している。多くの日本企業の「アップル頼み」の収益構造が白日のもとにさらされた。文=ジャーナリスト/小沢省吾
アップル社のiPhoneの減産により部品会社の業績が軒並みダウン
米アップルが2014年に発売した「iPhone6」はヒットしたが、15年9月に投入した「6s」は不振で、減産規模は約3割とみられる。減産に伴い、各社の部品供給計画も引き下げを余儀なくされた。かつては新モデル投入とともに販売増を繰り返し、供給するボリュームも膨らんできただけに、逆回転の影響は大きい。
電子情報技術産業協会(JEITA)によると、15年12月の日本メーカーによる電子部品の世界出荷額は5・6%減の3166億円。前年同月を下回るのは2年10カ月ぶりで、アップルの減産に先立ち、各社が出荷量を減らしたためとみられる。
アップルを最大の顧客として、液晶パネルを供給しているのが、ソニー、東芝、日立製作所の液晶事業を統合して誕生したジャパンディスプレイだ。同社は元三洋電機副社長の本間充氏が15年6月に会長兼CEOに就き、コスト削減に取り組んで、業績は改善傾向。15年4〜12月期決算でも黒字転換を果たした。しかし、アップルの減産の影響で16年1〜3月期は営業赤字を見込む。業績改善に向けた動きに、冷や水を浴びせられた格好だ。
また、アップルは17年にもiPhoneのパネルに液晶ではなく「有機EL」を採用するとみられる。ジャパンディスプレイは日本メーカーの中では有機ELの研究開発でリードしているが、既に量産している韓国のサムスン電子などには差を付けられており、技術的な追い上げが課題になりそうだ。
ソニーの業績回復を牽引してきたデバイス部門にも暗雲が漂う。同社は、スマートフォンやデジカメ内で画像処理を行う半導体「イメージセンサー」の販売を拡大してきたが、この大半がiPhone向けとみられる。15年4〜12月期は、他の部門が好調で連結営業利益が前年同期の2倍超となる好決算だったが、デバイス部門の営業利益は4割超も減少。10〜12月期では117億円の赤字だった。
決算会見で吉田憲一郎副社長兼CFOは、「11月以降、お客さまからのオーダーが変化した。投資、生産を迅速に見直したい」と危機感をあらわにした。東芝から大分工場の生産ラインを買収するなど、増産投資を繰り返してきただけに、iPhoneの不振が続けば、ダメージは大きい。吉田副社長はイメージセンサーの供給先については明示していないが、「専用の設計をしており、他社への転用が難しい」ことも、収益悪化の背景にあることを示唆。アップル向けのことだとみられている。
東芝が主力事業として再建の望みを託す半導体、NAND型フラッシュメモリーも打撃を受ける。スマートフォンに組み込まれ、データを記憶する重要な部品だが、需要が減って市況が悪化。同社の平田政善CFOは会見で「売価ダウンの影響が大きい」と嘆いた。稼ぎ頭のはずが、NANDを含む電子デバイス部門は、16年3月期連結決算で、550億円の営業赤字を見込んでいる。iPhoneの販売動向は、不正会計で経営不振が深刻化した東芝の再生にも、大きく影響しそうだ。
アップルショックの影響は電子部品を供給するメーカーだけにとどまらず
アップルが主要取引先の社名と生産拠点を公開している「サプライヤーリスト」によると、200社のうち約40社が日本企業だ。アップルとの取り引きで恩恵を受けてきたが、今回は中国メーカー向けが弱含んでいるところに「アップルショック」が起きた格好だ。
影響の波及は、電子部品を供給するメーカーだけにとどまらない。スマートフォンの金属ボディーを削る「ロボドリル」を製造するファナックが、16年3月期の連結営業利益予想を下方修正。同じく工作機械メーカーの安川電機も通期の業績予想を引き下げ。スマートフォン製造会社などにFA(ファクトリーオートメーション)システムを販売する三菱電機は、発電機やエンジン始動装置など自動車用機器向けの販売が底堅く、業績は依然好調だが、市場ではスマートフォン需要が先行きへの不安要因とみられている。
他のメーカーをみても、最大手のサムスンは元気がなく、中国の小米科技(シャオミ)も、失速した。華為技術(ファーウェイ)も、スマートフォンの市場全体を引っ張るほどの力はない。
こうした状況を厳しく注視しているのが株式市場だ。今年2月末の株価を昨年末と比べると、アルプス電気が44%安、ジャパンディスプレイが35%安、日東電工が33%安、ソニーが20%安など、軒並み大幅に下落。企業業績の先行きをみて売買される株価が、ショックの大きさと今後の不透明感を表している。
ソニーの吉田副社長は、4〜6月期から需要は一定程度回復するとの見通しを示したが、一方で「環境が変わった」とも指摘する。電子部品大手でもTDKや日本電産、村田製作所などは業績好調が続いている。これは、電子部品の種類や機能によっては、端末当たりの搭載点数が増えているほか、車載など他の分野を強化していることが奏功したからだ。アップルへの依存度の高さがリスク要因となりかねないことが明確になったいま、収益源分散の成否が各社の明暗を分ける状況が続きそうだ。
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