銀座のクラブ、しかも一流ともなれば客層もおのずと決まってくる。一流の顧客を常連とさせ、その心をつかめるお店は、どんな人材育成を行っているのか、銀座で33年、オーナーママを務める銀座「クラブ由美」の伊藤由美さんに話を聞いた。
一流の人間を育てる教育の仕方とは?
―― まずは、ご自身が教わったことはどんなことですか。
伊藤 最初に仕えたママが1日も休まない主義だったのです。それで私も“休まず”の信念を貫き通しています。それは、いつ何時どなたがいらっしゃるか分からないので、お店を休んでいては始まらないのです。そして休めないことが前提とされ、自己管理能力が高められると思うんです。そうした自身の基軸のようなものがないと、人は易きに流れてしまいますから。
あとは、当たり前のことですが約束と時間は必ず守ること。それが信用につながります。どんな小さな約束でも守らねばなりません。自分が約束を守らなければ、結局、破られるほうになってしまいます。
―― 今は、人を育てる側ですが、採用する場合の決め手は。
伊藤 それはやはり「美」ですね。そして、清潔感と明るさも大切な要素です。つまり、性格が暗く清潔感がないという子は好かれないのです。最初はよくても、2、3回で飽きられるか、だらしなさが見透かされます。
人としての魅力は笑顔や楽しい会話により現れますから、そういった魅力がないと2度目はないのです。最初は気が利かない子も、気遣いのポイントを指導して、相手の気持ちを考えられるように教えます。相手を思いやれない。そういった優しさのない女性にはこの仕事は務まらないと思いますから。
また、言葉使いが悪い子は、どんな美人でも好感をもたれません。逆をいえば、美人でなくとも美しい言葉と奇麗な文字は、育ちの良さを印象付けます。ただ、本性はちょっとした所作であらわになってしまいますから、うわべの姿だけでは通用しません。結局、常日頃から品性と品格を磨くことが大事だということです。
―― どうやって教育していくのですか。
伊藤 基本動作や立ち居振る舞いは見ていれば分かります。
とどのつまり「会話」ができないと仕事は務まりません。でも、最初からは難しいので、まずは、相手の話を聞くことから始めなさいと教えています。ただ、聞く姿勢にしてもうなずいているだけではだめです。相手の話を自分の中に取り入れて、自分の言葉で話せるようにしなければ会話の内容が身に付いていないということになります。
ですから、まずはお客さまと何か共通点がある女性を見つけ、お席に着けられるよう、メンバリングし、話やすい雰囲気をつくっていきます。「彼女はこんな夢を持っているんですよ」と、何気なく自己PRを入れてあげるのです。勘が良く頭のいい子であれば、すぐに自分で話題を見つけて話していけますから。
―― OJT(日常業務を通じた従業員教育)で成長していくのですね。
伊藤 そうですね(笑)。心のつかみ方や、気に入られ方を身に付けながら、やる気のある子はどんどん自分からコツをつかんで吸収していきます。意欲的な子は話の内容も面白いですし、私はこうなりたいといった目標や考えをしっかり持っています。
また、自分の得意な話題を持ちなさいということを常々言っています。小説でも映画でも何でもいいんです。何か、一芸に秀でたものがあれば認めてもらえます。自分を磨かない限りは、お客さまからは決して褒められません。例えば私は、以前、富士山に3回登ったことがあります。せっかちな性格から直登最短の富士宮ルートのみですが、それでも、ご来光を見られたり、日帰りでも登ることができるので、登山レビューをお客さまに説明できるのです。
「一人前」になれる人となれない人の差
―― 一人前になるとは、どういうことでしょうか。
伊藤 長くいる子には、お客さまの担当を持たせていきます。ただしお客さまにも2通りのパターンがあり、担当になることでその子のために頑張って来てくださる方と、私に言えなかったことを担当女性に言ってわがままし放題の方に分かれることもあります。その両方を上手にこなすことができるかでしょうね。その極意を会得して初めて、売り上げとして一人前になれるのです。
―― 一人前になれるか、なれないかの差は。
伊藤 お客さまに対する思いやりの差です。せっかく担当になれてもお客さまに気を遣えない、お礼の電話もできない子は次につながりません。
自分で担当を持つということは、売掛金も責任を待たなければなりません。自分で商売をするわけですから、満足して帰っていただきたいという経営者側の責任感がないとだめなのです。要は信頼感と、人としての優しさが大事なのです。
人のために尽くせる人じゃないと、尽くしてもらえませんから。あとは、強い意志と感謝、それは即ちお客さまへの思いに尽きます。
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