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日印原子力協定調印で太平洋地域に戦略的影響も

核拡散防止条約未加盟国と初めて原子力協定締結

2016年11月12日、安倍晋三首相とインドのナレンドラ・モディ首相は、日本の原子力発電プラントのインドへの輸出を可能にする民間原子力協力協定に原則合意した。日本が核拡散防止条約の未加盟国と原子力協定を締結するのは今回が初めてとなる。

詳細の交渉にあたって、日本政府は、日本から提供された技術をインドが核兵器性能の強化に使用することを防ぐ明確な仕組みを確保する必要がある。インドメディアの報道によると、日印原子力協定が最終的に締結されると、インド・太平洋地域に重大な戦略的影響をもたらす可能性がある。

原子力協定は、過去10年間にわたって日印両政府にとって慎重を期するテーマだった。05年に米国が先頭に立ってインドとの原子力貿易を再開するための取り組みを行い、国際原子力機関(IAEA)および原子力供給国グループ(NSG)に対して、インドが核拡散防止条約に未加盟であることに関係なく、インドに対し信任状を検討し、例外措置を認めることを求めた。

インドと日本は包括的民間原子力協力協定を締結することに成功したが、それがインドの原子力エネルギー部門に大きな影響を与える可能性は低いだろう。

第1に、インドには1984年のボパール化学工場事故という産業災害による暗黒面があるため、外国の原子力企業や外国政府は、曖昧さが残るインドの責任法のことを懸念している。

インドは原子力事故が発生した場合にオペレーターが欠陥設備の提供をめぐってサプライヤーを訴えることのできる「償還請求権」を支持しており、市民はオペレーターを直接訴えることができる。そのため、サプライヤーとオペレーターにとっては巨大な負担となる。

一方で、インドには産業安全性に関する国際基準や国際的慣行が備わっていない。こうした事情により、インドで原子力事故が発生した場合の日本企業の責任などの主要問題をいかに解決するかはいまだ分かっていない。

第2に、協定には、プルトニウムの核実験への悪用を検証・阻止するための仕組みが必要だ。そのためには、使用済み核燃料の再処理から、将来的にインドが核兵器の実験を行った場合の結果に至るまで、プルトニウムの流れ、量および所在を把握する必要がある。日本および国際コミュニティーは、インドが今回の協定を利用して核保有量を増やすのを阻止するために最大限の努力を払う必要がある。

再度核実験を行った場合のインドのリスクとは

第3に、なぜ日本が今回の協定を検討しているのかを観望すると、仮に国際コミュニティーが米国、ロシア、英国、フランス、中国に次ぐ「6番目の核大国」としてのインドの地位を認めたとしても、北朝鮮、パキスタンおよびイランは、核技術の不正取引に関与したことでその資格を失った。

過去に核開発計画を行った可能性のあるその他の国(韓国、台湾、リビア、ブラジル、アルゼンチン、南アフリカ等)は、既に計画を停止している。

今回の原子力協力に関する日本との協定からインドが得ることができそうな唯一の利益は、特に大型の単板原子炉圧力容器の鍛造などの、原子炉部品に関する技術の移転のみであることから、インドは、サプライヤーを多様化し、固有の原子力エネルギー産業を発展させる可能性がある。

もう一つの利益があるとすると、インドに真の技能と知識があれば、プルトニウムと使用済み核燃料をインドの高速増殖炉に使用することができる。このことは、従来型の原子炉に比べてより安全、清潔、安価でかつ核拡散防止型の原子炉であるトリウム炉のインドへの導入を促進することになるだろう。恐らく再度大規模な研究と投資が必要となり、実施するとしても少なくとも50年の年月が必要になる可能性がある。

インドは74年と98年の過去2回核実験を行った。日本人の多くはインドを強く批判した。唯一の主要な懸念は、インドが再度核実験を行う可能性だ。核実験を行うことは、インドにとって核抑止能力を維持・更新するために軍事上必要なことだが、行った場合、今回の協定を弱体化してしまう。

しかし、日印原子力協力は、インド、日本および同地域に持続的な利益をもたらすこともあり得る。そうした進展は、「特別戦略的グローバル・パートナーシップ」という考えに真の意味と実体を与えることになるだろう。

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