経営者コミュニティ「経済界倶楽部」

飲食界のカリスマ経営者がハワイで勝負する理由 ―稲本健一(ゼットンUSA社長)

イゲット千恵子氏

成熟社会を迎え、子どもの教育、就職、働き方など、さまざまな面において、これまでのやり方が機能しなくなってきた日本。難病を抱えながら息子とともにハワイに移住し、事業家として成功を収めたイゲット千恵子氏が、これからの日本人に必要な、世界で生き抜く知恵と人生を豊かに送る方法について、ハワイのキーパーソンと語りつくす。

稲本健一・ゼットンUSA社長プロフィール

稲本健一PHOTOメイン

(いなもと・けんいち)1967年生まれ。愛知県出身。工業デザイナーを経て95年株式会社ゼットンを設立、レストランビジネスをスタートさせる。名古屋、東京を中心に出店を加速し、2006年名証セントレックスに上場。カフェ、レストラン、バー、ブライダル、和食などさまざまな業態の店舗を経営。09年、ハワイアンダイニングの「アロハテーブル」本店をワイキキにオープンし、その後、サーファーズ・カフェ「グーフィー・カフェ&ダイン」、オーガニック・カフェ「ヘブンリー・アイランド・ライフスタイル」を出店。16年2月にゼットン社長を退任し、会長就任。会長退任後は資本業務提携を結んだダイヤモンドダイニングの取締役に就任。海外展開の包括担当の任に就く。

飲食界のカリスマ経営者がハワイでゼロスタートした店づくり

イゲット ハワイに住まれてもうどれぐらい経つんですか?

稲本 明確にいつから住んだと言ってよいのか難しいのですが、今は日本とハワイで半分ずつくらいです。12~13年前からハワイに年間の1/3程度は来ていました。日本とハワイが半々の生活になったのはここ5~6年ですね。それ以前にも食堂ジャパニーズをプロデュースしたり、ムームーコーヒーというコナコーヒーブランドの役員をやったりしていたので、17年ほど前からライフスタイルの中にハワイがありました。

イゲット 稲本さんと言えば、飲食業界のエグザイルみたいな方だと思っています(笑)。

稲本 何ですか、それ?(笑)。

イゲット 先日、日本で開いた出版記念パーティの会場に東京と大阪のアロハテーブルを使わせていただいたのですが、そこで若い男の子たちが一所懸命働いていたのが印象的で。

稲本 男所帯ですからね。

イゲット どちらのお店のスタッフも爽やかな印象でした。稲本さんが若い男性の目標になっているというか、カリスマ的な部分を人材育成にうまく取り入れているんじゃないかなと。

稲本 普通だと思います(笑)。ただ、確かに人に恵まれている部分は大きいですね。

イゲット 日本の飲食業界とハワイの飲食業界で、一番大きな違いはどのあたりだと感じていますか。

稲本 まず業界の違い以前に、僕たちは20年以上日本で飲食業を手掛けてチェーン化しているので、ゼロから始めたハワイとは事情が違います。日本で売上高500億円規模のグループを運営していくのと、ハワイで手掛けている個店、いわば稲本商店のオーナーとしてやることとはまったく違います。ここでは自分はオーナーであり、ディレクターであり、プロデューサーであり、時としてサービスマンでもあるというスタンスです。日本で22年前にやったことを、今ハワイでやっている感覚です。

イゲット リフレッシュしている感覚ですか?

稲本 リフレッシュというか、ハワイに限らず日本以外でお店をやろうとしたときに、日本のチェーンの延長でお店をつくったら失敗すると考えているんです。違う国に行ったら、リセットしてゼロスタート。創業者としてトップに立って、店づくりを一つひとつやっていかなければいけません。よく「なんで成功するのか」と聞かれるんですが、簡単なことで、僕が来て自分でやっているからなんです。

 ハワイに関して言えば、ワイキキは世界最大のショッピングセンターと思っています。毎日何万人もの人が流動して、メインランドアメリカ、オージー、チャイニーズ、コリアン、その他さまざまな人種がいます。人数ベースで言えば、日本人はワイキキ全体の20%しかいません。ですから、ハワイでの戦略はジャパニーズオンリーではありません。

イゲット お客さんも欧米人が多いですよね。

稲本 マーケティングに基づいてやっていますし、商品も日本に合わせて作ってはいません。

イゲット 味も日本人に合わせていないのですか?

稲本 味に関しては、日本人にもOKと思われる味を作ることが世界で通用するために大事なことだと思っています。ただ、アプローチは違います。たとえば、日本人なら朝からブリトーは食べないだろうと思っていても、アメリカ本土から来た人は平気で食べますからね。

 あとは法律や条令も気にしないといけませんし、カントリーリスクという意味ではこれだけさまざまな人種が入り組んでいるので、習慣や宗教まで気にしないといけない。それは働く人も含めて、ということです。日本にはそういうのがありませんから、簡単に言うと違う星で商売をしている感覚ですね。

稲本健一がハワイで勝負するリゾートビジネス

稲本健一Photo3

稲本氏が基本フレームを作った「ヘブンリー」の店内

イゲット お店のコンセプトやメニューづくりや味まで、稲本さんが手掛けているのですか?

稲本 基本はフレームから自分がつくっています。店舗のデザインも100%ではありませんが、自分でフレームをまず作ります。たとえば、(今インタビューを受けている)「ヘブンリー」の壁に掛かっている絵は、何枚かの連作で横長の一枚の絵になっていて、外して一枚ずつになってもそれなりに成立するようなものですが、そうしたものが欲しいという指示は僕が出しました。

イゲット 昔、デザイナーだった影響もあるんでしょうか?

稲本 僕はインテリアデザイナーではなく、プロダクトデザイナーだったのでまったく同じではないですが、共通する部分があるのかもしれません。ちなみに、ヘブンリーはハワイに住むサーフィンが好きなアイランドスタイルの女の子の部屋をテーマにしています。

 今度、サーファーズ・カフェの「グーフィー」も見てもらえばわかりますが、そちらは男の子の部屋がテーマです。そちらでは、商品もボリュームたっぷりでカロリーも多めになっています。ローカル食材を多く使っているのは同じですが、ヘブンリーではオーガニック食材をなるべく優先的に使っています。

イゲット ハワイでは、食材のコストが高くつくのではないですか?

稲本 たとえば、キャベツなどを大量に使おうと思ったらメインランドから船で運ばないといけないし、歩留まりのロスもあるので、どうしても高くなります。ハワイのローカル食材は価値は高いけど量が少ない上に、物流体制も不十分。今日100個入荷できても明日はゼロということもあります。

 こうした状況を、どう吸収していくかがすごく大事なんです。食材を調達できない場合、ほとんどのシェフがネットや電話やFAXで発注したり、ファーマーズマーケットで人間関係を作って食材を回してもらえるようにしたり、そんな努力を一所懸命やっています。そこには頭が下がります。

イゲット ハワイは一定の人たちが出入りするので、季節によってお客さんにばらつくといったことはあまりなさそうですね。

稲本 そうですね。ただ、キングストリートやカパフル通りやケアモク通りは完全にローカルビジネスになっているので、そこにはあまり興味がないんです。ローカルの人たちに来ていただくことも大事なので、そこは上手くミックスしていきたいですが、非日常を人が楽しむことができるリゾートビジネスを行っていきたいと考えています。

ハワイの素材を使った、ハワイでしか作れない「和食」

イゲット これからつくる新しいお店のコンセプトはどういうものですか?

稲本 ハワイでの1軒目はアロハテーブルの本店、2軒目のグーフィーはサーファーズ・カフェ、3軒目のヘブンリーはオーガニックカフェダイニングときて、次は初めて和食にチャレンジします。

 しかもイートローカルで、できるだけ地元の食材を使った和食です。50%以上はハワイの食材、40%くらいがアメリカメインランドから、10%くらいが日本からというイメージです。新しいアイランドジャパニーズとして、ハワイでしか作れない和食を作ります。

 名古屋で試験的にやって大繁盛している「ドメ」という小料理バルがありますが、ドメはドメスティックの意味で、愛知県を中心に三重県や静岡県などの食材を中心に使っています。今回出すお店も、土地を食らうという意味の「地食」をコンセプトに和食を作ります。メインランドでも、同様の戦略業態でやっていくつもりです。

イゲット ハワイもそうですが、アメリカは地元に貢献する人を応援してくれる風潮がありますからね。

稲本 応援してほしいというより、きちんと地元に根付いて貢献したいという気持ちが強いですね。ゲストの立場から言えば、せっかくハワイに来たなら地元の食材を食べたいですから。和食の店がファーストプロジェクトで、セカンドプロジェクトとしてアイランドフレンチも準備しています。フレンチビストロを、カジュアルに楽しめるようなお店をしっかり作りたいと考えています。

アメリカで次の展開を作っていく稲本健一社長

イゲット ゼットンはダイヤモンドダイニングからのTOBを受け入れましたが、現在、稲本さんはどのようなポジションでどのような活動をされているのですか。

稲本 2016年2月末で株式会社ゼットンの代表取締役を降りて会長に就任し、10月にTOBに合意しました。今年5月の株主総会でゼットンの会長職も降板していったん無職になり、翌日のダイヤモンドダイニングの定時取締役総会で同社の取締役に就任しました。

 そして、9月1日に傘下にダイヤモンドダイニング、ゼットンなど複数の事業会社を有するDDホールディングスという会社が設立され、そこの取締役になりました。今の役割は同社の海外事業の包括担当です。ハワイはもうマーケットが一杯なので、メインランドアメリカでM&Aを含めた次の展開を作っていくのが仕事です。

イゲット では、今後はますます海外が中心になるわけですね。

稲本 そうですね。今まで以上に海外の比重が高くなると思います。

イゲット アメリカ以外に海外事業は手掛けないのですか?

稲本 韓国に一部フランチャイズがありますが、今はアメリカしかやっていません。アメリカの事業をもう少し拡大したいと考えています。

イゲット アメリカに注力する理由は何ですか?

稲本 簡単に言うと、食文化というのはある程度成熟した社会のほうが高値のサービスが売れるし、サービスマンのレベルも高いんです。途上国ではスタッフの教育も最初から全部やらないといけないし、普段からサービスを受けている人のほうが、サービスをする側になってもやりやすいですから。

 アメリカは飲食がレジャーの1つとして捉えられているし、その中でかつてないほど日本食にフォローの風が吹いています。そんなアメリカ圏というマーケットで、どんなことができるかチャレンジしたいと思っています。

稲本健一社長が感じるアメリカの「食」と「ライフスタイル」

イゲット 私の周りでも、日本に旅行する目的が食べ物という人は多いです。日本の食文化が、1つのコミュニケーションツールになっている気がします。外国人と交流を持つための話のネタとしても、日本食は興味を持たれます。ただ、最近の日本の食べ物には添加物が多かったりするので、ヘルシー志向のアメリカ人とのギャップを感じることもあるのですが。

稲本 そこは、両軸なんですよね。日本でも格差が広がっているので、中間層以上の人が健康を気にする一方、とにかく安いものを食べたいという層もあります。これまで日本でも何度かマクロビオテックやベジーレスランにトライしていますが、残念ながら日本の食文化はそこまで行っていない印象です。アメリカのほうがそういう部分にビビットに反応はしますが、それがテキサスなどでも通用するかと言えばそれも違って、文化圏によって変わります。

 ただ、ハワイのようにヘルシーなライフスタイルが確立している島では、それに沿った方法でやっているし、ニューヨークに行ったら違うやり方があるかもしれない。場所ごとのニーズがあると思います。

イゲット アメリカの子供たちは、学校の教育の中で、自分たちがどういったものを食べるのかも含めて、どんなライフスタイルを送りたいかを考える機会が多い気がします。

稲本 かたや、良い幼稚園に入ってもおやつが1日3回ぐらいあって、チートスをバンバン食べているという状況もありますよね(笑)。アメリカもそういう部分で歪みがあるので、作り手側はそこに対してあまり神経質になり過ぎないようにしないといけない。あまり頭でっかちにならずに、アウトプットはできるだけイージーに、ファッショナブルにいきたいなと。

 基本的には、青空の下で食べるお母さんのおにぎりに勝るものはないですからね。どんなに凝った料理でも、愛情を込めた塩にぎりに勝てるものはないと思ってこれまで飲食をやってきました。

イゲット 旅行に行って、食べ物が美味しくなければテンションが大きく下がりますからね。多くの人は旅の前によく現地の職を調査されますが、マーケティングで工夫している部分はあるのですか?

稲本 日本はいまだに紙媒体が強い部分があって、データマップとしてはデジタル情報を使っても、ハワイの情報誌みたいなものが強かったりします。われわれは欧米人向けの戦略が必要なので、トリップアドバイザーのランキングなどは、非常に気にしていますね。

自分にしかできないチャレンジをする覚悟

稲本健一PHOTO4

イゲット 事業家として、ハワイという場所から何かインスピレーションを得る部分はあるのでしょうか?

稲本 ハワイは何かがくっ付いてくる場所ではなく、削ぎ落していく場所だと思っています。削ぎ落されて、自分に必要なものが必要なだけ残っていくと言えば良いでしょうか。僕は自宅にテレビも置いていないし、ハワイにいるとライフスタイルがシンプルになっていきますね。

 そういう意味では、ハワイにいる時間が長くなったことによって、事業の軸足も相当影響を受けていると思います。東京だけで仕事をしていたら、今ほど「こうあるべき」「こうありたい」という考えは強くならなかった。ハワイにいること自体、すごくパワーがないとやっていけないし、住んでいる人にしか分からないことが沢山あります。

 だけど、きれいな夕焼けを見たり、山から吹いてくる風を浴びたり、海に入っていたりすると、やっぱりここにいたいと思うんです。すごく不思議だけど。

イゲット 東京だと、やはり時間に追われる感じになってしまうんでしょうか?

稲本 たとえ時間があってもいろんなことが気になるし、ハワイにいると自分と向き合う時間が増えるということではないでしょうか。東京にいるときとはモードが変わりますね。リラックスというのと少し違って、浄化される感覚はあります。

イゲット 逆にハワイで身に付けたことはあるんでしょうか。

稲本 働き方やスタッフへの接し方も日本とは違うし、先人に感謝したり、農家の人たちに感謝したり、ローカルリスペクトみたいな感覚は今の日本にはあまりないものです。日本が失くしてしまったものがハワイにあるし、子供たちの笑い声も沢山ある。日本は公園でボール遊びもできませんからね。

イゲット 私にとっては、子供をハワイで育てられたことはすごく恵まれていました。

稲本 老人がリスペクトされていて、子供が大事にされています。

イゲット 社会全体で子供を育てている感覚はありますね。

稲本 ハワイはリビングコストが全米第2位とか、住みにくいとか言われますが、そういうデータには出てこない良い部分があります。

イゲット 最後に、今後についての考えを聞かせてください。

稲本 今年50歳になって人生の半分を終えたわけですが、会社の仕組みが大きく変わって、ゼットンの会長職を退任して一瞬でも無職になったのは僕にとって大きかったですね。今後は新しい自分に期待もしたいし、新しい場所で戦う思いも強いし、それは楽しみでもありますが、非常に厳しい世界に行くとも思っています。自分は今何ができるかをちゃんと考えて、自分にしかできないことにチャレンジしたいと思います。

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(いげっと・ちえこ)(Beauti Therapy LLC社長)。大学卒業後、外資系企業勤務を経てネイルサロンを開業。14年前にハワイに移住し、5年前に起業。敏感肌専門のエステサロン、化粧品会社、美容スクール、通販サイト経営、セミナー、講演活動、教育移住コンサルタントなどをしながら世界を周り、バイリンガルの子供を国際ビジネスマンに育成中。2017年4月『経営者を育てハワイの親 労働者を育てる日本の親』(経済界)を上梓。

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