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新生ジャパンディスプレイ(JDI)は生き残れるか

一時期は強気の液晶戦略を進めてきたジャパンディスプレイだが、その方針を改めた。主戦場であるスマートフォン向けディスプレーで液晶から有機ELへのシフトが進み、なおかつ財務状況も芳しくない中、経営体制を刷新。新たなスタートに当たり、有機ELへの注力を鮮明に打ち出した。文=村田晋一郎

ジャパンディスプレイが新体制の下、再スタート

 今年6月に就任した東入來信博会長兼CEOの新体制の下、ジャパンディスプレイ(JDI)が再スタートを切った。

 JDIは産業革新機構(INCJ)の支援の下、ソニー、東芝、日立製作所の中小型液晶事業を統合して2012年に設立、14年3月には東証一部に上場を果たした。しかし、これまでの経営状態は決して芳しくはない。上場した14年度以降、3年連続で最終赤字となっており、フリーキャッシュフローも設立以来5年連続で赤字が続いている。

 もともと液晶ディスプレー市場はシャープや、韓国、台湾メーカーと激しい競争を繰り広げており、加えて近年は中国メーカーも台頭してきている。JDIでは、これまでピーク需要に合わせた大規模投資を行ってきたが、変動の大きな市場で、投資に見合うリターンを生めず、フリーキャッシュフローの累積赤字が拡大、減損し構造改革を繰り返すという負のスパイラルに入っていた。

 また、JDIはハイエンドのスマートフォン向けの高精細な液晶パネルがビジネスの中心となっており、現在、売り上げの8割をスマホ向けが占めている。そして製品が評価された結果でもあるが、中国ファーウェイ向けで2割、米アップル向けのみで5割を依存している。16年にはアップルの要望に応える形で、1900億円の巨費を投じて、最先端工場の白山工場(石川県)を建設。しかしアップルが前年発売の「アイフォン6s」の販売不振を受け、16年秋発売の「アイフォン7」の生産調整を図ったため、JDIは白山工場をすぐに稼働できず、16年末になってようやく稼働にこぎ着けた。アップルへの依存が高過ぎることが仇となっている。

 加えて、アップルが今秋発売の「アイフォンX」のディスプレーに有機ELを採用するため、業界全体で液晶から有機ELへのシフトが進むことが予想される。また、中国では国産パネルメーカーを育成し、中国のスマホメーカーが液晶を国内調達に切り替えることが進んでいる。そのため、JDIの液晶事業の展望はかなり厳しいものとなっている。

 こうした事業環境を受けて、16年12月にINCJが総額750億円の追加出資を決定。ただし、INCJはあくまで次世代産業の育成を目的としており、企業救済の出資は建前上できない。そこで、JDIでも有機EL開発に注力する名目でINCJが出資する有機EL開発会社JOLED(ジェイオーレッド)をJDIが買収するスキームを設定。産業革新機構がJOLEDに出資し、間接的にJDIを救済するかたちとなった。ただし、当初は17年度上期中と言われていた子会社化は2度延期され、最終契約が18年6月下旬となり、子会社化の完了は最終契約の内容に従うとして、実質的に未定の状態。追加出資も当初に意図した形態ではなくなっている。

 さらにJDIの経営体制も混乱が見られる。3期連続の赤字の責任をとる形で、17年3月の時点で、会長兼CEOの本間充氏は退任、社長兼COOの有賀修二氏が平取に降格する人事を発表。そして社長にはJOLED社長の東入來信博氏が社長に就任することになっていた。しかし5月になって、本間氏は退任するものの、有賀氏は続投。東入來氏は会長兼CEOとなり、代表権は東入來氏のみが有する人事となった。

 トップ人事を覆す異例の状況からは、経営の混迷ぶりがうかがえるが、それだけJDIの苦しさを物語っている。社長兼COOとして残る有賀氏はセイコーエプソン出身で、ディスプレー業界で豊富な経験を有しており、JDI設立時からアップルなど主要顧客との交渉を担っていた。このため、有賀氏の降格は社内外から不安視する声があった。まだ厳しい経営状態が続くことから、混乱を最小限にとどめる狙いがあったようだ。

 新たにJDIのかじ取りを任された東入來氏は、長らく外資系のディスプレー検査装置メーカーの日本法人代表を務めた。業界での経営手腕や人脈、経験が買われて、15年1月JOLED設立時に社長兼CEOに就任した。今後もJOLEDの社長兼CEOはそのまま兼任する。

JDIとJOLEDが一体で有機ELを推進

 東入來氏は就任後初の公の場となる17年度第1四半期決算会見で「JDIの財務諸表を確認し大変さは理解していたが、実際に引き受けてみると思ったより大変だった。しかしJOLEDを成長させるためにもJDIを引き受ける必要があった」と語った。

 JDIは昨年、高精細技術「フルアクティブ」を開発し、有機ELの市場もフルアクティブの液晶で積極的に取りに行く姿勢を打ち出していた。しかし、ここに来て、有機ELへのシフトは避けられない状況となり、JDIとしても有機ELに注力する方針を打ち出した。今回の東入來氏のトップ就任は、JDIとJOLEDが一体となって有機ELに注力していくメッセージでもある。

 有機EL開発については、現在JDIの事業は液晶がメーンだが、統合前の会社でそれぞれ有機ELの開発を行っており、リソースはあった。JOLEDについては、JDI設立後もソニーやパナソニックには有機EL開発部門が残り、テレビ向けに開発が続いていた。しかし両社は有機ELテレビの製品化に際して、パネルの外部調達を選択。自社でパネル開発を行う必要がなくなったことから、この両社の開発部門が統合され、INCJとJDIが出資して、JOLEDが設立された経緯がある。

 また、JDIとJOLEDでは有機ELの技術が異なる。有機ELパネルの製造方法は大きく、「蒸着方式」と「印刷方式」がある。蒸着方式は、有機ELの発光材料を真空装置内で蒸発させて基板に付着させる。スマホ向けの高精細パネルに対応するが、真空装置が必要で、コストが高くなる。現在、韓国のサムスン電子がスマホ向けで、LGディスプレイがテレビ用で、それぞれ実用化している。また、JDIとシャープも蒸着方式の開発を進めている。

 一方、印刷方式は、発光材料をインク状にしてプリンターのように塗り分ける。真空装置が不要なため、蒸着方式よりも低コストだが、高精細は難しく、中型以上のパソコン用モニタやテレビに向いているとされる。まだ精度に難があり、実用化されていないが、JOLEDは印刷方式で開発を進めている。既に21.6型サイズの4Kパネルの試作に成功し、医療モニタ向けなどにサンプル出荷を開始している。

 当面、JDIはスマホ向けに蒸着方式、JOLEDは中型以上向けに印刷方式でそれぞれ棲み分ける

ジャパンディスプレイのカギは早期の量産立ち上げ

 有機ELに方針転換するとはいえ、JDIが置かれている状況は引き続き厳しい。17年度も既存の液晶事業が主軸となるが、下期にスマホ新製品発表に向けた買い控えがあり、上期の出荷は低調だった。加えて主要顧客で有機ELの採用が進んでおり、液晶の売り上げは伸びづらい。また、新型ディスプレーであるフルアクティブ製品の販売が拡大し、売り上げに貢献するのは18年度以降と見ており、苦しい状況が続く。車載事業は好調だが、まだ全体の規模はそれほど大きくなっていない。このため、17年度の売り上げは前年度比15~25%減を見込んでいる。その一方で、昨年末、白山工場が稼働したことから固定費は増加。さらにこれから有機EL開発を加速させるため、利益を大きく損なう状況が続く。

 東入來氏としては、今回の構造改革と新たに中期経営計画を定めたが、これを「第二の創業」と位置付ける。まず能美工場(石川県)の生産停止、国内外3700人規模の人員削減を断行する。しかし、この構造改革で特別損失を1700億円計上する予定で、17年度は4期連続の最終赤字となることが濃厚となる。このため、17年度を徹底的に構造改革をやりきる年と位置付ける。過剰な生産キャパシティを適正化するなど、収益構造の変革を実行。年間固定費を約500億円削減し、損益分岐点売り上げを現在の8300億円から6500億円にまで引き下げる。

 逆に18年度は顧客のフィードバックから展望が開けているという。今後は事業構成について、モバイル以外を現在の19%から19年度には30%、21年度には45%まで拡大。小型液晶は受注に時間を要する車載や新規アプリケーションなどのモバイル以外に適用する。そしてモバイルにおいてスマホ向けは、蒸着式有機ELにリソースを集中する。

 有機ELについては、18年度から19年度にかけて量産化技術を確立し、19年度から収益に貢献させる方針。東入來氏によると、「有機EL開発は佳境に入っており、マイルストーンごとに顧客評価を得ている状態だという。量産にはまだ課題が多いため、研究開発部隊を茂原工場(千葉県)に集中投下していく」という。将来的には、JOLEDの印刷方式も合わせて、JDIグループ全体で、有機ELのリーディングカンパニーを目指す。

 ただし、量産化、実用化という点では、韓国メーカーが一歩も二歩も先を進んでいる。通常、技術の立ち上げから量産体制の確立までは数年を要するため、現在の韓国メーカーの先行者利益は大きく、追い付くこと自体、容易ではない。近年の電子デバイスの動向は、NANDフラッシュメモリにしても、液晶ディスプレーにしても先行する日本メーカーを後発の韓国・台湾メーカーが追い越していったが、その背景には、国を挙げた資金投入と開発体制の強化があった。JDIも国策企業だが、日本をキャッチアップした時の韓国・台湾メーカーと現在のJDIを比べると、技術開発体制、投入する資金、マネジメントとさまざまな面で劣っている点は否めない。

 JDIの置かれている状況は厳しいが、光明があるとすれば、有機ELはまだ成熟した技術ではなく、今後も開発競争は続くこと。そして、JDIが同じ蒸着方式でもサムスン電子とは異なる「縦型蒸着」という方式を採用していること。縦型蒸着を実現できれば、性能面で優位に立てるという期待がある。ただし、これもまず量産に成功してからの話。一刻も早く茂原の量産ラインを立ち上げることが急務だ。

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