文化の発信地「渋谷」の戦後復興での開発とは
「春の小川」という文部省唱歌がある。発表は1912年で、現代まで100年以上にわたり小学校で教えられ続けている。読者の方も音楽の授業で歌った覚えがあるだろう。諸説あるが、この歌の小川のモデルは渋谷川だといわれている。現在の渋谷川は雨水や下水を流す河川で、歌のイメージはない。
しかし、100年前の渋谷は既に、現在のJR山手線や玉川電気鉄道玉川線(現在の東急田園都市線の一部)が開通していたが、この歌に歌われているような、のどかな田園地帯が広がっていた。昭和に入って、渋谷はターミナル駅としての機能を高め、太平洋戦争末期の「山の手大空襲」で焼け野原となる。
現代につながる渋谷の街づくりは、1950年代以降に戦後の復興としての都市整備で進められた。具体的には、54年に東急会館(現在の東急百貨店東横店西館)、57年に東急文化会館(跡地は現在の渋谷ヒカリエ)、65年に渋谷東急ビル(後の東急プラザ渋谷)、67年に東急百貨店本店といった東急グループの主要施設が駅周辺に次々と開業。渋谷は、「東急の街」として発展していく。
また、64年の東京オリンピックでは、代々木にあった在日米軍施設「ワシントンハイツ」の跡地に主要施設が設けられた。具体的には、オリンピックの放送施設として、現在のNHK放送センターが、重量挙げ競技会場として渋谷公会堂が建設された。これらはオリンピック後に渋谷の文化的拠点になっていった。
その後、68年に当時セゾングループ系列の西武百貨店が進出し、73年にはパルコが開店。東急グループも78年に東急ハンズ、79年に109、89年にBunkamuraを開業し、渋谷は若者文化や流行の発信地となっていった。
若者文化と結び付く形で、2000年頃からはITの街というイメージも強くなっている。もともと渋谷の特徴の一つとして、居住地域が繁華街に近いことがある。特に古いマンションの一室がベンチャービジネスの母体となることがある。ベンチャー企業が成長していく過程で、特にクリエーティブ系やコンテンツ系などイノベーティブな企業の集積が進んだ。そして、20年前にはIT企業の台頭により、渋谷は「ビットバレー」と言われるまでになった。
IT系のクリエーティブな産業を生み出す素地も渋谷の強みになっている。
「渋谷」の百年に一度の大改造とは
渋谷は現在、エリア全体で大開発が進んでいる。もともと64年の東京オリンピック前後までの復興期に建設された施設が、現在の街づくりのベースになっている。これらの建物は老朽化し、建て替えの必要性が生じている。渋谷駅周辺でも、既に東急文化会館が03年に閉館・解体され、12年に当たな複合施設「渋谷ヒカリエ」が開業した。
また、交通ネットワーク強化の観点から13年に東急東横線が地下鉄副都心線と接続し、相互直通運転を開始したが、その際に東横線のホームが地下5階に移動、渋谷ヒカリエと地下でつながった。一方で地上の東横線渋谷駅舎スペースが空くことになり、渋谷駅周辺の再開発を促すことになった。これまで育まれてきた渋谷の強みをさらに伸ばしていく環境を整える。
相直運転開始後、東急は渋谷駅周辺で複数の開発プロジェクトを同時にスタートさせた。最も大規模なものは、渋谷駅街区の「渋谷スクランブルスクエア」で、渋谷駅の直上に東棟、中央棟、西棟の3棟を建設。旧東横線渋谷駅舎跡地に立つ東棟は19年度、JR山手線渋谷駅の直上に立つ中央棟と駅を挟んだ西棟は27年開業の予定。先行して開発する東棟は、地上47階・地下7階、高さ約230メートルで、渋谷の新たなランドマークになることが期待される。高層部はオフィススペース、中低層部は大規模商業施設となっており、さらに最上部と屋上階は展望フロアとなっており、渋谷で最も高いビルからの眺望が楽しめるという。
既に開発が終了したものとしては、宮下町エリアの「渋谷キャスト」があり、今年4月に開業した。渋谷と表参道の中間にあたる、キャットストリートの入口に、地上16階・地下2階の複合施設を建設。上層部が居住施設、中層部がオフィス、低層部は店舗となっているが、多目的スペースなど多くの共有空間やシェアオフィスを設け、クリエーターを中心に新規事業や新しいアイデアを生むような交流をサポートする。
また18年秋開業予定で進めているのが、渋谷駅南街区の「渋谷ストリーム」で、旧東横線渋谷駅ホームと線路の跡地を活用する。地上35階地下4階の複合施設を建設するほか、周囲に遊歩道を配置し歩行者ネットワークを整備。さらに、清流復活水を活用した「壁泉」によって渋谷川を再生し、水辺空間を復活させる。
19年以降開業するものについては、東急プラザ渋谷跡地を含む道玄坂一丁目駅前地区では、地上18階地下4階の複合施設を建設中。オフィス、商業施設に加え、1階に空港リムジンバスが乗り入れるバスターミナルを設け、都市型観光拠点として機能向上を図る。20年以降に開発が完了するプロジェクトもあり、着々と進められている。まさに渋谷は百年に一度の大改造の只中にある。(写真提供:東京急行電鉄)
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