経営者コミュニティ「経済界倶楽部」

目先のことより店のクオリティ維持に重きを置く―稲村一郎(アランチーノオーナー)後編

イゲット千恵子氏

成熟社会を迎え、子どもの教育、就職、働き方など、さまざまな面において、これまでのやり方が機能しなくなってきた日本。難病を抱えながら息子とともにハワイに移住し、事業家として成功を収めたイゲット千恵子氏が、これからの日本人に必要な、世界で生き抜く知恵と人生を豊かに送る方法について、ハワイのキーパーソンと語りつくす。

アランチーノPHOTO2

(いなむら・いちろう)1951年生まれ、東京都出身。医療器具を扱う商社に勤務した後、1987年、家族とともにハワイへ移住。ビールバーの経営を経て、1998年「アランチーノ」をビーチウォークにオープン。ハワイを代表するイタリアンレストランとなる。2003年にマリオットホテルに2号店、13年にカハラホテルに3号店をオープン。18年には北海道、江別に出店の予定。

稲村一郎氏の信念 批判的な意見こそ感謝する

イゲット メニューの決定はどう行っているのですか?

稲村 商社時代からマネージメントしかできないので、まずシェフがメニューを提案して、私を含めて6~10人程度のメンバーから成る試食委員会で試食して決めます。いろんな意見を出しあって、全員が賛成しないとメニューに載せないようにしています。

 私自身が誤解していた時期があって、海外34カ国を回っていろんなものを食べた経験から、舌に自信があったんです。でも、あるとき私以外がみんな「おいしい」と言う料理が出てきたことがあって、年齢を重ねて感覚が違ってきたと思ったので、そろそろ引っ込んだほうがいいかなと。いまだに60代の日本人男性として1票は入れますが、全員一致でないといけないので、「これはまずくて食べられない」という料理がメニューに載ることはあり得ません。

イゲット 人種によって味覚の違いは大きいと思いますが、全員一致にすることで食べられないものが出るのを防いでいるわけですね。

稲村 当然、全世界の人々を満足させることはできません。たとえば、フランスに行ったときのことですが、メニューが読めないから隣の人が食べているのと同じ料理を頼んだら、酸っぱくてとても食べられなかった。フランス人には好まれても日本人には好かれないフランス料理もあるということです。ですからうちの料理は忠実にイタリア料理のレシピーと調理法を守って作りますが、さらにそれが日本人に好まれるテイストかどうかを厳しく判断し全員がOKしたものだけをメニューに載せることにしております。

 サービスの質の維持に関しては、SNSや個人のブログなどの意見も参考にしています。中でも、店に対して辛口なコメントを教材として使っていますね。不評のときは読んで楽しい訳がないのですが、それを無視すると裸の王様になってしまいます。意見を書いてくれたお客様には申し訳ないですが、ポジティブな意見はサッと流し読みする程度です。

イゲット 社内にそうした意見を拾い出す人を置いているんですか?

稲村 はい。SNSやうちのホームページや個人のブログを集中的に見て、批判的な意見には、必ずお礼とお詫びを出しています。それでも不十分なので、覆面調査の会社に不定期に全店を回ってもらって、味やサービス、雰囲気など50~60項目をチェックしてもらっています。僕自身はお店にチェックにはいきません。みんな僕のことを知ってるから、行っても意味がないんです。調査に掛かる費用は決して安くないですが、それによって味とサービスが維持できると考えれば必要なことです。

イゲット なかなかそこまでやる会社も珍しいかと思います。

稲村 どうしても、目先のお金を気にしちゃいますからね。でも、やらないと調査費用以上のロスが出て、場合によっては店が潰れてしまうこともある。病気にならないように、高い薬を飲むのと同じことです。

家族との時間を大切にしたかった稲村一郎氏

イゲット イタリアンを開く前は、ビールバーを経営されていたんですよね?

稲村 焼鳥屋の計画がダメになった後、ハワイになくて素人でもできそうな商売としてビールバーを思いつきました。30年前は、ハワイには日本の生ビールがなかったんです。海外のドラフトビールはありましたが、それも普通の瓶ビールの中身が樽に入っていただけでした。

 料理と違って、生ビールなら売れなくても廃棄ロスがないので、赤字を出さずに営業できました。でも、自分は言ってみれば飲み屋のオヤジになってしまったため、家に帰るのは夜遅くになり、朝は娘が学校に行ってしまって会う時間がなくなった。日曜日にしか家族が揃わなくなって、1週間ぶんの教育をしようと思って娘を叱ったりすると「お父さんと話すのは嫌だ」となってしまいました。これは良い傾向ではないなと思って、ビールバーは他人に場所貸ししました。5~6年経って、娘も大きくなったので、イタリアン料理を始めたわけです。

イゲット 家族との時間が、一番大切だったんですね。

稲村 私自身が、そうやって親に育てられましたからね。一人息子だったので、父親が兄貴のように、いろいろなところに連れて行ってくれました。父もそういうことをするのが好きだったんでしょうね。ところが、自分を見直すと飲み屋のオヤジになって娘と話さなくなってしまって、これで果たして良いのかと。

イゲット 以前の日本は、父親が育児に参加しないのが当たり前でしたが、私も父親と過ごした時間というのは、今でも記憶に残っていますね。子どもを育てることと、経営者として人を育てるという部分に対する思いは、共通するところがあるのかもしれないですね。

北海道で出店計画が進行中と語る稲村一郎氏

アランチーノPHOTO3

イゲット 今度、北海道にも出店されると聞きましたが、それについてお聞かせください。

稲村 いずれは、日本にもアランチーノを展開したいという漠然とした気持ちはあったんです。そこに、ある企業から北海道にアランチーノという店名で出店したいので、ロイヤリティビジネスとしてやってもらえないかというオファーがありました。われわれとしては、食材の面で北海道はとても魅力がありました。うちのシェフも、北海道の食材を使えばすごく良い料理が作れると。

 契約が済み次第、シェフたちをハワイでトレーニングをして、こちらからも年に3回は料理人を北海道に送って、味を維持していく予定です。アランチーノのレシピで料理を提供するとことは、アランチーノの心を提供することですから、しっかりやらせていただこうと思います。

イゲット ハワイは輸入が多いので、食材の原価コストも含めて制約が多いでしょうから、北海道の出店は確かに魅力的ですね。

稲村 ハワイでは、野菜などもできるだけ地元の契約農家などから仕入れて新鮮で安全な食材を使っていますが、現地でつくっていないものは輸入に頼らざるを得ません。北海道は食材が豊富ですから、ハワイ以上にレベルの高いものが出せるんじゃないかと期待しています。

イゲット 場所は、札幌から少し離れているんですよね?

稲村 江別という場所で、アクセスは札幌から15分程度です。北海道からハワイには直行便があって、北海道の人にもアランチーノは良く知られているんです。オープンは18年6月を予定しています。

イゲット ハワイでは出店が計画通りいかないことが多いですが、日本では予定通りにオープンするでしょうね(笑)。

稲村 そうでしょうね(笑)。

イゲット 最後に、将来の目標を教えてください。

稲村 夢に近いですけど、日本のほかにも米国本土、グアム、オーストラリアなどに出店したい気持ちは持っています。あまり急いで質を落としてはいけないので、既存の店をじっくり磨き上げながら、慎重に展開していきたいと考えています 。イゲット千恵子×稲村一郎(前編)

ChiekoEggedDSC_3145(いげっと・ちえこ)(Beauti Therapy LLC社長)。大学卒業後、外資系企業勤務を経てネイルサロンを開業。14年前にハワイに移住し、5年前に起業。敏感肌専門のエステサロン、化粧品会社、美容スクール、通販サイト経営、セミナー、講演活動、教育移住コンサルタントなどをしながら世界を周り、バイリンガルの子供を国際ビジネスマンに育成中。2017年4月『経営者を育てハワイの親 労働者を育てる日本の親』(経済界)を上梓。

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