経営者コミュニティ「経済界倶楽部」

地域に必要なのは「よそ者・若者・バカ者」ではない理由 〜本当に必要な人材の軸とは〜 木下 斉

【連載】誰も言わない地方企業経営のリアル(第3回)

地域活性化では、いつからか「よそ者・若者・バカ者が大切だ」という話がよく出てくるようになりました。しかし、これは名言ではなく、自分でやらない人の言い訳、嘘です。実際にはこれらの属性を持つ人がまちづくりで活躍するシーンはほとんどありません。ではどんな軸を持つ人材が求められているのでしょうか。今回はこれについて解説していきます。(文=木下 斉)

木下 斉氏のプロフィール

木下斉
(きのした・ひとし)エリア・イノベーション・アライアンス代表理事。1982年東京都生まれ。高校生時代からまちづくり事業に取り組み、2000年に全国商店街共同出資会社の社長就任。同年「IT革命」で新語流行語大賞を受賞。早稲田大学政治経済学部政治学科卒業、一橋大学大学院商学研究科修士課程修了。09年一般社団法人エリア・イノベーション・アライアンスを設立。全国各地の地域再生会社への出資、役員を務める。著書『まちづくり幻想』『稼ぐまちが地方を変える』『凡人のための地域再生入門』等。
全国各地の最新情報を配信するnote「狂犬の本音+」(https://note.com/shoutengai
音声で地域のリアルを伝えるvoicy「木下斉の今日はズバリいいますよ!」(https://voicy.jp/channel/2028

「地域にはよそ者・若者・バカ者が大切」の嘘と現実

 地域分野ではいつからか、「よそ者・若者・バカ者」が大切と言われるようになりました。その起源ははっきりとしませんが、私が商店街活性化、地域活性化などと言われる分野に関わるようになった20年前にはすでにこの言葉は使われていたと記憶しています。

 この言葉には、地域活性化には次の3つが組み合わさるといいという意図が見えます。

・外の世界から相対的に地元を見て企画を組み立てる人

・従来の常識に縛られない行動力ある若者

・バカとも思える思い切った行動を取る地元の人

 これ自体は確かにそういうときもあるよね、とも思えるのですが、実際にそれでうまくいっているのは一部です。

 実際には、外部人材は大切ですが、一方でよそ者にできることは限られます。若者という活力ある人材の存在は大切ですが、若者だけでできることもまた限られます。地元のバカ者というような人ができることもまた、地域では限られるのです。大抵の地域では「よそ者・若者・バカ者」の挑戦なんてものは、地元の多くの人たちから叩かれ、潰されて終わってしまうのが現実です。

 もう少し詳しく見ていきます。地元を離れたら2度と帰ってこないなどというパターンばかりではなく、最近ではUターン組のように外の世界を見て戻ってくる人も多数いて、そうした人が活躍することも多くあります。そうした人たちは、決してバカではなく、ちゃんと教育も受けて、それなりの企業で勤めたり、自分で事業を立ち上げている人もいます。

 また、若いからといって考え方まで全員が若いかと言えば、意外と保守的で伝統的な、補助金をジャブジャブ活用した地域活性化にのまれていく人たちもいますし、若いけれど年寄りよりも凝り固まった思考や行動を取る人もいます。一方で年寄りでもガンガン投資して動く人います。

 あとはバカのように思える思い切った行動力のある地元の人でいいかと言われると、これは一定のレベルを超えてくると困るところもあります。行動力は必要ですが、一見してバカのように思われるのではダメで、ある意味圧倒的な存在感は必要です。地域のヒエラルキーから完全に外れ、「あいつあれが好きだからね」「あいつはバカだ」と言われることをやっているだけではダメなのです。

 地域で一定のリスペクトに達する人、一定の信頼を勝ち取ってきた人が、挑戦するに越したことはありません。地元でそれなりの店、会社をちゃんと経営している人のほうが突破力はあり、バカだと言われてしまうような挑戦も一目置かれるのです。バカが本当にバカなことやっていたら、全く話になりません。

名言ではなく、自分でやらない人の保身の言い訳に

 このような言葉が流行る背景として、傍観者的な地域の偉い人たちからすると、「わが意を得たり」となるような名言に聞こえるためというところがあります。同時に、地元で何かしなくてはならないけど、自分は動けない理屈として「うちにはよそ者・若者・バカ者がいないからダメだ」といった言い訳に使えるという側面もあります。大多数にとっての都合のいいバズワードになっているのです。

 結局のところ、自分がやらない理屈なんですね。同じような話で、「うちは閉鎖的だ」とか、「出る杭は打たれる」という言葉もあります。しかし、閉鎖的でないコミュニティなどは存在しないですし、出る杭が打たれるなんてことも当然の話で、だからできないという理屈には本来つながらないのです。

 そもそも、閉鎖的だろうと、出る杭は打たれるだろうと、やる人はやるわけです。けどやらない。やれないのではなく、やらない。やらないのが「自分の保身のために怖いからやりたくないんです。絶対に損したくないし」とか本心で言ってくれればよいのですが、なぜか地域のせいにするんですよね。テロワール(土地の特徴)の責任的な。いやいや、畑が悪いのではなく、あなたの作り方が悪いんですよ、と申したいわけです。どの地域でもやりようはあって、あとは覚悟を決めて投資して事業を小さくとも始めるほかないわけです。

地域活性化に必要な「信用・経験・投資」の軸と人材

 それでは地域にはどのような人材が必要なのでしょうか。

・地元に何代も続く事業をしているなど信用を持っている人

・ある程度の事業経験を積んできた人

・地域事業に投資をする人

 結局単なる属性ではなく、事業という側面においては「信用」「経験」「投資」という3つの軸が必要になります。

 まず、地域における取り組みにおいて、積極的な機能としても当然信用というものは大いに機能します。新たな事業について信用力を持って地域で押さえるべき人を巻き込んでいく上でも大切です。どこの馬の骨かわからない人が急に何かをしようとしても、地元の人たちは不安になり、その不安が攻撃的な潰しにつながることもあります。

 しかし、信用がある人がいれば「あの人がやることなら」というだけで安心につながります。少なくともその人(や先祖)が数十年その地域にいるという信用は重要です。私が地域で事業を起こす際にも、現地でパートナーシップを結ぶ企業にはこの信用の面を強く意識しています。

 さらに、事業についても年齢が若ければいいのではなく、一定の知識や経験を積んだ人が加わっていることは大切です。そういう意味では、単に新規創業だけでなく、すでに数代にわたり事業を継承してきている地元企業のトップの動向は大切です。存在感ある地元企業のトップが事業承継によって、30~40代くらいの世代へとバトンタッチされたときはチャンスです。

 このような人材が地域で新たな挑戦を仕掛け、「第二の創業」のような新たな事業を立ち上げることは、地域経済に大きなインパクトを生み出します。北海道において、一般財団法人「えぞ財団」という組織を立ち上げ、共に取り組みをさせてもらっているのですが、そこの中核企業はサツドラホールディングスの富山浩樹社長です。彼のように地元を代表する企業を事業承継し、さらに既存事業のみならず周辺事業にも積極的に関わっていく姿勢がある経営者はとても大切です。

 同時に、単に口だけでなく、「やるべき投資」をしっかりとする人たちも大切です。お金を貯め込んで、無借金だからと投資さえせずに食い潰していく地主のいるまちは潰れます。それどころか資産運用だといって、地元には投資せずに関係のない地域への投資ばかりしている人も困ったものです。やるべき投資を惜しまず、地域事業を育てていく姿勢を持っている人たちが多い地域は発展していくものです。

 滋賀県長浜市の中心部再生に貢献した株式会社黒壁も、当初地元JC(日本青年会議所)出身の40代経営者たちが1,000万円ずつ出資してできた会社であり、人っ子一人来ないまちを100万人以上の観光客が訪れるまちへと再生しました。人も企業もまちも投資なくして成長なし、なのです。

 このように、まっとうに考えればわかることなのですが、「よそ者・若者・バカ者」といった奇をてらったコンビネーションよりも、信用ある人物、事業経験を持つ経営者、ちゃんと地場事業に投資する地元資本家といった王道のコンビネーションこそ大切なのです。

 地域で立場を持つ人たちこそ、他力本願にならず、自分たちにこそできることと今一度向き合うことが必要です。