ビジネスマンや学生から大人気のチープカシオ
時計は必要ないと言っているスマホユーザーが、にわかに腕時計をするようなったのはカシオのおかげかもしれません。アマゾンの腕時計男性ランキングで、最近もっぱら一位を獲得しているのが「CASIO STANDARD(カシオ スタンダード)」です。
この時計は数年前から、ビジネスマンはもとより学生からも人気が高まっている、知る人ぞ知る別名「チープカシオ(チプカシ)」と呼ばれている製品です。あえてシンプルさでアプローチし、安いのに高クオリティチーという意味を込めて、愛称で呼ばれています。
一方、時間の正確さ優先なら、高機能路線を行くシチズンのチタン製電波ソーラーもお勧めです。電池交換が必要なく、毎日電波で時間を自動調整してくれる機能付きで、厚さ9.7mmとなっています。
筆者も手巻き高級時計を使っていた時代がありますが、巻き忘れて飛行機を乗り逃して以来、出張やミーティング時にはシチズンの電波ソーラー時計とチプカシを併用で使っています。試験や授業の時間を秒単位で意識している学生などにとっては、この2つが合わさった腕時計がベストかもしれません。
なぜ、チープカシオが若者に受け入れられているのか?
携帯電話、スマホが普及して、若者や学生の多くが腕時計を敬遠しだしました。「時計なんてスマホで見ればいい」という風潮もある中、チプカシの登場で「やっぱりスマホをいちいち取り出すのは面倒」と、腕時計の便利さが再認識されたことが、人気の秘密でしょう。
特に、スマホが取り出せない試験中やバイトで忙しい時などは、チプカシが大活躍していそうです。腕時計が、かつて主流だった懐中時計と同じ運命をたどりそうにも思える中、やはり確実に便利な製品であると思わせてくれます。
この時計は1980年代の発売で、本来海外向けなのですが、ホームセンターやインターネットを中心に今も売れ続けています。
その理由は、必要最低限の仕様にして時間を見ることだけに最適設計したからではないでしょうか。視認性が抜群に良く、本体質量はわずか20グラム以下、サイズは縦33mm×横33mm×厚さ8mm(ラグ、リューズは除く)、重さ20g、腕周り最大19.5cm、最小13.5cmとなっており、男性・女性を問わず気軽に装着でき、日常生活防水仕様となっています。
しかも、定番の白い文字盤は価格がわずか939円(税抜きアマゾン2018年8月11日現在)と格安であることも見逃せません。電池も約2年は持ちますし、仮に電池切れでもドライバーを使って裏蓋を開けてボタン電池を取り替えればOK。壊れなければ何年でも使い続けることができます。
カスタマイズも楽しめるチープカシオ
筆者は3年ほど前よりチプカシを数本所持して、普段の生活だけでなく、講演やセミナー、企業研修で講師を務めるときなどにも使用しています。
見た目は確かに安っぽいのですが、視認性が抜群で薄いので、ごつごつした自己主張の強い高級時計を身に着けて講演をするよりも、時計が主張しすぎずに良いと感じています。
私が愛用しているのは、黒文字版と白い針と文字の一番視認性が良い製品です。本体は黒色ですが尾錠がシルバーなので、尾錠を染めQという、最先端のナノテクノロジーを駆使した染色系塗料で黒く塗っています。時計をマスキングして、「ミニ染めQ エアゾール70ml ブラック」を尾錠だけにさっと吹きかけて、写真のようにつや消しブラックにします。そして、16mmのナイロンストラップを着けて肌に馴染むカスタマイズをしています。
時計に元々付いているベルトは、スキューバ時計ベルトようにゴムっぽく腕に着けづらいので、黒色ナイロンベルトにして着け心地を良くしています。
カシオの鉄板はカシオスタンダード
筆者は定番の白文字盤に黒い文字のバージョンも所持していますが、こちらもまた、オシャレで素晴らしい作りだとつくづく感じています。カシオ スタンダードは、文字盤やデザインが数種類あって、自分の好みに合うものを手軽に選べるというのも売れている理由として納得できます。
実際にビジネスシーンでも、外資系企業の年配の方や大手家電メーカーの女性マーケティングマネージャーなどが、この時計をしているのを見たことがあります。さらに、TV局の女子アナや大物政治家、面白いところとしては、映画「バック・トゥ・ザ・フューチャー」でマイケル・J・フォックスが扮する、主人公のマーティーが身に着けていました。
チープカシオが流行るマーケティング上の理由
カシオスタンダードが流行ったのには、マーケティング的に理由があると考えています。スティーヴ・ジョブズが常にシンプルで上質なミヤケの黒シャツを着るように、あえて“普通を身に着ける”という、ノームコア(究極の普通、ノーマルとハードコアをつなげた造語)の概念・哲学発想の延長で売れたのだと分析できます。
世の中の風潮が、「普通」や「素朴」、「質素」などへ回帰しているのは事実でしょう。ニューヨークを皮切りに、普通すぎるファッションが逆にカッコ良いと思われているこれからの時代は、見栄を張るよりも、本当に使い勝手の良い普通のモノが売れていく時代なのだと痛感します。
普通の製品は、場所や雰囲気にそぐわない場面もあるでしょうが、あえてノームコアな900円台の腕時計に魅了されてみるのも悪くないかもしれません。
山本康博氏の過去記事はこちら
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(やまもと・やすひろ):ビジネス・バリュー・クリエイションズ代表取締役、ブランドマーケッター。日本コカ・コーラ、JT、伊藤園でマーケティング、新商品企画・開発に携わり、独立後に同社を設立。これまで携わった開発商品は120アイテム、テレビCMは52本製作。1年以上継続した商品を計算すると打率3割3分、マーケティング実績30年。現在では新商品開発サポートのほか、業界紙をはじめとしたメディア出演や連載寄稿、企業研修、大学等でのセミナー・講義なども多数実施。たたき上げ新商品・新サービス企画立ち上げスペシャリスト。潜在ニーズ研究家。著書に『ヒットの正体』(日本実業出版社)、『現代 宣伝・広告の実務』(宣伝会議)、英語著書『Stick Out~a ninja marketer~』(BVC)など。
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