大阪万博開催決定に後押しを受ける関西経済
ピカチュウ、キティも 大阪万博誘致を手助け
2018年11月23日深夜、パリから朗報がもたらされた。この日、開かれたBIE(博覧会国際事務局)総会で、25年の万国博覧会に開催地が大阪に決定したのだ。
立候補していたのは、大阪以外にアゼルバイジャンのバクー、ロシアのエカテリンブルクの計3都市。中でもロシアでは過去に万博を開催したことがないこともあり、大阪と熾烈なデッドヒートを続けていた。
第1回の投票では、1位大阪85票、2位エカテリンブルク48票、3位バクー23票となり、予想どおり大阪とエカテリンブルクの決戦投票となり、92対61で大阪に凱歌が上がった。
思った以上の大差がついた理由について「ピカチュウとハローキティのおかげ」と言うのは、ある大阪の企業経営者。日本を代表するキャラクターであるピカチュウとキティは、大阪万博誘致の特使に任命されていた。
誘致のポスターにも両特使が登場したほか、現地で配布した資料のパッケージにも特使の姿が印刷されていた。そのため、ほとんどの人がこの資料を受け取ったという。それが功を奏したのではないかというのである。
この特使の頑張りもあり見事万博開催を勝ち取った。
総会会場には世耕弘成・経産相や松井一郎・大阪府知事、誘致委員会会長の榊原定征・前経団連会長、松本正義・関経連会長が駆け付けていたが、誘致が決定した瞬間、抱き合って喜びを爆発させた。
また大阪市の中之島センタービルに設置された中継会場では、松下正幸・関経連副会長(パナソニック副会長)らがくす玉を割って、祝福した。
大阪万博の場所は夢洲、入場者は2800万人に
大阪万博の場所は大阪港の埋立地、夢洲で、25年5月3日から11月3日までの185日間にわたって開催される。この間の入場者は2800万人と想定されている。
テーマは「いのち輝く未来社会のデザイン」。サブテーマに「多様で心身ともに健康な生き方」「持続可能な社会・経済システム」とあるように、人口問題や環境問題、資源問題、先進国における高齢社会の進行など、世界が抱える課題を解決する万博となるはずだ。
単なる展示会ではなく、世界80億人がアイデアを交換し、未来社会を共創する場とすることを目指す。
誘致委員会会長を務めた榊原氏は「AIや仮想現実(VR)など最先端技術を活用した医療・健康、スポーツや娯楽、新ビジネスを一堂に集め、世界の人々に経済・社会の未来像を示す」と言う。
さらには「経団連会長時代、Society5.0を提唱してきた。これはIoTやAI、ビッグデータやロボットなど、最先端のデジタル技術を駆使することで、生活や社会を最適化し、効率を高め生産性を高めていくことで日本の成長力を上げていこうというもの。大阪万博はSociety5.0の実験場。その成果を世界に発信していく」とも語っている。
関西財界が総力を挙げて大阪万博を支援
会場の夢洲は、もともと08年五輪に立候補した際、会場となるはずだった土地だ。
そのため地下鉄用のトンネルが既にできており、開発の時間が短縮できる。一部、埋め立てが完成していない部分もあるが、誘致決定後、大阪市は140億円の予算案を可決し、インフラ整備に充てるとしている。
今後は、国際博覧会協会を設立する必要がある。05年の愛・地球博の時は、協会会長に豊田章一郎・トヨタ自動車名誉会長が就任した。
この万博は、資金面でもトヨタが最大限のバックアップをしており、「トヨタ万博」と呼ばれたほどだった。今度の協会会長は現段階では経団連会長の中西宏明・日立製作所会長が就任する公算が強いが、資金面では関西財界が協力してサポートしていくことになりそうだ。
25年大阪万博には、関西経済の起爆剤としての役割も期待されている。その経済効果は2兆円ともいわれる。
夢洲のインフラ整備やパビリオン建設、あるいはインバウンドの増加によるものだ。しかもこれを一過性に終わらせることなく、未来への投資とすることができれば、その経済効果はさらに大きくなる。
関西にとって幸いなのは、経済を成長させる要素が、万博以外にも多数あることだ。総論で触れた「ラグビーワールドカップ2019」や21年の「ワールドマスターズゲームズ2021関西」もそうだが、他にも、さまざまな開発計画が控えている。
関西地区の再開発計画と経済波及効果
大阪万博と同じ人工島へのIR誘致に当確灯る
その中で最大のものは、IR(統合型リゾート)の建設だ。
IRはホテルや会議場、レストラン、ショッピングセンター、そしてカジノなどからなる複合施設。IRといえばカジノばかりに注目が集まるが、それ以上に重要なのがMICE機能だ。
MICEとは企業等の会議(Meeting)、企業等の行う報奨・研修旅行(Incentive Travel)、国際機関・団体、学会等が行う国際会議(Convention)、展示会・見本市、イベント(Exhibition/Event)の頭文字を取ったもの。つまりIRで国際的イベントを開催することによって、多くの外国人を招くことが可能となる。
ただし、財政的な事情もあり、MICEのための施設を民間で造ろうとしてもそれだけでは赤字が必至なため、名乗り出る事業者はいない。そこでカジノを併設することで、収益的裏付けを与えようというのが、IRだ。
無論、大阪にIRが誕生することが決まったわけではない。昨年7月、国会でIR実施法が成立し、いよいよ実現に向け動き始めたが、誘致に手を挙げているのは全国で10カ所以上もある。この中から2、3カ所が選定される予定だが、中でも大阪は最有力だ。
なぜなら大阪のIR予定地が夢洲だからだ。夢洲の開発計画は3期に分かれているが、第1期が、人工島の北側で、ここにIRが建設され、第2期が万博開催地だ。
つまりIR候補地と万博開催地が同じ島にあるため、インフラ整備などの開発費が、それぞれ単独で開発するより大幅に削減できる。
しかもIRは早ければ24年に開業する。そうなれば万博の客をIRに、MICEで訪れた人を万博へと相互送客できるため利便性も高い。
さらにすぐ近くにはUSJがある。この3つが結び付くことで、大阪湾地区の魅力は非常に高くなる。こうした条件が整っているのなら、IRを認めないほうが不自然だ。大阪のIRに既に当確が付いていると言われるのはそのためだ。
IR建設で期待される経済効果
日本ではいまだカジノに対する嫌悪感が強い。ギャンブル依存症の問題やマネーロンダリングなどの心配があるのも事実だ。
しかしこうした問題はきちんと対策を立てることで最小限にとどめることが可能だ。
その好例がシンガポールで、国民からは約8千円の入場料を取る(外国人は無料)ほか、家族からの通報で入場禁止にできるなどの依存症対策を行っている。その結果、シンガポールでは05年にIRが誕生してからの10年で、観光客数は2倍に、観光客の落とすお金は3倍に増えた。国際会議開催件数もIR誕生後、世界一になった。
日本における国際会議のほとんどは東京またはその周辺で開かれている。東京以外の各地にも大型施設はあるものの、稼働率はそれほど高くない。
しかしそれは、国際会議場が単独で運営されているためだ。IRのように会議の時間以外に楽しむ場所があれば、どうせ開くならIRで、という選択肢は当然出てくる。
さらにはIRでの会議なら、夫人同伴で参加するケースも増えてくる。経済効果はその分大きくなる。
経済効果は大阪だけでなく関西全体に波及か
開発が進むのは夢洲だけではない。夢洲に隣接する人工島、舞洲(まいしま)は、スポーツの拠点としての整備が進んでいる。
その中核となるのが舞洲スポーツアイランド。オリックス・バファローズに2軍本拠地球場として使用されている舞洲ベースボールスタジアムや、セレッソ大阪が練習場として使用するセレッソ大阪舞洲グラウンドがあるほか、アリーナやテニスコート、オートキャンプ場などがあり、パラグライダーも体験できる。スポーツイベントが毎週のように開かれているほか、コンサートなどにも使用されている。
内陸部でも開発は進む。
大阪駅の北側には16ヘクタールの大きな空き地がある。これはもともと国鉄の操車場だった場所。そのうちの3分の1は開発され(うめきた1期)、誕生した大型複合施設「グランフロント大阪」は、大阪駅周辺の人の流れを大きく変えたといわれている。
そしてこれから始まるのが「うめきた2期」の再開発だ。開発を担当するのは三菱地所を中心とするジョイントベンチャー。このJVのメンバーの多くはうめきた1期にも参加している。
うめきた2期では、中央部分を公園として整備するが、これは敷地全体の半分を占める広大なもの。北側にはイノベーションを目指す産学官民の交流ゾーンを設け、南側にはMICE機能を持つ都市機能集積ゾーンとなる。
完成予定は24年。つまりこれから大阪は、25年の万博開催に向けて、さまざまなイベントや開発が行われる。
この影響は大阪だけにとどまらず、関西全体に波及する。もちろん、これらをより有効なものにするには、「産業の基盤となる交通・物流インフラの整備・強化が不可欠。リニア中央新幹線、北陸新幹線の大阪までの早期開業やスーパー・メガリージョン構想の実現、高速道路のミッシングリンク解消のほか、関西3空港の最適活用、阪神港の活性化などを進める」(松本正義・関経連会長)ことが必要だ。
課題は多い。しかしそれを乗り越えれば、関西の未来は明るい。
経済界 電子雑誌版のご購入はこちら!
雑誌の紙面がそのままタブレットやスマートフォンで読める!
電子雑誌版は毎月25日発売です
Amazon Kindleストア
楽天kobo
honto
MAGASTORE
ebookjapan