人にも環境にも優しい「ヤシノミ洗剤」でおなじみのサラヤ。SDGsが注目されるずっと前から環境や人体への配慮に取り組んできた。その源流はどこにあるのか、2代目社長の更家悠介氏に聞いた。聞き手=和田一樹 Photo=北田正明(『経済界』2019年8月号より転載)
更家悠介・サラヤ社長プロフィール
サラヤ創業の経緯と社会問題との関わり
社会問題をビジネスで解決してきた歴史
—— 環境への配慮が根付いているのはなぜでしょうか。
更家 当社の事業領域の性質上、社会問題と共に歩んできたというのが理由になりますが、重要なポイントは3つあります。
まず、創業者である父・更家章太は終戦を迎え、やがて都会に出ました。1952年当時、日本では赤痢が流行っており、父は近畿大学の応用化学部の前身である大阪専門学校を卒業していたので、手洗いや消毒のできる器具、薬剤の販売を始めました。こうして手洗いをビジネス化したのです。創業時からして社会問題と接点のあるスタートでした。
2番目に、60年代の出来事です。当時は大気汚染が深刻で、重工業地帯では従業員や周辺地域の学生がのどを痛めていました。そこでうがいが推奨されることになり、うがい薬が感冒予防というよりも大気汚染対策で役立つことになったのです。
そして3つめの理由も同じく社会問題と関連します。60年代というのは、石油系合成洗剤の排水が分解されないことによって、河川での魚の大量死や水質汚染が社会問題化していた時代です。ヤシノミ洗剤を発売するのは71年になってのことですが、石油系洗剤による公害へのアンチテーゼとして、手洗いせっけんの原料で使っていたヤシ油を原料とする植物系の洗剤を作ったことで市場の評価を受けました。
このように社会問題の解決をビジネスを通じて提案することができ、受け入れられた。これが当社の歴史なのです。
—— ビジネスで解決するという視点は大切ですか。
更家 二宮尊徳が「道徳なき経済は罪悪であり、経済なき道徳は寝言である」といったとされるように、理屈ばかりこねていてそれが寝言になってはいけません。
ビジネスは実践なので、きちんと成果を伴っていかないと潰れてしまう。善意だけで良い格好しようと思っても3年くらいで厳しくなってしまいます。5年、10年と続けるならば、ビジネススキームの中に組み込む方が結果的に長続きするのです。
情報公開して消費者に提示
—— サラヤといえば自然派商品が代名詞で、安心・安全な商品を数多く販売してきました。
更家 SDGsでいえば「12・つくる責任つかう責任」に該当しますね。つくる責任というのは当社の強みと合致すると思います。
しかし、より確かな取り組みにするためにはやはり消費者の方と一緒にやらないといけない。メーカーも消費者もパートナーシップでやろうということで、その1つの実践として、消費者庁に社員を出向させ、人や環境に配慮した消費行動である「倫理的消費」の普及に取り組んでいます。
今の時代、とにかく安ければいいということだけが消費者のニーズではありません。近年、消費者サイドの意識が変わってきており、生産地や調達過程などサプライチェーンのことを気にされる方が増えました。
企業側は今まで以上に情報公開をしなくてはならないと思います。きちんと情報公開をして、「少し高いけれど環境に配慮している商品と、値段は安いけれど環境負荷の大きな商品どちらがいいと思いますか?」と消費者に提示するのです。
「衛生・環境・健康」領域へのサラヤの取り組み
10年以上の取り組みが会社への信頼を生む
—— 情報開示という点では、ボルネオ島の状況を発信してきました。
更家 ボルネオ島では自然保護活動を行い、原料であるパーム油の持続可能な調達に取り組んでいます。
ボルネオでの生物多様性保護の取り組みは2004年から行っていますが、きっかけはサラヤも使用するパーム油の生産が環境に悪影響を与えていると指摘されたことでした。
04年にはRSPO(持続可能なパーム油のための円卓会議)が作られ、翌年には早速会員になりました。これは人権や環境に配慮した持続可能なパーム油産業の在り方が話し合われる国際会議です。そして06年10月にはBCT(ボルネオ保全トラスト)が設立され森の再生に向けた取り組みが推進されることになりました。
当社は、トラストの活動資金として07年からヤシノミ洗剤をはじめとするパーム油利用商品の売り上げの1%を寄付しています。
問題が発覚した当初は、「サラヤさん見損なった」とか、「なんで他の油使わなかったのか」など、消費者の方々からさまざまな声を頂戴しました。
しかし、ヤシノミ洗剤が生まれた当時は、他の植物油などを原料にすると値段が上がってしまい、消費者の支持をいただくのが難しい。半面、パーム油は安くて性能も良く、これならば市場の支持も受けられるだろうと消費者の方ばかりを向いていました。サプライチェーンの方にあまり意識が向かなかったのです。
ヤシノミ洗剤が消費者の皆様に対する当社の顔でもありますので、04年の取り組み以降、商品に寄付の話やボルネオの状況を表記して、この森をみんなで守りませんかというキャンペーンにつなげていきました。
ヤシノミ洗剤が、お客さまと生産地をつなぐツールになり、サプライチェーンがバリューチェーンに変わったのです。もちろん手に優しいですとか、分解されやすいですとか、他にもバリューはあります。しかしながら10年以上真面目にやってきたことが、会社の信用というバリューも生み出し、さらにいい循環を生んでいます。
地球環境は企業の持続可能性に直結する
—— ウガンダでの取り組みも力を入れています。
更家 10年から、当時は乳幼児死亡率が世界でトップクラスに高い状況だったウガンダで衛生改善に取り組んでいます。具体的な取り組みとしては、手洗いの普及・啓発や、消毒剤の現地生産です。
12年には、産科病棟でもかなりの割合で手を洗わずにお取り上げをしているという事実が調査などで分かってきましたので、手指の消毒を広める「病院で手の消毒100%プロジェクト」を行っています。
持続可能という視点で考えてみると、もちろん地球規模の問題です。しかし自分の企業に置き換えると、例えばウナギを扱っている企業ならば、ウナギの生息状況は自分の企業の持続可能性に直結します。
そういう意味でSDGsは、一見縁遠い言葉で語られているかもしれませんが、分かりやすい言葉に置き換えてみるとその影響がいかに身近な活動に刺さるのかが分かるはずです。
今後も、「衛生・環境・健康」の事業領域で、当社ができる取り組みを続けていきたいと思います。
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