経営者コミュニティ「経済界倶楽部」

新型コロナに負けない!「免疫力を高め社員の健康を守る最新の脳科学」

西剛志

意思決定、行動、やる気から、集団心理に至るまで、私たちのあらゆる活動に深く関わっている「脳」。本コラムでは、最新の脳科学の見地から経営やビジネスに役立つ情報をお届けします。(写真=森モーリー鷹博)

筆者プロフィール

西剛志氏

(にし・たけゆき)脳科学者(工学博士)、分子生物学者。T&Rセルフイメージデザイン代表。LCA教育研究所顧問。1975年生まれ、宮崎県出身。東京工業大学大学院生命情報専攻修了。2002年博士号取得後、知的財産研究所に入所。03年特許庁入庁。大学院非常勤講師の傍ら、遺伝子や脳内物質に関する最先端の仕事を手掛ける。現在、脳科学の知見を活かし、個人や企業向けにノウハウを提供する業務に従事。著書に『脳科学的に正しい一流の子育てQ&A』(ダイヤモンド社)がある。

Q:社員の健康を守るために今できることはありますか?

A:運動、人とのつながり、現実的な楽観主義が大切になります。

社会不安を感じる脳と健康の関係

 現在、世界的な新型コロナウイルスの感染拡大にともなって、多くの企業から不安の声が上がっています。会社経営において売上は大切ですが、それを生み出す社員やスタッフが健康でなければ、会社を運営することもできなくなってしまいます。私が普段お付き合いしている企業の方からも科学的な知見がほしいとご要望をいただいたり、社員の健康について質問をいただくことも増えてきました。

 私自身はウイルスの専門家ではありませんので、現状に関する分析については専門家の方に譲りたいと思いますが、脳の状態は私たちの健康にも大きな影響を与えていることが科学的に分かっています。

 また、ひいては私たちの免疫力にも影響することが示唆されてきています。そこで今回は現在の社会情勢や環境に不安を感じている人に少しでもお役に立てるように、脳と免疫についての最新の事実をお伝えしたいと思います。

免疫力を高める脳の状態とは

 私達人類は有史以前から、体を健全に保つために免疫というシステムを発達させてきました。免疫系は侵入したウイルスを異物として認識し攻撃するため、24時間常に生体を病気から守ってくれています。

 そして最新の研究から、免疫反応は「脳の状態」と密接に関係していることも分かってきています。代表的な例は「ストレスが免疫に及ぼす影響」です。

 ストレスが多いと脳の側坐核という報酬系の血流が悪くなり免疫が下がりますが、笑うと逆に報酬系が活性化して免疫力がアップする(ナチュラルキラー細胞が活性化される)ことが知られています(*1)。『病は気から』という言葉がありますが、まさに脳の状態で免疫力が変化しうることが示唆されているのです。また十分な栄養も免疫力アップに大切なことも分かってきています(*2)。

 免疫力を高めるためには様々な方法がありますが、今回はその中でも誰でも簡単にできる方法をお伝えしたいと思います(あくまでも一般的な免疫の話になりますので、その点のみご了承いただけると幸いです。新型コロナウイルスに対する効果は今後の論文で精査が必要になっていくと思われます)。

免疫力を高める4つの方法

・適度な運動をする 

 昔から運動は健康に大切と言われてきましたが、実際に適度な運動は脳を含めた体全体の血流を促進するため、血中の白血球やリンパ球を始めとする細胞が増えて免疫が全体的に活性化されることが報告されています(*3)。しかし、過剰な激しい運動やトレーニングは禁物であることも分かっています(図1)。

 例えば、マラソンやトライアスロンのような過酷な持久力要する運動では、競技から2週間で50〜70%の選手がウイルスに羅漢しやすく、そのリスクは2〜6倍になるとも言われています(*4,5)。

 息が切れるような激しい運動を長時間行うと、上気道が乾燥や冷えやすくなるためウイルスを排除しにくくなってしまうようです。特にウイルス感染が拡大しているような状況においては、息が切れる長時間の運動は避けたほうがよいかもしれません。

 現在、在宅ワークなどが増えていますが、一日中座り続けるよりもたまには休憩を入れて、ストレッチや散歩など適度な運動を心がけることが大切になってくるでしょう。

過度な運動は免疫力を下げてしまう

・孤独を感じない工夫をする 

 米オハイオ州立大学で行われた研究によると、孤独感はヒトの免疫力を低下させてしまうことが報告されています。具体的には278名の被験者に対して、血液検査と心理状態のアンケートを同時に行ったところ、孤独を感じている人ほどウイルスの活動が活発になり、炎症反応が高くなるようです (*6)。

 現在、感染拡大の防止のために社会的距離(ソーシャル・ディスタンス)を取ることが必要とされていますが、私たちは「人と人とのつながり」が長期間感じられないと免疫力が下がってしまいます。

 現在、有志でのオンライン昼食会や飲み会も流行っているようですが、脳科学と免疫の観点からすると、このような形で人と人がつながることは大変よいことと言えるかもしれません。

 また、家族や動物とのつながりも私達の健康に効果があることも指摘されています。実際にペットと一緒にいるほど脳がストレスを感じにくく、幸福度が高まるというデータもありますが、どんな大変なときでも側にいてくれる犬や猫などのペットや家族との時間は人の心を癒し、健全な状態を維持してくれる最高の贈り物となるでしょう。

・お腹を温める 

 イェール大学の研究では、体の温度が下がると免疫系の能力に影響を与えて、ウイルスの感染リスクを高めてしまうことが示されています。具体的には一般的な風邪の原因となるライノウイルスは体温よりも少し低い温度になると、上気道、特に鼻の粘膜を攻撃することでより増殖しやすくなるそうです。

 特にお腹や腰が冷えているリンパ球減少症の男女の実験では、睡眠中に湯たんぽでお腹を温めたところ、免疫を上げるリンパ球が大幅に増加するということも報告されています(*7)。

 特に冬は体温が下がりやすく、夏は過度な冷房などで体が冷えやすい傾向にあります。このようなときはできる限り体を温める習慣を持つことが大切になってくるでしょう。特に冷たいソフトドリンクやアルコールの飲み過ぎや、入浴をシャワーだけで済ますような習慣は体を冷やす可能性があります。温かい食べ物や飲み物を摂取することを心掛け、入浴で体を温める習慣も健康増進に役立つことが予想されます。

  • 楽観性(ポジティビティ)を持つこと

 ペンシルベニア州立大学の研究チームが発表した報告では、872人の成人に8日間連続で血液検査とストレスについて電話でインタビューを行い「今日はどんなストレスを感じたのか?」そして「具体的にストレスにどのように対処したのか?」についてリサーチを行いました。

 その結果、ストレスをそのままにするよりも「出来事をプラスに解釈しようとする」「解決に向けて懸命に取り組む」という対処行動を取った人達は炎症の状態が軽いということが分かりました。

 しかも、この傾向は男性だけでなく、女性でも同じだったそうです(他の海外の研究でも楽観的な人ほど、心理ストレスにさらされても免疫力が高い状態が維持されやすいことも示されています(*8))。

 私達の脳は将来に新しい可能性を見出したり、現在起きていることに対処している実感を得られると脳が活性化して、免疫力まで高まる傾向があるようです。現実は受け止めながらもそれに楽観性を持って対処する力(この力を「ポジティビティ」と呼んでいます)が、私達の恒常的な健康を維持することに役立っていくことが考えられます。楽観性を持つためには、気分転換も大切になってくるでしょう。

コロナ後の世界に向けて

 これからのコロナ後の世界は私達が想像もしない大きな大転換が起きると予想されています。国の情勢や社会の構造も変わり、それによって人のニーズも変わっていくと思われます。

 自然界の法則では、変化に対応できない生き物は自然によって淘汰されていくことが証明されていますが、「人とのつながり」を通して世の中に求められることを正しく掴み、そしてそれを悲観的に捉えず「前向き且つしなやかな展望」を持って適応していくことが、私達の未来を創っていく大きな原動力になっていくと思われます。

 これまで経済の未来を見事に的中させてきた経済学者のジャック・アタリ氏は、2020年4月のインタビューで「これからの未来には政治的な考えよりも科学に対する信頼が大切になる」と述べています。

 正しい知識をもって正確に未来を予測することが、会社継続の最大の防御になり、同時に大きなビジネスチャンスを生み出していくことになるでしょう。

 これまで人類は幾度となくあらゆる危機を乗り越えてきました。私が尊敬する多くの世界的な知識人達も同じように皆「人類は必ず乗り越えられる」と信じています。元気でしなやかにこの状況を乗り越えて、多くの人とまた楽しく語り合える日が訪れることを心より願っています。

<参考文献>

(*1) 三宅優、横山美江「健康における笑いの効果の文献学的考察」、Bull. Fac. Health Sci,, Okayama Univ. Med. Sch., Vol.17, p.1-8, 2007

(*2) “Whole grain consumption and risk of cardiovascular disease, cancer, and all cause and cause specific mortality: systematic review and dose-response meta-analysis of prospective studies”BMJ.;353,i2716,2016

(*3) K. Suzuki,“Review: Exercise and Immunity”日本補完代替医療学会誌/第1巻第1号,  2004, p.31-40

 (*4) Gleeson,M. et.al., “Exercise, nutrition and immune function”, J.Sports Med., Vol.22, p.115-125, 2004

(*5) 赤間高雄ら、『高齢者の免疫機能に及ぼす運動の影響』、体力科学、2003, Vol.52(Suppl), p.65-72

(*6) Lisa, Jaremka,“Loneliness, Like Chronic Stress, Taxes the Immune System”2013:https://news.osu.edu/loneliness-like-chronic-stress-taxes-the-immune-system/

(*7) Biomed. Res., Vol.27, 2006, p.45-8

(*8) Brain Behav. Immun., Vol.23, 2009, p.810-816