経営者コミュニティ「経済界倶楽部」

「日本でも世界で闘える大学発ベンチャーが必要です」―坪田一男(慶應義塾大学医学部教授)

ゲストは、角膜移植、ドライアイ治療の第一人者で慶應義塾大学医学部の坪田一男教授。2015年に同大医学部発ベンチャーの坪田ラボを立ち上げました。「世界で戦える日本の大学発ベンチャーの創出が重要課題」と語る坪田さんに、産学連携の取り組みについて伺いました。

坪田一男氏プロフィール

坪田一男

(つぼた・かずお)1955年東京都生まれ。80年慶應義塾大学医学部卒業。日米の医師免許取得。米ハーバード大学にて角膜フェローシップ修了。角膜移植、ドライアイ、屈折矯正手術の世界的権威。2015年慶應義塾大学発ベンチャーの坪田ラボ設立。

慶應大医学部発ベンチャー坪田ラボを4年前に起業

佐藤 かつて『経済界』では「アンチエイジング」をテーマに170回もの連載をありがとうございました。
坪田 こちらこそ長年にわたりお世話になりました。
佐藤 坪田先生は今年3月に慶應ビジネススクールを卒業され、大学発ベンチャーの坪田ラボを通して、医薬品や医療器具の開発にも力を入れているそうですね。
坪田 そうです。まず坪田ラボを立ち上げた経緯からお話しします。2007年に学校教育法が改正されて大学の責務としてイノベーションが加わりました。これを受けて医学部では、ベンチャーの育成に取り組み始め、これまでに14社の医学部発ベンチャーを世に送り出しています。従来、日本の大学の医学部というと、患者の診療・治療が使命とされていて、それはもちろん最重要課題ですが、残念なことに「ビジネスの視点」が欠けていたのです。
佐藤 ビジネスの視点ですか。
坪田 はい。例えば日本の病院で世界最高の技術をもって白内障の手術をする時に、使用するのはドイツ製やアメリカ製の高価な医療器具なんですね。これは日本で医療器具を開発する、海外の医療現場でも使ってもらうといった視点が欠けていたから。この現状を変えるために、日本の医学部発ベンチャーがイノベーションを起こさなければならないと考えています。
佐藤 大学の役割が変わってきたと。大学発ベンチャーというと、ユーグレナの出雲充社長のように、インキュベーションセンターで育った若者たちが世の中に少しずつ出てくるようになりました。
坪田 そうですね。でも、少しずつでは世界に追いつかないので、もっと出てきてほしい。それと優秀なベンチャーは日本国内だけでなく、国際競争力を高めて世界のマーケットでビジネスができるようにならなければなりません。
佐藤 坪田ラボも世界を見据えた事業をされているのですか?
坪田 もちろんです。坪田ラボは、「イノベーションで、世界をごきげんに、健康にする」をテーマに掲げています。近視、ドライアイ、老眼における革新的なソリューションとして、医薬品やサプリメント、医療器具、健康グッズ等を日本の企業と提携して開発しています。

目から人類を健康にしたい

佐藤 これまでにどんな商品を開発されてきたのですか?
坪田 坪田ラボを立ち上げる前からですが、眼鏡ブランドの「JINS」を展開するジンズホールディングスと、バイオレットライトを通すレンズ「JINS VIOLET+」を共同開発しています。
佐藤 バイオレットライトとは聞き慣れない単語ですが。
坪田 バイオレットライトは太陽光に含まれる「紫」の光、波長です。坪田ラボは、この紫の光が近視の原因である眼軸長(角膜から網膜までの長さ)が伸びるのを抑え、近視の進行を抑制することを発見しました。23年までにバイオレットライトを点灯する子ども用眼鏡をJINSと共同開発するプロジェクトを進めており、既に動物の研究ではその有効性を確認できたので、本年より治験に入っています。
佐藤 すごいですね。近視は子どもの頃からの予防が大切なんですか?
坪田 そうですね。失明率は強度近視の人ほど高く、眼軸長は伸びてしまうと戻らないので、大人になる前に近視にならないようにしたいものです。ところが、半世紀前の日本人の近視の割合は20%程度でしたが、今は小学生の75%、中学生の95%が近視です。これは子どもが屋内にいる時間が増え、屋外で過ごす時間が減ったことも一因。一般的な眼鏡レンズはバイオレットライトを通さないので、子どもの頃から近視を予防できる眼鏡を考えました。
佐藤 実用化が楽しみですね。JINSなら、スタイリッシュで安価な眼鏡ができそうですし。
坪田 JINSの田中仁社長もそういう考えを持つ人なので、そこに共感した上での共同プロジェクトです。近年増えているドライアイの人の目の乾燥を予防する眼鏡「JINS MOISTURE」も発売しています。他にも、ロート製薬と近視抑制効果が期待できるクロセチン配合サプリメント、わかもと製薬とドライアイ用サプリメント等を共同開発しています。

坪田ラボがJINSと共同開発した機能性眼鏡「JINS MOISTURE」と眼鏡レンズ「JINS VIOLET+」

佐藤 アイケア商品もいろいろありますね。これからの目標は?
坪田 私はレーシック手術も専門ですが、手術をしたり学術論文を書いて終わりではなく、人類に役立つものを届けるのも医者の使命。眼科学は目を治す学問ではなく、目から人類を健康にする学問と再定義しています。人類をごきげんにしたい!それが坪田ラボの目標です。
佐藤 10年後には世界中でイノベーションを起こすベンチャーが慶應大医学部からたくさん生まれそうですね。今から楽しみです。本日はありがとうございました。

これからどんな新しい眼鏡が出てくるか楽しみです(佐藤)

聞き手&似顔絵=佐藤有美
構成=大澤義幸 photo=市川文雄