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ファインバブルの先駆者として日本発の技術を世界に発信―サイエンスホールディングス

サイエンスホールディングス会長 青山恭明(あおやま・やすあき)

女性の顔に引かれた油性マーカーの跡が、シャワーの水を数秒当てて軽くこすっただけで消えてしまう。ウルトラファインバブルと呼ばれる微細な気泡を水中で振動させ、肌に負担をかけずに高い洗浄力を発揮するシャワーヘッド「ミラブル」のテレビCMに衝撃を受けた人は多いことだろう。今や年間25万本を販売する大ヒット商品が生まれた背景には、「苦しむ人々を救いたい」という創業者の確固たる理念があった。

サイエンスホールディングス会長 青山恭明(あおやま・やすあき)
サイエンスホールディングス会長 青山恭明(あおやま・やすあき)

苦しむ娘を救った経験が創業のきっかけに

 ミラブルの製造、販売を手掛けるサイエンスホールディングスの青山恭明会長は、もともと家庭用浄水システムの事業からスタートした。創業のきっかけとなったのは、かつてアトピー性皮膚炎に苦しんでいた三女の存在だ。

 幼少期から皮膚が変色するほど重度のアトピーに悩まされていた娘を救うため、あらゆる治療法を試したものの根治には至らなかった。そんな時に見つけた塩素吸着とアレルギー反応に関する文献をヒントに、水道水に含まれる塩素を取り除く仕組みを導入したシャワーヘッドを製作。入浴の代わりにシャワーを毎日浴びさせたところ、2カ月後には娘の肌がすっかり綺麗になったという。

 「娘のように重度の肌荒れに苦しむ人々を救いたい」――。そんな思いに駆られた青山氏は、脱塩素の仕組みを導入した浄水装置の商品化を決意する。

 最初から順風満帆というわけではなかった。家庭の水を全て脱塩素化できるよう、水道管の途中に取り付けるウォーターシステムを開発したが、当時は建築基準法の縛りがあり、物件オーナーが手掛ける工事ではなく、テナントがオーナーの承認を得て行う工事としてしか設置できなかった(後に法改正で可能に)。また、家庭用水の大元に取り付ける装置であったため、大量の水を処理するためのカートリッジの開発にも多大な労力を要した。

 こうした問題に直面しながらも、販売の強力な後ろ盾となったのが大手不動産デベロッパーのタカラレーベンだ。サイエンスのウォーターシステムに目を付けた同社は「たからの水」というブランドで、販売するマンション全戸に標準装備することを決定。これにより大きく販路が広がり、年間約1千戸に供給できるまでになった。

万博で見た「人間洗濯機」をマイクロバブルで実現

 ウォーターシステムの販売が軌道に乗った頃、青山氏と会社の運命を変えたのがマイクロバブルとの出合いだ。

 きっかけは、細かな気泡で半導体製造装置などを洗浄する装置を見たこと。そのとき脳裏をよぎったのは、幼少期の1970年に大阪万博で見た「人間洗濯機」だ。カプセルの中に人が入って超音波で発生させた気泡で体を洗い、乾燥まで全自動で行う装置である。

 「この小さな泡の技術を使った装置を小型化すれば、本当に人間洗濯機ができる。肌が弱く体をこすって洗えない娘でも大丈夫ではないか」

 そうひらめいた青山氏は、直径1千分の1ミリの微細な気泡を発生する浴槽「マイクロバブルトルネード」を完成させる。浸かるだけで全身の毛穴まで洗浄して汚れや皮脂を浮かせ、さらに気泡の刺激によって体温を高める効果もあるという画期的な商品だ。タカラレーベンのモデルルームに体感できる装置を設置し、水に手を5分浸けてもらうと誰もがその効果に驚きの声を上げたという。

 こうしてクチコミで評判が広がり、他のハウスメーカーからの採用も増える中、新たな需要を発見する。マイクロバブルトルネードを設置した浴槽の水に、洗顔目的で顔を浸ける女性が多いことが分かったのだ。その用途に応えるべく開発したのが、微細気泡を発生させる仕組みをシャワーヘッドに組み込んだ「ミラブル」である。

 反響はすさまじかった。関西のテレビ番組で紹介されるとサーバーがダウンするほどウェブサイトにアクセスが集中したため、生産体制を急きょ10倍に増強。その後全国ネットの番組で再度取り上げられると、またもや追加発注の嵐となり、全国的に知名度が急拡大することとなった。

ファインバブル技術の国際標準化を推進

 青山氏の今後の目標は、ファインバブル技術をさらに多くの人々のために役立てることだ。自らが理事を務める一般社団法人ファインバブル産業会では、直径1~100マイクロメートル未満の泡をマイクロバブル、直径1マイクロメートル未満の泡をウルトラファインバブル、その2つを総称して「ファインバブル」と定義。また、装置の運搬や保管方法などについても国際標準化規格が次々と発行されている。

 そして自社では「国内唯一のファインバブルアプリケーション開発企業」として展開したいと語る。

 「ファインバブルの技術は、例えば医療、食品、農業分野といったさまざまな分野に応用できる可能性があります。25年開催の大阪万博で、日本発の技術として世界の人々に見ていただきたい」

 開発のインスピレーションを得た万博で、今度は日本発の技術としてファインバブルを世界に発信する。そんな夢を青山氏は描いている。

会社概要
設立 2007年8月
資本金 3,000万円
売上高 55億円(2021年3月見込)
所在地 大阪市淀川区
従業員数 70人
事業内容 ファインバブル製品の製造・販売およびメンテナンス、セントラル型浄水装置の製造・販売およびメンテナンス
https://i-feel-science.com/

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