新型コロナウイルスの流行を受け、多くの企業が忘年会・新年会を取りやめた。年末年始が書き入れ時の飲食店は大打撃、さらに新年早々に緊急事態宣言が出たことで、一気に淘汰が進みそうだ。しかし、その一方で、新しい動きも次々に出てきている。コロナ禍は外食産業の新陳代謝を一気に進めることになりそうだ。
文=関 慎夫(『経済界』2021年3月号より加筆・転載)
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コロナ禍に翻弄される外食産業
書き入れ時を襲った新型コロナ第三波
「緊急事態宣言が終わり通常営業に戻った時には、今後同じようなことがあっても絶対、時短要請には応じないようにしようと考えていました。でも、いざ要請されたら、それに抗うことはむずかしい。それに開けていたところでお客が入るとも限らない。だったら40万円を受け取ったほうがましかと考え、10時に店を閉めることにしました」(東京・赤坂のウイスキーバーのバーテンダー)
東京都は昨年11月28日、都内の飲食店に対し営業時間を午後10時までに短縮するよう要請した。要請に応じた店に対しては一律40万円を支給する。年末年始の書き入れ時を前にしたこの要請に、多くの飲食店経営者は頭を悩ませた。
しかし結局のところ、冒頭のバーテンダーのように、要請に従ったところが多かった。
飲食店、特に酒類をメインにしたお店では、「12月の営業で、1年間の利益の半分近くを稼ぐ」(米山久・エー・ピーホールディングス社長)という。しかしこの年末年始は、その機会を奪われた。
コロナ禍で外食産業の売り上げはどうなったか
新型コロナウイルスは外食業界にどのくらいの影響を与えているのか。まずは次のグラフを見ていただこう。これは800社を超える外食事業者が加盟する日本フードサービス(JF)の統計で、加盟各社の売上高合計の対前年同月比をグラフ化したものだ。
見て分かるように新型コロナウイルスの感染が拡大し始めた昨年3月に前年比83%にまで落ち込み、緊急事態宣言が発出された4月には同60%と壊滅的打撃を受けた。
その後、月を追うごとに回復してきたが、第三波が襲来した11月に再び大きなマイナスとなった。そこにさらに時短要請と緊急事態宣言が加わったことで、状況はさらに悪化している。
ここ数年、外食産業の売り上げは堅調だった。外食にも人口減少の影響があるが、「内食→中食→外食」の潮流もあり、JFのデータでは2015年から19年まで、5年連続で売上高を伸ばしている。その流れをコロナ禍が断ち切った。
窮地に立つ居酒屋チェーン
当然、外食各社の経営は厳しい。帝国データバンクの調査によると、20年1~11月の飲食店倒産件数は736店で、12月を残して過去最高を更新した。時短要請され、忘年会や新年会が中止・縮小に追い込まれたことで、さらに多くの倒産もしくは廃業が出ることは間違いない。
これは個人経営の飲食店にかぎった話ではなく、外食チェーンも大きな打撃を受けている。売上高500億円以上の上場外食企業の20年4~6月の四半期決算を見ると、13社中9社が最終赤字、7~9月は多少改善したとはいえ、それでも5社が赤字となっている。通期でも、8社が赤字になると予想している。
中でも最も厳しい状況に追い込まれているのが居酒屋チェーン。居酒屋業態は、若者のアルコール離れや、より専門性の高い店舗へと顧客嗜好が移ったため、15年には1兆円あったといわれる市場が、19年には9500億円と縮小している。
ここにコロナ禍が加わった。4~5月の緊急事態宣言下では全店閉鎖を決断した会社も多く、事実上、売上高はゼロとなり、赤字が積み上がっていった。
上場居酒屋チェーンの中には、債務超過に追い込まれているところもある。外食チェーンの多くは、コロナの影響がはっきりするに伴い、一斉にキャッシュの確保に走った。パート・アルバイトなどの人員を減らし、店舗のオーナーとは家賃引き下げ交渉を行い、支出を1円でも減らすよう努力した。その一方で、金融機関に融資を要請、手元にキャッシュを蓄えた。
しかし、コロナ禍が続けば、それもいつかは枯渇する。再び融資を頼んでも、金融機関が首を縦に振る保証はない。むしろリーマンショック時のように、貸し剥がしにあわないとも限らない。
そのため「3~4月にかけて、経営危機が表面化する外食チェーンが出てくる」と見る業界関係者は多い。外食産業冬の時代は、これから本格化するというのだ。
変わりゆく外食産業各社の生き残り戦略
「宅配」「専門化」が進む
しかしその一方で、新しい動きも始まっている。
「日本のデジタル化は、1年でこれまでの10年分進んだ」とはよく聞く言葉だ。コロナ危機を乗り越えるために、デジタル化により生産性を上げようと、企業が一斉にデジタル投資に踏み切ったためだ。
それと同じようなことが、今、外食産業で起こり始めた。
居酒屋チェーン「和民」を一時は全国で1千店展開していたワタミは、そのうちの200店を閉鎖し、焼肉店へと業態転換するという。渡邉美樹社長によると、「以前から計画していたが、コロナによって前倒しすることにした」という。
餃子チェーン最大手の王将フードサービスでは、デリバリーを本格化させたが、これは外食自粛を受けての動きではなく、「昨年の消費税増税で始めていたものをさらに伸ばす」(渡邊直人社長)。
また「塚田農場」などを展開するエー・ピーホールディングスでは、既存の店舗を拠点に、デリバリーサービスを始めた。ユニークなのは、その店で通常、販売しているメニューを届けるのではないことだ。同時に、単に料理を宅配するのではなく、そのルートに野菜などの食材を乗せることも計画中だ。
「何となく外食する時代」の終焉
テークアウトに力を入れた結果、前年以上の業績を残しているのが、「かつや」や「から山」で知られるアークランドサービスホールディングス。コロナ時代に合わせたメニューを素早く提供するほか、M&Aによる新業態への進出にも積極的だ。
「コロナによって経営課題が表面化した」というのは、「ロイヤルホスト」や「てんや」を展開するロイヤルホールディングスの菊地唯夫会長。その分、対策が打ちやすくなった側面もあるという。菊地会長によると、コロナ禍によって「内食→中食→外食」の流れが逆流、「外食→中食→内食」の動きが起きている。その流れをとらえ、変化に柔軟に対応した会社だけが生き残ることができる。
また、経営者が口を揃えるのが、「何となく外食に行く時代は終わった」ということだ。今は「〇〇を食べるために××の店に行く時代」だ。
「何でもあるけど何もない」。総合スーパーの凋落の際にも語られた言葉が、外食にも当てはまる。個性のない店は生き残れない。そのためのチャレンジが至るところで始まっている。