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ビジネスパーソンの人生を変える「地味な資格」の魅力とは

「資格を取って人生一発逆転」―さすがにそれほど甘くないことは分かっていても、今より少しでも収入をアップさせたい、いざという時の安心材料にしたいといった理由で、さまざまな資格試験に挑戦するビジネスパーソンは多い。では、どんな資格を取れば成功の可能性が高まるのだろうか。冴えない会社員から社会保険労務士として独立し、この度『おじさんは地味な資格で稼いでく。』(クロスメディアパブリッシング)を上梓した佐藤敦規氏に、資格取得によって人生を好転させる秘訣について聞いた。(取材・文=吉田浩)

ビジネスパーソンが「地味な資格」を取得するメリット

法人相手で仕事が安定する

 佐藤氏は中央大学を卒業後、印刷会社に勤務。希望していた職種でなかったこともあり、仕事ではこれといった成果を出せず、40代半ばになっても「窓際係長」に留まっていた。そんな佐藤氏だが、50歳を前に一念発起して社会保険労使の資格取得にチャレンジ。4回目の挑戦で合格し、現在はサラリーマン時代と比べて約200万円の年収アップと充実した生活を手に入れたという。

 佐藤氏いわく「冴えないサラリーマンにとって、社労士のような“地味な資格”の取得こそ人生挽回の近道」だという。地味な資格とは、一般的に知名度が高くない法人相手のビジネスが可能な資格を指す。社会保険労務士のほかにも、行政書士、土地家屋調査士、宅建士といった資格がこれに当てはまる。

これら法人を顧客とする資格のメリットとして、

  • 契約が長く継続するケースが多い
  • 単価が個人相手と比べて高い
  • 契約先から新たな顧客を紹介してもらいやすい

 といった点を挙げている。

働きながらでも勉強しやすい

 社労士試験を例にとると、合格者の約6割が会社員で、40代、50代の比率が大きいという。弁護士や司法書士といった超難関資格と違って、中年サラリーマンが仕事を辞めることなく取得を狙える資格であることもメリットだと佐藤氏は言う。

 とはいえ、合格するには1000~1500時間の勉強が必要と言われ、1日3時間程度の学習を継続する必要があるので、決して楽とは言えない。それでも

 「私の場合はノートの整理などはあまりやりませんでしたが、毎日どれだけの時間勉強したかは記録して管理していました。このように無理なくできる範囲で勉強を続けることで十分合格を狙えます」と語る。

定年退職がない

 地味な資格を取って独立すれば、当然のことながら定年退職はない。特に役所相手の仕事は俗人的な部分が依然として多く、難解な文章の処理などもまだまだ機械化は先の話であるため、当面は食いっぱぐれる心配がない。当然、実力次第で収入に格差は出るものの、資格の価値がなくなる可能性は低いとみられる。

佐藤敦規氏
「地味な資格」取得のメリットを語る佐藤敦規氏

「地味な資格」を活かして活躍できる人とは

「資格なんて役に立たない」は本当か?

 これら、地味な資格の有効性に佐藤氏が気付いたのは、実際に社労士として実務を開始してからだという。一方で、「資格なんて役に立たない。大事なのは実務経験」という意見もある。これに対しては以下のような考えを述べる。

 「確かに資格は役に立たないという意見も一部合っているし、稼げていない人も多いのが現実です。でもそれは需要がないからではなく、求められる仕事に対してやっていることがマッチしていないからです。特にサラリーマン出身で士業に就いた方などは、主要顧客である中小零細企業の経営者と根本的な考え方が全く違うケースがよくあります。そこをクリアできずないと沈没してしまいますね」

 たとえば労務管理について相談されても、経営者の置かれた状況を理解せず「〇〇は労働基準法で決まっているからダメ」と頭ごなしに結論を出すような態度には注意が必要だという。そこで話が噛み合わなければ、継続して仕事を受注することはできない。顧客の心理を理解し、要求に的確に応えられるかどうかが、資格を役立つものにするか否かの分かれ道だ。

会社組織に馴染めなかった人ほど活躍できる可能性

 地味な資格を取得して活躍できる人にも傾向があるという。

 「あくまでイメージの話ですが、向いているのはある意味サラリーマンの道から外れた人。転職経験が多かったり、会社組織に合わなかったりした人ほど、独立後は活躍していることが多いですね」

 社労士の場合はサラリーマンからの転向組が多いことは述べたが、大企業出身者より経営者と接点の多かった中小零細企業出身者のほうが、顧客である経営者の心理を理解しやすいという見方もある。さらに、金融関係者や税理士事務所など、日常業務で経営者と接してきた人も、独立後は有利になる傾向があるらしい。

 また、一般的に業界全体であまり待遇が良くないイメージがある介護、外食、小売業などからの出身者も、活躍するケースが多いとのことだ。こうした業界の経営者は、資金繰りや人材の確保などで問題を抱えていることが多く、業界に対する理解が深い社労士のほうが肌感覚で問題を理解できるためだ。

 「私自身はサラリーマン時代に営業が得意ではなかったのですが、独立前に2年間生命保険のフルコミッションの営業を経験し、いろんな業界の方々の考え方を学びました。こうした経験が絶対に必要、というわけではないですが、厳しい環境を一度味わった人のほうが成功しやすいとはいえると思います」

 ブラック企業で低賃金に喘いでいる人には、希望の持てる話かもしれない。

独立後の仕事の増やし方

小さな仕事からの紹介を狙う

 さて、無事に資格を取得して独立を果たしたとしても、本当の勝負はそこから。新規顧客の開拓と継続的な収入を得るための努力が欠かせない。

 佐藤氏の場合、一番効率が良かったのは、最初のころに小さな仕事を引き受けた顧客からの紹介だった。社労士をはじめとする士業にとっては、安定収入が入る顧問契約を数多く取ることが効率の良い稼ぎ方だが、いきなり顧問契約を結ぶのは難しい。やはり最初の数年間は、小さな単発の案件でもでもコツコツこなすことが重要だ。しっかりと信用を積み重ねることで、後に大きな案件を任されるケースも多い。

 「ある程度実力が認められれば、顧問契約などの料金を挙げてくれる場合もありますし、

 やはり顧客である社長さんと上手くやくためのコミュニケーション力や人間力が大事です。あと、お金に関すること全般に詳しいと有利になりますね。中小零細企業の経営者の悩みはお金のことがほとんど。助成金や補助金などの情報を仕入れておくことに加え、日常の簡単な資金繰りや融資のことなどにも詳しいと頼りにされます」

士業同士のネットワークを役立てる

 仕事を回してもらうための社労士仲間だけでなく、弁護士や税理士など他の士業とのつながりも役に立つという。士業は業務内容が明確に分かれているため、例えば助成金の申請など他の士業では代行できない案件を社労士が引き受けるケースも多い。一度引き受けて信頼を得られれば、次々と紹介が舞い込むこともあるうえ、企業の顧問として活動する場合、こうしたネットワークを活用してさまざまな業務をパッケージで引き受けることができれば、報酬の単価アップもしやすくなる。

 さらに、今後は事業継承がらみの案件も期待できるという。

 「事業承継は弁護士と税理士の主戦場ではありますが、会社組織の変更に伴う労務既定の変更など、断片的な業務が社労士にもこぼれてくるチャンスが増えそうです。それ以外、コロナ禍に伴う従業員の解雇などの問題もあり、仕事は増えていますね」

「地味な資格」で生きていく意義とは

 「地味な資格」で生きていく良さは、何も金銭面の話だけではない。会社員として人生の前半戦で勝てなかった人たちにも、仕事に対する自信と誇りを取り戻すチャンスがあるということだ。「大逆転」とまではいかなくても、一定の努力と工夫によってそれまでの生活を大きく変えることができるパスポートになり得るところだ。

 「社労士となって一番良かったことは、顧客の反応がダイレクトに分かるところ。藁をもつかむ思いで相談に来た経営者の問題をクリアできると本当に感謝されます」

 と、佐藤氏は言う。そして、

 「声を大にして言いたいのは、サラリーマンの世界で冴えなかった人のほうが、成功しやすいということ。待遇の悪い業界や1つの会社で長続きしなかった人が地味な資格を取って活躍しているので、ぜひ頑張ってほしいです」と、エールを送る。

佐藤敦規氏プロフィール

社会保険労務士。中央大学文学部卒業後、新卒での就職活動に失敗し、印刷業界などを中心に転職を繰り返す。窓際族同然の扱いに嫌気がさし、50歳を目前に初回保険労務士試験に合格。三井住友海上あいおい生命保険を経て、現在は社労士として活躍している。お金の知識を活かして、セミナー活動やメディアへの記事執筆なども行っている。