「RE100」に参加する企業は年々増え続けているが、電力の再生可能エネルギー100%化はそれほど容易なことではない。ところが東急不動産は、4年後の2025年に100%を実現するという。その手始めに、今年4月、渋谷のビルを再エネ100%電力に切り換える。なぜ東急不動産にそれが可能なのか。岡田正志社長に話を聞いた。聞き手=関 慎夫 Photo=横溝 敦(『経済界』2021年4月号より加筆・転載)
岡田正志・東急不動産社長プロフィール
東急不動産の再エネへの取り組み
再エネ発電能力は国内トップクラス
―― 東急不動産は2019年にRE100に参加しています。現在、日本企業では46社が参加を表明していますが、不動産業界で一番最初に手を挙げたのが東急不動産です。なぜ、参加しようと考えたのですか。
岡田 当社はもともと環境保全に積極的に取り組んできました。1998年には環境ビジョンも発表しています。われわれの本業は都市づくりですから、自然環境や都市環境に関心を持つのは、ある意味、当然のことです。さらには都市開発事業以外にもスキー場やゴルフ場などのリゾート事業も手掛けています。これらは気候変動などと密接に関わっていますから、いやがおうにも環境問題と向き合っていく必要がありました。
その一環として、再生可能エネルギー事業にも力を入れています。2014年に香川県で太陽光発電事業に参入したのを皮切りに、現在では太陽光や風力など、全国で30カ所以上で発電事業を行っています。開発中のものを含めると、総事業数は53件、定格容量(発電能力)は1145メガワットに達します。これは原発一基以上に匹敵しますが、再生可能エネルギー事業者として、国内上位の実績を誇りますし、デベロッパーでここまでやっているところはありません。
投資額も、計画中のすべての発電施設が完成すると、2600億円となる予定です。風力発電の立地は現在は地上ですが、今後は間違いなく洋上風力が中心になるでしょうから、そこにも事業展開していきたいと考えています。
環境対策が事業の中核に
―― 不動産事業と再生可能エネルギー事業には何の関連性もなさそうですが。
岡田 そんなことはありません。太陽光発電の場合、50~100ヘクタールの土地をまとめる必要があります。その地権者と話しがなら権利関係を整理する、あるいは開発にあたり許認可を得るため、行政との交渉も必要です。ここにわれわれがずっとやってきた土地開発力が生かせます。再生可能エネルギー事業を行っている会社の中で、デベロッパーはわれわれだけですから、この土地開発力は非常に強みになっています。ですから、ここ4、5年の間に急速に拡大することができたのです。
この事業のいいところは、安定的に収益を生むことです。不動産の場合、収益は市況に左右されますが、再生可能エネルギーは影響を受けにくい。ですから今後も積極的に投資を続け、いずれはビル事業や住宅事業に並ぶ当社の柱の1つに成長させたいと考えています。
そのためには、今の2倍、3倍といった規模にしていく必要があります。現在でもすでに30億円以上の営業利益が出ていますし、53カ所すべてが完成すれば80億円ほどの利益がでる予定ですが、もう少し頑張れば100億円になりますし、将来的には200億円ぐらいの利益を生み出せる事業だと考えています。
―― ここまで環境対策が事業の中核に入っているとは思いませんでした。
岡田 われわれは環境先進企業を目指しています。環境に関してはトップを走り続けたい。今までの都市開発事業でも、オフィスビルや商業施設をつくる時には屋上緑化に積極的に取り組んできました。屋上だけでなくビルの中にも緑を取り入れる。われわれの本社が入る「渋谷ソラスタ」(東京・渋谷)は一昨年、誕生しましたが、屋上は緑化されていて、社員は緑に囲まれた環境で仕事をすることもできます。表参道にある東急プラザでは屋上に森をつくり、小鳥が集まってくるようになっています。また屋上で養蜂をしているオフィスビルもあります。
このように東急不動産は環境問題には強い関心をもった企業です。RE100への参加も、こうした環境問題の取り組みの延長線上にあります。明確な目標を立てることで、会社のベクトルがひとつになると考えました。
4月に渋谷のビルはすべて再エネ電力に
―― RE100の目標である自然エネルギー100%はいつ頃実現できそうですか。
岡田 今までは、2050年の達成を掲げていましがた、これを大幅に前倒しして、25年にすることを検討しています。現在はまだ20%程度ですが、22年度には3分の2にまで引き上げ、23年度には8割、そして25年に100%を達成する計画です。恐らく、ここまで明確に目標設定しているRE100参加企業は多くないと思います。
―― すごいスピードですね。
岡田 先ほど言ったように、再生可能エネルギーの発電能力は1ギガワットを超えています。これは東急不動産単体の消費電力よりはるかに大きい。ですからこれを利用すれば、RE100の達成は十分可能です。
その第1弾として、4月1日から渋谷ソラスタを含め、全国にある5つの事業所と、渋谷で当社が運営している12棟のビルの使用する電力を、すべて再生可能エネルギーへと切り替えます。これを渋谷以外にも広げていきたい。ただし、すべて自社物件なら、自分たちで決めればいいのですが、当社単独ではなく、共同で事業をしている物件もあります。そこの電力を切り替えるには、相手の承諾を得る必要がありますから、100%になるのは25年ぐらいになると考えています。
―― RE100実現を前倒ししたのに、10月の菅首相の所信表明演説は関係していますか。
岡田 直接は関係していません。私は昨年4月に社長に就任しましたが、その前は再生可能エネルギー事業の担当役員も務めていましたし、その前から環境問題には関心を持っていました。そこで、渋谷のビルの電力を再生可能エネルギーに切り替えるるためにチームを作り準備をしていたところに、菅首相の発言があったわけです。
―― その準備をしているタイミングでの脱炭素発言ですからわが意を得たりだったのではないですか。
岡田 ついにきたか、と思いましたね。環境問題や気候変動の問題にはもっと積極的に取り組むべきだと考えていましたが、これまでの日本はどちらかというと消極的なところがあったと思います。それが首相の発言をきっかけに大きく変わってきました。新聞を読んでも、毎日のように脱炭素や環境問題の記事が出ていますし、関心を持つ人も増えてきています。
今後のオフィスビルは環境対応が不可欠に
―― テナントの反応はいかがですか。
岡田 これから説明していきますが、基本的に再生可能エネルギーを使うことに反対するテナントさんはいないと考えています。電力料金が従来より高くなるわけではありませんから。
―― むしろ、再生可能エネルギーで電力をまかなっているビルだから入居したいというテナントも増えてくるでしょうね。
岡田 そうなるといいですね。今後、環境問題への関心はさらに高くなっていくと思います。そうなると、どうせ入居するなら環境に配慮してビルを選びたいと考えるようになってきます。ビル側がテナントさんのそうした意向に応えるには、非化石証書(再生可能エネルギーを証明する証書)のついた電力を電力市場で購入する必要がありますが、それにはコストがかかります。
その点、われわれは、自分たちで発電したものを自己託送すればいいので証書は必要ありません。テナントさんにとっては電気代が安くつくことになります。
これまで不動産会社はテナントさんにオフィスビルとしての機能や安全・安心、快適性を提供してきました。でもこれからは、環境もオフィスビルの付加価値として重視されるようになってきます。東急不動産は環境先進企業として、さらに環境問題に積極的に取り組むことで、テナントさんのニーズに応えていきたいと思います。
―― 渋谷のオフィスビルは、そのショールームの役割を果たしていくわけですね。
岡田 そうですね。そして実際に再生可能エネルギー100%に移行したあと、テナントさんの声を聞き、それをフィードバックしていく。これを繰り返すことで、より環境に配慮したオフィスを提供していきたいと考えています。