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USEN-NEXT HOLDINGS・宇野康秀社長が目指す1兆円企業への道

インタビュー

売り上げ100億円の会社を100社作るために、社長100人を公募――。ユニークな取り組みで1兆円企業を目指すUSEN-NEXT HOLDINGSの宇野康秀社長は、小学生時代から事業家を志していた。波乱の経営者人生で貫いた信念と、今後のビジョンについて聞いた。聞き手=ライター/坂井 航 Photo=横溝 敦(『経済界』2021年6月号より加筆・転載)

宇野康秀・USEN-NEXT HOLDINGS社長CEOプロフィール

(うの・やすひで)1963年生まれ、大阪府大阪市出身。明治学院大学法学部卒業後、88年リクルートコスモス入社、89年インテリジェンス(現パーソルキャリア)設立。98年に大阪有線放送社の社長に就任。2010年にグループの事業を整理する過程でUSEN社長を辞し、会長に就任。映像配信事業を継承し、U-NEXT社長に就任。2017年、USEN-NEXTとU-NEXTとの経営統合によりUSEN-NEXT HOLDINGSの社長CEOに就任、現在に至る。

宇野康秀氏が事業家を志した理由

―― 幼い頃から事業家を目指していたそうですが、経営者を志した原点について教えてください。

宇野 小学生の頃から意識していました。将来の目標をお題にした作文で「事業家になりたい」と書いていたんです。

 きっかけは、電車の不便さを感じたことです。何分かに一度しか電車が来ないのはなぜだろう、車両が連なって走るのではなく1両ごと走らせれば、もっと頻繁に来るのになどと考えていました。それは運転士が必要だからかもしれませんが、それなら自動運転にすればもっと細かく運行できるはずなのではないかと。それで自動運転化された鉄道会社を経営したいと作文に書きました。

 これが事業家を目指すきっかけですが、鉄道に限らず、世の中に存在するサービスにはすべて、それを始めた誰かがいる。自分も世の中に残るものを作りたいと意識したわけです。父(宇野元忠氏・1961年に大阪有線放送を創業)も新しいサービスを起こしていたこともあって、高校生の頃には絶対に事業家になろうと思っていました。

事業を推進する力は「自分がやる」という使命感

―― 大学卒業後に入社したリクルートは1年余りで退社し、インテリジェンスを設立。10年後、大阪有線放送の経営を引き継ぎました。特に記憶に残っていることは何ですか。

宇野 最も大変だったのは、大阪有線を引き継いだ当時。非常に重大なコンプライアンス問題がありました。

―― 違法電柱使用問題ですね。

宇野 有線放送用のケーブルを敷設するのに、電柱・道路専有許可を取得しておらず、また借入額も大きかった。正式に郵政省(当時)の許可を得て合法な会社に戻す「正常化」の作業が一番大変でしたね。

 これには非常に大きな意義がありました。当時始まろうとしていたインターネット時代に大きな可能性を感じていましたから。正常化することで次のビジネスチャンスが生まれる瞬間でもあったのです。

 当時からインターネットを発展させたいという強い思いがありましたね。これからは映像の時代になっていく、高速インターネット環境ができれば、映像配信が普及するはずと考えていました。

―― そのインターネット環境を基盤に、映像配信以外のサービスも展開してきています。

宇野 事業を発展させてきた方向性は2つあります。

 ひとつは、音楽配信サービスから映像配信サービスへの発展。もうひとつは、有線放送のお客さまであった店舗に、さまざまなICTサービスを付加していく方向性です。現在は特にキャッシュレスやセルフオーダーといった店舗のDX支援に注力しています。省人・省力化、お客さま対応のスマート化など、デジタル技術による店舗の進化をお手伝いしています。

―― 光ファイバーの整備から、一つ一つ事業を積み重ねてきています。そのモチベーションは何から生まれるのですか。

宇野 「やるべきだ」という思いですね。光ファイバー事業を始めた当時、日本のインターネット環境は相当遅れていました。誰かがネットワークを作らなければ国力が低下します。「自分が絶対にやるべきだ」と、天命と思ってやっていました。

 映像配信事業も実にいろいろな困難がありました。2010年頃は、「映像配信サービスなんて夢物語だ」「インターネットで映画なんて誰が観るのか」と誰もが口を揃える時代でした。でも、家庭にいながらさまざまなコンテンツを楽しめるサービスは絶対に必要とされる、そのサービスは自分の手で実現するんだという使命感を勝手に持っていました。それが一番のモチベーションだったかもしれませんね。

―― 〝映像配信のU-NEXT〟はしっかりと社会に定着しましたね。コロナ禍にあっても業績は好調です。
宇野 巣ごもり需要を受けて加入者数が伸びています。しかしそれよりむしろ、コロナをきっかけに映像配信サービスがようやくメジャーになったことのほうが影響は大きいですね。「要らない」と言われていたサービスが10年を経て社会的に認められました。

海外勢の参入は「マーケットが広がる」

―― 海外事業者の参入も相次いでいます。事業への影響はどうですか。

宇野 競合のネットフリックスなどは、他では見られないオリジナルコンテンツでユーザーを集めています。対して、私たちは最初から「ここに行けば観たいものが必ずある」という品揃えの強化を軸にしています。

 海外勢の参入には気を引き締めている一方、マーケットを作っていくという意味で歓迎もしています。10年間、それで苦労しましたからね。

 当時「映像配信サービスなんて止めろ」と言った人たちは、そのサービスを自ら体験したことがなかった。「パソコンをネットにつないで映画を観るんだ」と説明しても、「それは衛星放送と何が違うのか」と聞かれる。サービスがイメージできてなかったんです。

 しかし、今では誰もがサービスを理解していて、「どこにどんな作品があるのか」が関心事です。これは歓迎すべきことです。海外勢と比べ、当社は日本人の好みや特性を理解している強みがあります。事業の方針は全くブレていません。

U-NEXT
U-NEXTには200万人超の有料会員がいる

グループ内で事業会社が育つ仕組みづくりに取り組む

―― 17年12月にホールディングス体制へ移行しました。現在はどのようなフェーズにあるのか教えてください。

宇野 経営統合した時から、グループ内で事業会社が次々と育っていくための仕組みづくりを目指してきました。具体的には、売り上げ100億円の事業会社を100社育てる。20年度の売上額は2千億円弱ですが、将来的には1兆円のグループを目指します。それに向けて、100人の社長と事業の成長をホールディングスがサポートするような、新しいグループ経営の仕組みをつくろうとしています。

 事業会社は現在23社になり、業績も安定してきました。そこから100社まで増やすため、100人の社長を公募する「社長発掘プログラム〝CEO’s GATE〟」を2月にスタートしました。

―― 公募にあたって「起業家ではなく経営者を育てたい」というメッセージが印象的でした。

宇野 起業する人はみんな、いわゆるベンチャー起業家でないといけないと思い込んでいるところがあります。会社を辞め、仲間と資金を集め、小さなオフィスでゼロから頑張る。何年かたってようやくベンチャーキャピタルからお金をもらえると。しかし、企業の中でも事業は作れますし、さまざまなリソースも活用できます。そうした意味で、経営者という言葉を使っています。

 私たちと一緒にやることで、資金や人材を集めたり、場所を探すといった最初の苦労が少なくなりますし、既存事業のリソースも活用できます。当グループの最大の強みは日本全国に約75万店舗の飲食店などのお客さまがいること。また、U-NEXTでは200万人を超える有料会員がいます。それらの顧客基盤に即座にアクセスできるのは、他社にない大きな資源です。

 社長発掘プログラムには、1千人近くの応募がありました。コロナで閉塞感があるからこそ挑戦する人が多いのかもしれません。

儲かるビジネスより世の中に役立つことを

―― 宇野社長自身が、経営者として大切にしている信念は何ですか。

宇野 事業が世の中の役に立つことが最も大事です。そうでなければ、たとえ儲かるビジネスでもやらない。それは明確に決めています。

 不要なものは結局、消えていきます。逆に、本当に必要とされる事業はU-NEXTのように、最初は「要らない」と言われても10年たてば社会的に認められます。この判断こそ、私のこだわりですね。

―― 今後のビジョンを教えてください。

宇野 グループ統合時から「必要とされる次へ。」をビジョンとして掲げています。

 光ファイバーを手掛けた時と同様、今まさに新しいデジタルテクノロジーが世の中を変えようとしています。私たちはお客さまが変革するきっかけを作り、変わった後もフォローし続ける。その営みを、ネットの世界だけでなくリアルな世界でもできることが、私たちの得意分野です。

 デジタル化によって小売・飲食店、病院やホテルなどさまざまな施設がよりスムーズに運営できるようになっていきます。そのバックボーンを担うのが当グループの使命だと考えています。近い将来、「USEN-NEXTグループがないと困る」と言われるくらいの存在になりたいと思っています。