経営者コミュニティ「経済界倶楽部」

日本一富裕層に詳しい税理士が説く「資産の残し方」(第3回)

芦田敏之・ネイチャー代表

過去の法人税対策の失敗に見る、成功しやすい節税の方法について

事業に成功して富裕層となった企業経営者たちにとって、資産運用と防衛は大きな関心事だ。本シリーズでは、景気変動や税制改正などに直面しても、着実に資産を増やして繁栄を継続させるためのノウハウを、「日本一富裕層に詳しい税理士」と呼ばれる芦田敏之氏(税理士法人ネイチャー)が伝授していく。【AD】

芦田敏之氏プロフィール

芦田敏之
芦田敏之(あしだ としゆき)1978年生まれ。神奈川県出身。2005年、税理士試験合格。2006年、税理士登録。2012年、税理士法人ネイチャー国際資産税(現:税理士法人ネイチャー)を設立。現在は代表税理士を務める傍ら、MBA取得のため英国国立ウェールズ大学経営大学院に在学中。また、Mastercard® 最上位クラスで、富裕層を多く抱えるクレジットカードLUXURY CARDの「ラグジュアリーカード・オフィシャルアンバサダー」に就任。資産規模100億円を超えるクライアントの案件を数多く抱えてきた異彩を放つ経歴から、「日本一富裕層に詳しい税理士」として多数メディアに取りあげられ活躍する。

節税に活用しづらくなった保険商品

節税対策を行う際には、税制の変更に注意を払う必要があります。

たとえば、以前は100%損金として計上できる生命保険商品がありましたが、2019年に「バレンタインショック」と呼ばれる税制改正が行われ、今ではそうした商品を活用できなくなりました。保険金を5~10年払い続けると、解約返戻金が9割から10割戻ってくるような商品があり、制度の改正以前は保険エージェントもそのような商品ばかり経営者に売っていたものですが、課税庁に目を付けられてしまいました。

保険商品を節税対策として活用する場合は、そこに経済合理性があれば問題はありません。しかし、あまりにもやり方が極端であったり、実行する人が増えてしまうと、そこに課税の網がかけられるようになります。

こうしたイタチごっこは永遠に続くので、常に制度を注視しながら「今できることは何か」を考えていくことが必要です。

過去に流行ったさまざまな節税対策

少し前までは金の延べ棒の売買を繰り返すことで、制度上、消費税の還付を受けられる仕組みが存在していました。私は「金の延べ棒スキーム」と呼んでいましたが、これは1年ほど前に使えなくなりました。

また、それ以前には「自販機スキーム」と呼ばれる手法も存在しました。土地を購入して賃貸物件などを建てる前に、飲料などの自動販売機を置いておくことで、消費税の還付を受けられるという仕組みでした。一時は多くの仲介業者が顧客に対して自販機をセットで置くよう提案していたものです。

さらに、「社団法人スキーム」というのも流行りました。一般社団法人は株式会社と違って法人に対する持分を誰も所有していないため、いわば空中に浮いているような箱のようなもの。それを利用し不動産などを社団法人の所有に、役員を子どもたちにしておくことで、自分の死後も相続税の対象とならずに財産移転ができたのです。そのため、一時は全国的に社団法人が不動産を所有するケースが山ほどありました。

 ただ、そうした手法を認めてしまうと何でもありになってしまうため、結局、社団法人の所有にするほうが損になるよう税制が変更されました。

ポイントは経済合理性があるか、否か

この連載で不動産などの実物投資をお勧めしている理由は、投資家がきちんとリスクを取る性質のものであれば、課税庁もそこまで厳しくはならないからです。コインランドリー投資などは、所得税の即時償却ができるメリットがあり、国が推奨している新規事業投資のカテゴリーに入るため、むしろどんどん活用したほうが良いと思います。

コインランドリー投資も行う人が増えすぎると、課税の網がかけられるのではと懸念されるかもしれません。しかし、国としてはさまざまな事業を興して産業競争力を付けたいという狙いで税制上の優遇措置を設けているため、対象は何もIT企業のような先端分野だけに限りません。コインランドリー事業への投資を対象から外すとなれば、フランチャイジー事業全般を外さないと整合性が取れなくなります。結局、目に余るほど経済合理性がないやり方かどうか、という点がジャッジの基準になってくるのです。

経済合理性がなく、単に節税目的のためだけに行動すると、課税庁に目を付けられてしまうリスクが増えます。たとえば、医者から余命宣告半年と言われた企業オーナーが、あわてて個人資産を資産管理会社に移転してしまうようなケースです。経営戦略上、長期的な視点から持ち株会社と事業会社に分けるようなケースはもちろん問題ないため、全てのケースがNGというわけではないです。しかし、明らかに節税対策のみを目的にしていると見なされるような場合は、見せしめ的に課税庁に否認されることがあるので注意が必要です。

節税対策には信頼できる専門家のアドバイスを

課税の仕組みは頻繁に変わるため、海外の事例などから予測してリスクの高そうな手法には最初から手を出さないことが肝心です。特に、欧米の制度が少し遅れて日本に取り入れられやすいのは、官僚は大体、留学先として米国や欧州に行くことが多いのも一因です。

銀行などの金融機関が、相続税を下げるために経済合理性のない強引な手法を企業オーナーに提案する場合、否認リスクについて十分説明を行わないことがよくあります。だからこそ仮に提案を受けても、リスクについて十分な知識がない場合は、丁寧に説明をしてくれるアドバイザーや参謀を持つことをお勧めします。

われわれのような専門家は、海外の税制変更やリスクについて高い感度を持っているため「オーナーの皆様のお役に立てる」と自負しています。