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データと人智を融合させ、より先の品質を目指す「獺祭」の酒造り―旭酒造・桜井博志会長

日本酒を代表する純米大吟醸酒「獺祭(だっさい)」を造る旭酒造が、コロナ禍でも採用を大幅に増やしている。徹底的に酒造りをデータ化し、その数値の裏にある真実・微差を追求しながら、さらに美味しい酒造りを目指している。


桜井博志・旭酒造会長

(さくらい・ひろし)──1950年山口県岩国市生まれ。73年松山商科大学(現・松山大学)卒業、同年西宮酒造(現・日本盛)入社。76年旭酒造入社。84年社長。2016年会長就任。

隣接する小学校の児童数は8人。過疎地の山間に12階建ての銀色に輝くビルが突然現れる。「獺祭」を生み出す旭酒造の本社工場だ。「飲みたい酒」「勧めたい酒」等のアンケートで常に上位を占める「獺祭」だが、ブランドに安住する気配はみじんもない。桜井博志会長は「現状維持は劣化です」と厳しく断言する

同工場の製造スタッフは約120人。現代の製造業の流れからすると、最大利益を追求するためにはなるべく人を減らすことが要求される。効率化という名の下、機械化を進めて人件費を削減し、利益を優先する企業は少なくない。近年顕著な低コスト・低品質・低価格という流れがさらにそれを加速させた。

日本酒業界とて例外ではないが、桜井会長は「お客さまが満足する品質の進化を置き去りにしていないか」と疑問を呈する。同工場は各部門で精密な室温管理がなされ、糖度や重量などの計測・分析機器も充実している。

旭酒造本社蔵(山口県岩国市)

しかし、洗った米を水に浸したり、蒸した米に振りかける麹の繁殖むらを防いだりする工程はすべて手作業だ。「米の産地や湿度、水温などさまざまな要因で味が変わる。その加減は機械では難しい」という。

こうして、ただの「手作りの酒」や機械化による「省力化の酒」にはない「より先の品質」を目指し、データと人智の融合に取り組む現場からは、人員削減どころかむしろ増員を求められ、本年度は20人の採用を予定しているという。

この新たな労働集約型ともいえる方式は、顧客が求める対価以上の品質を提供するためだ。昨年11月、香港のオークションに最高品質の「獺祭」(720?)を出品し、日本酒では過去最高の84万3750円で落札された。

「長期熟成により価値を増すワインとは異なり、1年以内に飲んでほしいという酒が評価されたことに意義がある。生産に手間暇がかかる日本酒はもっと高価格で良いはず」と世界市場における価値を具体化して見せた。

上司に誘われて「獺祭」を飲んだある新入社員が「日本酒を飲んだことはなかったが『獺祭』は美味しいと感じた」という話を伝えると「初心者が飲んでも美味しく、美味を知り尽くした愛好家も唸らせる。幾重にも品質に扉があるのが『獺祭』です」という桜井会長。その先にある扉を、旭酒造の従業員は知恵と汗を絞り出しながら造り続けている。【AD】

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