経営者コミュニティ「経済界倶楽部」

日本一富裕層に詳しい税理士が説く「資産の残し方」(第4回)

会社と個人の資産を着実に残すための相続対策とは

事業に成功して富裕層となった企業経営者たちにとって、資産運用と防衛は大きな関心事だ。本シリーズでは、景気変動や税制改正などに直面しても、着実に資産を増やして繁栄を継続させるためのノウハウを、「日本一富裕層に詳しい税理士」と呼ばれる芦田敏之氏(税理士法人ネイチャー)が伝授していく。【AD】

芦田敏之氏プロフィール

芦田敏之(あしだ としゆき)1978年生まれ。神奈川県出身。2005年、税理士試験合格。2006年、税理士登録。2012年、税理士法人ネイチャー国際資産税(現:税理士法人ネイチャー)を設立。現在は代表税理士を務める傍ら、MBA取得のため英国国立ウェールズ大学経営大学院に在学中。また、Mastercard® 最上位クラスで、富裕層を多く抱えるクレジットカードLUXURY CARDの「ラグジュアリーカード・オフィシャルアンバサダー」に就任。資産規模100億円を超えるクライアントの案件を数多く抱えてきた異彩を放つ経歴から、「日本一富裕層に詳しい税理士」として多数メディアに取りあげられ活躍する。

遺留分で資産がどんどん目減りする現実

日本では相続税が55%もかかるため、何も対策を打たなければ一度目の相続で純資産の45%、次の代ではさらにその45%に減り、3代目の頃には現在の20%程度の資産しか手元に残りません。対策をしっかり打っている企業と比べると、企業としての力がどんどん弱くなっていくことになります。

相続対策を打つときには、遺留分について考慮しなくてはなりません。遺留分とは、死亡した被相続人の財産を配偶者や子どもといった法定相続人が継ぐ際、最低限保障される取得分のことです。たとえば、企業オーナーが亡くなって、その配偶者と子どもが遺産相続する場合の遺留分は、遺産全体の1/2となります。

家父長制の考えが強かった時代は、企業オーナーが会社を継ぐ長男などに遺産の大半を残すことが多い傾向がありました。しかし、今はそうした慣習が薄れ、他の相続人が弁護士を通じ、きっちり遺留分を渡すよう要求してくるケースも増えています。

相続税率が高いことに加え、遺留分で資産が分散することによって、3代続いた上場企業の場合は、創業家の持ち株が数%に減ってしまうこともあります。そうした事態を防ぐためには、相続対策をしっかり取り、未上場会社として継続する方が資産を残しやすいと言えるでしょう。未上場であれば相続税の評価対象となる資産を圧縮しながら、次世代に継承しやすくなります。

事業承継者の議決権を強くしておく

相続対策の1つとして、まずは事業相続者の議決権を強くしておくことが挙げられます。

企業オーナーが死亡した場合、持ち株は法定相続人に相続されることになります。たとえば、純資産100億円の会社で、オーナーの子ども4人が法定相続人だったとしましょう。遺言がない場合、遺言相続分である長男は株式の25%しか継げません。仮にオーナーが生前、長男に事業を継がせたいと考えていても、他の兄弟が結託すれば経営への影響力は長男より圧倒的に強くなってしまいます。

これはオーナーの持ち株が100%のケースですが、事前にオーナーが次男や三男に少し株を渡していたり等、株式が分散しているケースもあります。そうなると、相続時に長男の議決権がますます弱くなります。

対策としてはさまざまありますが、あらかじめ長男以外の相続人が保有している株を買い取っておくこと等が考えられます。

ただし、相続税の評価は決まっているため、事業承継者である長男が次男の保有する株を1億円で買い取ろうとしたとしても、相続税評価が2億円であれば2億円で買い取らなければいけません。そのまま1億円で買い取ってしまうと、残りの1億円は長男から次男へ贈与されたと見なされて贈与税の対象となってしまいます。

そこで、あらかじめ株価を低くしておくことで、長男から次男への株式譲渡をしやすくできます。仮に低く設定しすぎて兄弟間の合意額より買取価格が安くなってしまったとしても、次男には役員報酬や退職金といった形で不足分を補填することも可能です。

株価が市場で決定される上場企業と違って、未上場企業ではこのような工夫がしやすいのです。自分の死後、もめ事が起きないようにするためにも、オーナー経営者は生きている間に株式の整理をしておくことが大事です。

議決権の問題のほか、相続税の支払いのための現金を用意しておくことも忘れてはいけません。納税資金を用意していない会社は意外と多く、税理士が何も指示してくれない場合もあるので要注意です。

承継者が決まっていなくても相続対策は早めに

「相続対策は事業承継のプランニングをしっかり立ててから」と考えるオーナー経営者は多いのですが、これは大きな誤解です。仮に後継者が決まっていなかったとしても、株価を下げておく、納税資金を用意しておくといった対策は早めに行っておくに越したことはありません。事業承継するのが親族にせよ社員にせよM&Aにせよ、どう転んでもリスクを小さくすることが可能です。

株価を下げるとM&Aのときに損をするという意見もありますが、それは一面的な考えです。現在のM&Aは、売り手1に対して買い手30ぐらいのマーケットとなっているため、売り手のほうが圧倒的に交渉力を持っているからです。

少数株主が分散しているような場合はなおさら早めに手を打っておく必要があるでしょう。たとえば、事業承継者以外の少数株主が死亡した場合でも、遺留分でその配偶者や子供たちなどに株がどんどん分散していくことになります。万が一反社勢力などに株が渡ってしまうと大変ですし、M&Aで会社を売却するケースに備える意味でも、株は安く買いとれるときに買い取っておくべきです。

未上場企業は配当義務がないため、少数株主にメリットはほとんどありません。しかし、財務諸表の閲覧権など保障されている権利もあり、将来的に経営に口出しをされる可能性があります。ですから、種類株式などを使い、株式買取りをすみやかに行えるような仕組みを作っておくことが必要なのです。