ドローンを使った物流が本格化してきた。既に山梨県の山間部では定期的にドローンが荷物を運んでいる。都市部でも実用化を目指し、東京湾をドローンで縦断させるなど、さまざまな実証実験が行われている。ドローン物流の最前線を追った。文=ロジビズ・オンライン編集長/藤原秀行(『経済界』2021年9月号より加筆・転載)
ドローンで地方の物流ネットワークを維持
物流事業者やスタートアップ企業などの間で、小型の無人飛行機「ドローン」を物流に使おうとする動きが活発になっている。人口減少や高齢化が続く山間部や離島で、ドローンが生鮮食料品や日用品を購入した人の自宅まで自動で運び、住民の生活を維持できるようサポートするのが狙いだ。物流業界は深刻な人手不足に直面しており、ドローンを荷物の運搬手段として利用、地方エリアの物流ネットワークを維持したいとの思いもある。
政府は既に山間部や離島でのドローン物流を容易に行えるよう法整備を推進。次のステップとして、2022年度をめどに、人口が多い都市部の上空で、ドローンが操縦者の目が届かない目視外の遠距離まで飛ぶ「レベル4」を解禁する方向で準備を進めている。
日本の少子高齢化に歯止めが掛かるめどは現時点で全く立っていないだけに、先進技術を生かして日本社会が直面する危機を打開する潮流は今後さらに強まりそうだ。
山村住民の注文受け「朝食セット」などを空輸
東京都との県境に近い山梨県小菅村。4月から村内の上空をドローンが定期的に飛んでいる。物流大手のセイノーホールディングス(HD)とドローンの機体開発などを手掛けるスタートアップ企業のエアロネクストが連携し、ドローン物流の試験運用を行っている。5月22日にその模様を報道陣に公開した。
村内の空き家を利用した商品の保管・配送拠点「ドローンデポ」に住民から電話やメールなどを通じて食料品の注文が届くと、スタッフが商品をドローンに積み込み、受け取り場所に設定している空き地まで約500メートルの距離を数分で飛行。電話で連絡を受けた住民が空き地に赴き、商品を受け取って完了だ。ドローンは商品が入った箱を切り離すと、自動的に再びドローンデポ近隣の離発着場へ戻っていく。
試験運用を公開した際は週2日、1日当たり3回配送。対象の商品は牛乳や野菜、パン、卵などで、複数の商品を組み合わせた「朝食セット」なども注文可能。受け取り場所に着陸後、ドローンから切り離した商品をスタッフが注文した住民に手渡ししている。
将来は専用の台「ドローンスタンド」にドローンが直接荷物を置き、離陸してから最後まで完全に人手を介さず商品を届けられるようにすることを視野に入れている。
小菅村は人口約700人。村内には大型スーパーがなく、買い物は必要に応じて近隣の大月市などへ出掛ける必要がある。バスの本数は少なく、自動車が不可欠。高齢者の住民にとっては買い物自体の負担が大きい。
セイノーHDとエアロネクストは、小菅村のような全国の自治体を支援するため、ドローンなどの技術を組み合わせ、業務を効率化・省人化して山間部などの過疎地でも確実に荷物を各世帯へ届けられる物流サービス「スマートサプライチェーン」の確立を目指している。住民への配送の部分はドローンを使うほか、村内を走るバスに荷物を積んでもらって運んだり、住民の車を使わせてもらったりすることなども想定。その時々で最適な配送方法を選べるようにする予定だ。
小菅村では21年中をめどに村内の8集落すべてに配送ルートを開設、それぞれの集落の住民がドローン物流を利用できるようにする予定だ。実現すれば、国内の民間企業としては初めて、常時ドローン配送を実施できる体制を確立したことになる。
小菅村のように過疎地域を持つ自治体は全国で817に上る。エアロネクストの田路圭輔CEOは「究極の目標は817の自治体すべてでスマートサプライチェーンを使っていただくことだ。恐らく全体の2割まで導入が進めば、その後は一気に広がっていくと思う。2割に到達するまでどれくらいのスピードで取り組めるかが普及拡大の成否を占う上で重要になってくる」と展望する。
今後は風に強いタイプの機体を投入するなど、小菅村で着実にドローン物流の実績を積み重ね、他の自治体に展開していきたい考えだ。
東京湾上空にドローン物流の空路開設を目指す
東京湾が眼前に広がる千葉市美浜区の稲毛海浜公園。その一角にある駐車場に6月21日の午前10時半ごろ、グライダーのような独特の形状をした固定翼のドローン「カイトプレーン」が無事に降り立ち、見守る市の関係者や報道陣から歓声が上がった。
ドローンはこの日の午前9時ごろ、対岸の横浜市金沢区にある物流施設の建設予定地を離陸。東京湾上空を約50キロメートルにわたり、約1時間半をかけて同公園まで縦断飛行してきたのだ。離発着のみ人が操縦したが、それ以外は上空100メートルを自動飛行した。東京湾上空をそれだけの長距離にわたりドローンが飛んだのは日本で初めてだ。
ドローンの競技会運営などを手掛ける一般財団法人先端ロボティクス財団が横浜市や千葉市などと連携し、国土交通省の事業の一環として試験飛行を実施した。カイトプレーンは約100グラムの歯科技工物を搭載、特に問題もなく同公園まで届けることができた。
同財団はレベル4解禁をにらんで都市部でのドローン物流実現を目指して取り組んでおり、将来は東京湾上の超低空域にドローン専用の空路「ドローン物流ハイウェイ」を構築することを目標に掲げている。この日の試験飛行もそのためのデータ収集が目的だ。
同財団の野波健蔵理事長(千葉大学名誉教授)は今後も実験を重ねた上で23年中をめどにドローン物流ハイウェイの運営を始めたいとの考えを表明。物流事業者にも協力を呼び掛けていく意向を示した。ドローン物流ハイウェイは災害時の救援物資輸送にも応用できるとみている。
ドローン物流ハイウェイに関し、今回の実証実験で選んだ横浜、千葉両市のほか、東京都や川崎市など他のエリアも結ぶ可能性を指摘。利用する機体は長い滑走路を使わずに離発着することが可能で翼の大きさを変えられる可変翼eVTOL(電動垂直離着陸機)を採用することを想定していると明らかにした。狭い場所でも離発着できるようにしたいとの思惑がある。
野波氏はドローン物流ハイウェイに関し「単位重量当たりで高価値の物を運びたい。貴重なものをドローンで早く届けるミッションを果たしたい」と説明。都市部上空を飛ぶことでサービスの単価を上げ、収益を確保する計画だ。
今回の実験で取り扱った歯科技工物も100グラムで50万円相当と、高価値のものを運ぶという狙いを体現した。実際、歯科医から歯科技工物をドローンで運んでほしいという依頼が同財団に寄せられたという。東京湾上空をドローンが日常的に行き交う日が着実に近づいている印象だった。
物流担う事業者免許の条件などの議論も必要
参議院で6月4日、改正航空法などドローンに関係のある法律が可決、成立した。改正法はドローンを安全に操縦できる技能や知識を有していると国が認める「技能証明制度(操縦ライセンス)」を創設したり、政府がドローンの機体の安全性を証明する「機体認証制度」を導入したりすることを盛り込んでいる。さらに、ドローンが深刻な事故を起こした場合、国の運輸安全委員会に実態を調査できる権限を付与することも打ち出している。
一連の法改正はレベル4の実現に向け、ドローン飛行の安全性をよりしっかりと担保できるよう環境を整備するのが目的だ。
ドローンの産業分野での利用促進に取り組んでいる一般社団法人日本UAS産業振興協議会(JUIDA)などが主催、6月14~16日に千葉市の幕張メッセで開催した国際展示会「ジャパンドローン2021」で講演した内閣官房小型無人機等対策推進室の長﨑敏志参事官は「レベル4実現の際、国民の皆様から役に立ったと評価いただけるようにしていきたい」と説明。安全面での規制を整備しながら、離島や山間部での物流、医薬品配送などへの活用を後押ししていく意向を示した。
JUIDAの鈴木真二理事長は技術的な問題などから、レベル4解禁後、実際にドローンが都市部の人が多く住んでいるエリアで物流を担えるようになるには数年要するとみられ、まずは地方都市で活用が始める可能性が大きいとの見解を表明。その上で「ドローン物流を担う事業者免許の条件などの在り方についても議論を早急に進めていく必要がある」と指摘している。