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ネットスーパーの対抗場、即時配達を実現する 「ダークストア」とは

コロナ禍で利用者が急増したのがネットスーパー。その多くは、既存の店舗を拠点としているが、海外では、ダークストアという客の入らない店舗を拠点にしたネットスーパーが人気を集める。そのダークストアが日本にも誕生。ネットスーパーの戦国時代が始まった。文=ジャーナリスト/下田健司(『経済界』2021年11月号より加筆・転載)

10分で商品を届けるダークストアベンチャー

 「OniGO(オニゴー)」という店舗が8月25日、東京都目黒区鷹番にオープンした。店舗といっても店売りをするわけではない。「ダークストア」と呼ばれる配送専用の店舗だ。運営するスタートアップのOniGOは、年内に都内で25店舗のダークストア出店を目指している。

 商品は生鮮食品、一般食品、冷凍食品、日用品など1千点を揃えるが、今後2500点まで増やす考え。それでも、スーパーが2万点以上を揃えているから、かなり絞り込んだ品揃えだ。

 スマートフォンアプリから注文を受け付け、半径約1キロを配送エリアに、配達員が自転車で10分以内に届ける。年中無休、営業時間は10時から22時まで。配達料金は300円(税込)だ。

梅下直也・OniGO社長
OniGOの梅下直也社長

 東急東横線学芸大学駅から徒歩10分。駅前には商店街が広がり、住宅が密集するエリアだ。スーパーが駅から離れたところにあり不便なこと、また感度の高い生活者が多いといったことから、この場所を選んだという。

 そもそもダークストアとは何か。その先駆者としてよく知られるのが英スーパー大手のテスコだ。同社のネットスーパー事業は当初、実店舗で商品をピッキングしていたが、効率改善のためピッキング専用の店舗を開設した。店内に商品は陳列されているが、客に知られることはないためダークストアと呼ばれる。国内では、セブン&アイ・ホールディングスが2015年、東京都荒川区西日暮里にネットスーパー専用店舗を開設した。このほか西友が16年、1階が通常のスーパーの売場、2階がネットスーパー専用スペースという「ハイブリッド型店舗」を東京都練馬区豊玉南にオープンしている。

 オニゴーは同じダークストアでもネットスーパーと違って最短10分という短時間で配達するのが最大の売りで、今すぐ欲しいという需要の取り込みを狙う。

世界的に拡大する「即時配達」需要

 代表取締役の梅下直也氏は、「海外ではダークストアから食品を即時配達するサービスが拡大している。コロナ禍での巣ごもり需要からネットスーパーの利用が拡大している日本でも即時配達の需要が見込まれる。まもなく4兆円に達するとみられる国内ネットスーパー市場の5割を即時配達が占めるようになる」と意気込む。

 梅下氏が話すように、米国や欧州では食品の即時配達サービスが拡大している。メインプレーヤーはスタートアップだ。即時配達はqコマース(qはquickの意味)とも呼ばれ、スタートアップが続々と登場している。米ゴーパフなどベンチャーキャピタルから多額の資金を調達しユニコーンに成長している企業も少なくない。

 このほか、中南米で事業を展開するメキシコのジョーカー、ドイツを本拠に欧州で事業展開するゴリラなどが最近ニューヨークに進出するなど米市場開拓に向けた動きも活発で、既に競争が激しくなっている。

 このほか、独のフリンク、英のジフィー、ウィージー、ゲッティアー、ディジャ、ザップなど、多くのスタートアップが事業に乗り出している。今後、こうした企業の中から日本市場に参入するケースも出てきそうだ。

実店舗を拠点に迎え撃つコンビニ

 国内コンビニエンスストアも即時配達サービスを強化し始めている。

 セブン&アイは今年7月に公表した中期経営計画で、傘下のセブン-イレブン・ジャパンの宅配サービスを拡大することを打ち出した。

 セブンが手掛けている宅配サービスは「セブン-イレブン ネットコンビニ」。17年に北海道の一部店舗で試験的にサービスを開始し、その後広島県、東京都へと地域を拡大。21年8月末時点で、500店超でサービスを提供している。
 ネットコンビニはセブン-イレブン店舗からの配達サービス。対象エリアは店舗から半径500メートル圏内。対象商品は店内商品の9割以上で、約2800アイテム。スマホで注文し、最寄りの店舗を指定すると、最短30分で商品が届く。1千円(税別)以上の注文から受け付け、配送料は330円(税込)だ。

 注文を受けると、店舗スタッフが携帯するスマホに通知が届き、商品をピックアップする。配送業務を担うのは、提携する物流大手セイノーホールディングスの子会社GENie(ジーニー)だ。

 高密度に張り巡らされたセブンの店舗網やリアルタイム在庫管理などを生かしたサービスと言える。リアルタイムで店舗在庫を把握し、サービスの円滑な提供につなげている。

 最大のセールスポイントは、なんといっても最短30分という配送時間だ。当初は2時間だったが、客からの要望を受けて配送時間を段階的に短縮してきた。その結果、サービス利用件数も増えたという。

 食材や飲料などがよく購入されるネットスーパーと違い、弁当や総菜、カウンターフーズの揚げ物など、店舗と同じように即食商品が売れているという。料理宅配サービスの利用に近く、即食需要を取り込んでいる。21年度末までに1千店に増やし、25年度に全国展開を完了させる計画で、営業利益を5%押し上げる目標を掲げる。

 一方、ローソンは宅配代行事業者と組んで宅配サービスを拡大している。現在、導入しているのは「Uber Eats(ウーバーイーツ)」「foodpanda(フードパンダ)」「Wolt(ウォルト)」「DiDi Food(ディディフード)」の4サービスだ。

 初めて導入したのはウーバーイーツ。19年8月に実証実験を直営4店舗(東京都内)で開始し、サービス提供店舗を拡大してきた。取扱商品は当初約100品目だったが、現在は約370品目まで増やしている。

 20年11月にはフードパンダのサービスを直営7店舗(札幌市と福岡市)で開始した。フードパンダは、アジア各国で展開しているフードデリバリーサービスで、日本では20年9月にサービスを開始した。

 今年に入ってからは、4月にフィンランド発の宅配サービス、ウォルトを導入。東京都内の「ナチュラルローソン」13店舗で開始した。ウォルトは女性にも多く利用されており、ナチュラルローソンとの親和性が高いと考えたという。ファストフードに加え、オーガニックのボディソープや香料・着色料無添加の洗剤などの日用品を含め、約400品目を扱う。さらに7月には、タクシー配車プラットホームの「Didi Chuxing(滴滴出行)」傘下のDiDiフードジャパンが運営するディディフードを福岡市の14店舗で開始した。

 ウーバーイーツでは扱い商品や新サービスも拡充している。今年2月に国内初となる医薬品の配達を開始。6月にはウーバーの持ち帰りサービスを都内10店舗で導入した。ローソン店内調理のできたて総菜や、人気の「からあげクン」の大容量タイプを事前に注文しておくと、店舗で待たずに受け取れるようにしている。

 コロナ禍による宅配需要の高まりを受け、ローソンの宅配サービス導入店舗数は今年8月末で32都道府県の約2100店舗に達した。21年2月末には3千店舗に拡大する計画だ。

 一方、ファミリーマートは、今のところセブンやローソンのような拡大戦略は打ち出していない。20年11月、menuが運営するデリバリー&テイクアウトアプリ「menu(メニュー)」で、店内商品約300品目を配達するサービスを都内10店舗で開始。今年8月末で、全国約50店舗で導入している。配達エリアは半径3キロ程度。今後の拡大について、具体的な店舗数は掲げていない。

即時配達サービスにネット企業も関心

 食品の即時配達サービスの例は、これまでもなかったわけではない。楽天グループは15年、最短20分で食品や日用品を配達するサービス「楽びん!」を開始した。その後、フードデリバリーサービスを軸に据え、「楽天デリバリー」のサービスの一つとなっていたが、今年7月、事業再編によって、資本業務提携関係にあるぐるなびが楽天デリバリー事業として承継した。

 楽天の即時宅配サービスは定着しなかったが、ここへきてネット企業の参入意欲は高まっている。

 IT大手のZホールディングス(ZHD)は、グループ会社である通販のアスクル、宅配サービスの出前館と、日用品や食料品を即時配達する即配サービスの実証実験を21年7月末から東京都板橋区を含む一部エリアで実施している。

 出前館のサービス上で、アスクルが扱う約300種類の商品の中から注文すると、最短15分で商品を受け取ることができる。出前館の配達員は受注後、都内の専用倉庫で注文商品を受け取り、自転車やバイクで配達先に届ける。ZHDでは、「欲しい時に欲しい商品が手に入る」を実現するサービス開発につなげていきたいとしている。

 このほか、フードデリバリーサービスのフードパンダを運営するデリバリーヒーロージャパンが、即時配達サービス「パンダマート」を7月26日から神戸市でスタートさせている。配達専用ストアから日用品や食品など1500種類の商品を注文後30分で届ける。今後、サービス提供エリアを拡大していく計画だ。このほか、韓国のネット通販最大手のクーパンが、今年6月から日本で試験的にサービスを提供している。

 一方、既存のネットスーパー事業を強化する動きもみられる。

 アマゾンジャパンは15年から有料会員向けに「Prime Now(プライムナウ)」を提供していたが、21年3月にサービスを終了した。プライムナウは地域の小売業と手を組み、生鮮食品や日用品を最短2時間で配達するサービスだが、離脱する小売業が相次いでいたためだ。一方で、今年7月には有料会員向けの食品宅配サービス「Amazonフレッシュ」の最短の配送時間を従来の4時間から2時間に短縮した。

 小売大手の投資も活発だ。イオンは23年に英ネットスーパー大手オカドと提携し千葉市に自動倉庫を開設する。セブン&アイもネットスーパー専用の配送センターを、23年春をめどに横浜市に開設し、「イトーヨーカドー」約30店舗の配送エリアをカバーする計画だ。

 即時配達は、ネットスーパーと異なる新たな需要を掘り起こせるのか。食品宅配は新しい競争の段階を迎えている。