1年前の今頃はコロナ禍が続いていたこともあり、2021年の株式相場には悲観的な見方が強かった。しかし実際には30年ぶりに東証の平均株価が3万円を超えた。これを「予言」したのがマネックス証券チーフ・ストラテジストの広木隆氏。広木氏は22年の株式相場をどう読むか。(『経済界』2022年2月号より加筆・転載)
広木 隆・マネックス証券チーフ・ストラテジストプロフィール
日経平均は3万8900円に近づく可能性も
―― 広木さんは2020年末に「21年は株価は3万円台を回復する」と予測、実際、4月に日経平均は30年ぶりに終値でも3万円を突破しました。そこで、22年の株式相場の見方を教えていただきたいと思います。
広木 株式相場を考えるにあたっての一番の基本は、企業業績です。前期はコロナ禍で業績が悪化した企業が多かったのに対し、今期はその反動もあり、今3月期の純利益は5割増になると見られています。その場合の日経平均のEPS(一株あたり純利益)は2300円前後です。仮にPER(株価収益率)が14倍なら、株価は3万2200円となります。このPER14倍というのはかなり控え目で、過去の平均は15倍なので、その場合3万4500円という株価が導き出されます(グラフ参照)。
増益率のピークは今期ですが、来期も1割程度純利益は増える見込みで、仮にEPSが2500円なら、EPS14倍なら3万5千円、15倍なら3万7500円となります。
―― そうなると、1989年大納会の3万8900円超えが見えてきます。
広木 そうなっても不思議ではありません。というのも、日本に限って言えば、コロナの収束が見えています。東京の感染者はずっと30人以下で、一桁の日もあります。ブレークスルー感染の恐れはありますが、3回目のワクチン接種の準備も進んでいます。
このように、日本のコロナ対策は、世界的に見てもうまくいっています。これは精神的に非常に大きく、国内景気の回復期待と株価上昇につながる可能性があります。さらにはコロナ対策の成功国として海外投資家の日本市場への関心が高まればそれも株価を押し上げます。
―― その一方で、アメリカではインフレが進み、それが円安を招いています。しかも原油高が続き、それによる影響がさまざまなところに出ています。株価への影響はないですか。
広木 もちろん懸念材料ではあります。ただしアメリカのインフレの原因のひとつは、コロナ禍による供給制約です。海外では感染者数が増えているところもありますが、減少と増加を繰り返しながらも、22年には収束へ向かうステージが来ることを期待しています。そうなれば供給制約も解消に向かうのではないでしょうか。
―― 日本の消費はどうでしょう。一部で人出は増えていますが、その一方でコロナ前には戻らないとの見方もあります。
広木 これからです。東京都内の会食も、4人以内から8人以内へと緩和されました。外食費は夏に比べれば明らかに増えています。年末年始の人の移動も増えるでしょうし、22年には明るさが増してくると思います。
―― ということは、あくまでコロナ収束が前提ですが、22年は不安要素はないということですか。
広木 もちろん不安要素はあって、その第一がアメリカの利上げです。既にアメリカの株価の上値は重くなってきています。ただし、その影響はあくまで限定的だとみています。というのも、パウエルFRB議長が再任され、副議長にハト派のブレイナード氏が就任することで、今後の金融政策の先行きが見通せたからです。市場は既に3回程度の利上げを織り込んだうえでの現在の株価ですから、警戒感は必要ですが、それほど悲観はしていません。
もうひとつの懸念材料が、グローバル景気のピークアウトです。コロナにより景気は20年に一気に悪くなり、21年に急速に戻りましたが、既に峠を越しています。またISM(米製造業景気指数)や製造業PMI(購買担当者指数)も悪化しており、企業業績の伸びも22年に鈍化することは確実です。その一方で、コロナの収束という好材料もある。つまり景気のスローダウン、企業業績の鈍化、そしてコロナの収束、そのバランスを取らなければいけませんから、FRBには微妙な舵取りが求められます。
「時代はスモール」スタートアップへの期待
―― 一方国内では、11月に岸田政権初の経済対策を打ち出しました。55兆円という過去最大の規模ですが、市場は全く反応しませんでした。
広木 額は確かに大きいのですが、経済を浮揚させるような効果は恐らくない、というのが大方の見方だと思います。給付金に代表されるように、弱者救済的な色彩が強く、景気に対する影響は限定的のため、マーケットはほとんど反応しなかったということでしょう。それと岸田首相が掲げる「新しい資本主義」というのがどういうものなのか、今一つよく分からないことも理由のひとつです。しかもそこからは成長戦略が見えてきません。
―― 9年前に安倍政権が誕生した時から、成長戦略が必要と言われ続けてきたのに、いまだ見えてこないというのは、どこに問題があるのでしょうか。
広木 そのためには企業が自由に活動できる環境が必要です。とはいえ1990年代から、オリックスの宮内さん(義彦氏)が議長を務めた総合規制改革会議などでも、政府に対して規制改革を訴えてきましたが、今も同じ課題を抱えたままです。結局日本では、既得権益や自分たちがつくったルールを変えたくない人たちがいて、それが自由な企業活動を阻害しています。
岸田政権はスタートアップの支援に力を入れると言っています。それは評価していますが、最大のスタートアップ支援策は規制改革です。規制を極力なくして自由に競争する環境をつくってあげれば、若い企業は自由に動けるようになります。
ただ、ここにきてようやく日本も変わりつつあるように思います。
2021年の上半期、IPOした企業数は120社を超えました。これはIPOブームと言われた06年以来の多さです。あるいは上半期、日本全国で新たに誕生した企業が6万6千社ありました。これは過去最高で、20年と比較しても3割ほど伸びています。それだけスタートアップが増えています。
長い間、日本ではベンチャーやスタートアップは育たないと言われてきましたが、最近はそうでもありません。しかもカネ余りもあって、資金調達の方法も多様化し、スタートアップからIPOまでのエコシステムもできてきました。ですから、ここに規制緩和が加われば、さらにスタートアップは勢いづきます。それができなくても、せめて邪魔だけはしてほしくない。環境が整えば日本にもGAFAが生まれるとまでは言いませんが、間違いなく経済のダイナミズムが生まれます。
先日、テレビに出た時、フリップに今のキーワードを書いたのですが、僕は「スモールの時代」と書きました。東芝が会社を3分割することを決めましたが、アメリカではGEが、やはり3分割します。ジョンソン・エンド・ジョンソンもそう。昔は会社の規模は大きいほどいいと言われてきましたが、今や小さいことによるスピード感がまさります。その意味でスタートアップは究極のスモールです。彼らが活躍できる社会になることを強く望みます。
半導体関連は好調 要注目はメタバース
―― 最後に、22年に期待できる業界・業種や銘柄を教えてください。
広木 一つは半導体関連、中でも半導体製造装置関連です。半導体製造においては日本企業は主導権を失いましたが、製造装置や、それを支える部品は今でも日本のお家芸です。今後、テクノロジーはますます進化していきます。5GもAIもそう。DXは今では常識となりつつあります。そのため半導体の需要は絶対になくなりません。ですから半導体を作るのに欠かせない最新技術や、部品、部材をつくっている会社、例えばレーザーテック、イビデン、東京応化工業、JSRなどが該当します。今度台湾のTSMCが、つくばに半導体製造の後工程(パッケージ化等)の研究開発拠点をつくりますが、これも日本の部品・部材メーカーがあったからこそ、TSMCは日本を選んだのです。
その中の1社、イビデンは、基盤製造やパッケージで高い技術力を持ちますが、もともと揖斐川(岐阜県)の発電所として設立されていて、今でも自分たちの水力発電所を持っています。今、脱炭素は世界的な流れで、アップルは自社電力を100%再生可能エネルギーにすると宣言しています。これをサプライヤーにも求めていますが、イビデンはすぐに手を挙げることができるわけです。
―― その他はいかがですか。
広木 最近のトレンドで言えば、メタバースですね。フェイスブックが社名をメタに変更しましたが、それだけ可能性があるということです。これについてもGAFAが先行しているように見えますが、任天堂の「あつまれどうぶつの森」というのは元祖メタバースです。アバターがバーチャル空間で活動する。コロナで結婚式を取りやめた人の中に、どうぶつの森の中で披露宴を開いた人もいるそうです。企業のイベントも開かれています。こうしたソフト産業では日本は強さを発揮できます。
さらに、メタバースと非常に親和性があるのがNFT(非代替性トークン)です。メタバースの中ではいろんな権利を売買できますが、それを保証するのがNFTです。ですから今後、NFT関連の企業も要注目です。