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第5回 上司は正しいブレーンストーミングを覚えて実施しよう -加藤昌治

加藤昌治

【連載】『考具』著者が教える、自ら企画し行動する社員の育て方

こんにちは。加藤昌治です。社員あるいは部下の方々から「アイデア入りの企画」を出しやすくする環境マネジメントを実践的に考える本連載。第5回は、前回の「云い出し」で集まってきたアイデアをどうするかがテーマ。次のアイデアの「云い換え」技とともに必須なのが、「ブレーンストーミング」の実施です。正しいやり方を覚えて、アイデアを広げていきましょう。(文=加藤昌治)

加藤昌治氏のプロフィール

加藤昌治
(かとう・まさはる)1994年広告会社入社。情報環境の改善を通じてクライアントのブランド価値を高めることをミッションとし、マーケティングとマネジメントの両面から課題解決を実現する情報戦略・企画の立案、実施を担当。著書に『考具』(CCCメディアハウス)、『発想法の使い方』(日経文庫)、ナビゲーターを務めた『アイデア・バイブル』(ダイヤモンド社)のほか、新著『仕事人生あんちょこ辞典』(共著:角田陽一郎。KKベストセラーズ)など。YouTubeで、角田陽一郎と加藤昌治の「お悩み『あんちょこ』ライブ相談会」をスタート1994年広告会社入社。情報環境の改善を通じてクライアントのブランド価値を高めることをミッションとし、マーケティングとマネジメントの両面から課題解決を実現する情報戦略・企画の立案、実施を担当。著書に『考具』(CCCメディアハウス)、『発想法の使い方』(日経文庫)、ナビゲーターを務めた『アイデア・バイブル』(ダイヤモンド社)のほか、新著『仕事人生あんちょこ辞典』(共著:角田陽一郎。KKベストセラーズ)など。YouTubeで、角田陽一郎と加藤昌治の「お悩み『あんちょこ』ライブ相談会」をスタート。https://www.youtube.com/channel/UCbUSxWWmauPazkahrFrBXhQ/videos

今回も、まずは読者からのご質問と前回の復習

質問:アイデアを持ち寄った後の上司の役割は何でしょう?

質問:「云い出し」の後、部下には何をやらせるべきなのでしょうか?

 前回(「直感的な云い出しの技「死者の書」でアイデアを考えてみよう」)、前々回(「アイデア出しの技『云い出し』と『云い換え』って?」)と連続してアイデアを出すというスポーツの個人技、「云い出し」の技について説明してきました。

 アイデアを出すための方法はいろいろ、すでにそこそこの数のアイデアが上司の皆さんの手元にある……はずですね。アイデアを出せ、出したアイデアを持ってきてね、と依頼した手前、上司の皆さん的には「次はどうするの?」は自然に浮かぶご質問でしょう。

 部下の皆さんがアイデアを持ち寄ってきたら、やるべきは「ブレーンストーミング」です。「べき」という、ちょっと強い表記を使いました。なぜかというと、「云い出し」技で各自が出してくれたアイデアが集まっただけでは、メンバーが持つアイデア創出力を十分に発揮できた、とは言えないからです。

 アイデアを集めた後で、もうひと仕事。「ブレーンストーミング」(ブレスト)を実施することで、さらにたくさんのアイデア≒選択肢を部下から出してもらってください。でないとモッタイナイ。メンバーが2人以上いるなら、ブレーンストーミングは必須のチーム技である、と言い切ってしまいます。

 ところが、ブレーンストーミングって、「なんとなく聞いたことはある/やったことがあるけど、ちゃんとやったことのないビジネススキル」のいわば代表格なんじゃないかしら、と思います。

 「何人か集まってアイデアを出し合うのがブレストだよね?」。大まかに言えばそうなんですが、ではもう少し具体的に「出し合う」ってどうするの? と聞かれたら……。結果として、日本の各地で行われている「ぶれーんすとーみんぐ」(イヤミの意味で、あえてのひらがな)」は、ブレストもどきでしかありません。

 ということで、今回はブレーンストーミングの作法と、実施するに当たって上司が果たすべき役割、あり方についてご説明します。なお、ブレストの実施には「云い出し」と「云い換え」の2つの技が必要になります。今回はこの2つの関係性について記載しますが、具体的な「云い換え」技の実際は次回。

まずチーム技としてのブレストとは何かを理解しよう

 さて、ブレーンストーミングとはどんなスキルなのか? 私自身の定義を最初に明確にしておきましょう。

 ブレーンストーミングとは、「云い出し」と「云い換え」の連続技によって、制限時間いっぱいまでアイデア(選択肢)を増やし続けるチームプレーである。

 です。「云い出し」とは、個人の中からアイデアを生み出す技、そして「云い換え」は、他人のアイデアを元手にして新しいアイデアを生む技です。「云い出し」のアイデアをA案、B案、C案、D案……と記号化すると、「云い換え」のアイデアは、A’案、A’’案、 A’’’案/C‘案 C’‘案……と、元手アイデアである「A案」や「C案」から派生したアイデアです。

 したがって、ブレーンストーミングの進行、流れを記号化すると、「A」→「A’」→「A’’」→「A’’’」、いったんアイデアの流れが途切れたら、次に「B」→「B’」→「B’’」……と「云い換え」を交えつつ、アイデアが増え続ける一方、な時間になります。

 そして「A’案」や「B’案」といった派生アイデア(云い換えアイデア)を出すのは、集まっているメンバー(部下の皆さん)の仕事。上司としては、この「A’案」や「A’’’案」をどれだけたくさん誕生させられるか? が腕の見せ所になります。

ダメなブレストもどきはアイデアの広がりを止める

 ところが、正しいブレストのやり方を知らずに、ブレストもどきのセッションでは、おかしな進行になりがちです。この原因が上司の発言なんですね。そんな「ダメなあるあるパターン」の代表が「云い出し&判断」になってしまうケースです。

【ダメな上司のブレストの例】

部下1:「A案、って考えてみました」(「云い出し」アイデアを披露する)

上司:「うーん、どっかで見たことあるな」

部下1:「……」

部下2:「僕はB案とかどうかなって」

上司:「実現度、どうなのよ」

部下2:「……」

部下3:「C案、ってのもあると思うんですよね」(若干ビビりつつアイデア披露)

上司:「ピンと来ねえなあ」

部下3:「……」

部下一同:「……」

 こんな失敗、やってしまったご経験、ありませんか? これ「云い出し&判断」の連続になってしまっています。ブレストの最中に、上司は「一問一答」してはいけません! せっかくメンバーが集まっているのに、アイデアの数がぜんぜん増えていきません。集まる意味はどこにある? という話です。

 そりゃ上司のみなさんも人間ですから、A案なりC案を見た瞬間に「良いアイデアかどうか」脳裏の中で「判断」がひらめきます。でも、その判断を直後に口にしてはいけません。確かにいろいろ思うでしょう。思っても「後に」してください。ここが上司としての超重要ポイントです。

 繰り返しますが、ブレストは「アイデアを増やすための時間」であり、一つ一つを判断する場ではないのです。前回も「アイデアを出すだけの時間」と「選ぶだけの時間」を分けましょう、とお伝えしました。どのアイデアを採用するかは「後で」やる。この時間の使い分けが上司の大事な仕事です。

 そして上記のダメなブレストもどきでは「実現度、どうなのよ」と上司が発言してしまっていますが、これもありがちな失敗です。なぜか。「アイデアはまだ企画ではない」からです。

 こちらも繰り返しになりますが、アイデアはまだパーツでしかありません。企画として必要な全体を網羅していないのです。ゆえに、実現度の視点でアイデアを判断したら、そりゃ全部ダメです。足りない部分がいっぱい見えてしまいます。上司の皆さんの豊かな経験が邪魔をしてしまう。「パーツとしては良いかもね(まだ企画にはなってないけど)」という態度で部下の発言/アイデアを見る。これがブレスト時点での正しい「あり方」です。足りない部分は、企画に整えるプロセスで調整してあげてください。

 部下の方々から、できる限り数多くの選択肢としてのアイデアを出してもらうことがブレーンストーミングの目的です。そしてチームとして「これはイケるんじゃないか?!」というグッドアイデア(まだパーツだけど!)を1つか2つ、多くても3つ4つほど選択できれば効果バッチリ、目的達成です。

 そう、ブレストの次に来るのは「選択」「ピックアップ」です。全てのアイデアについて「評価」することではありません。アイデアはまだ単なる選択肢。アイデアが数多く集まれば、当然ながら玉石混淆。ダメなアイデアもたくさんあります。ブレストの場で、ダメなアイデアを「ダメだ! ダメだ!!」と非難することに意味はありません。

 仮に部下のアイデア力を伸ばすための叱責がしたいならば、メンバーが揃った面前で行う必要はないですよね(特に昨今の若者たちに対しては!)。個別に時間を確保して、丁寧に指導してあげてください。

良いブレストはアイデアの数、幅、豊かさを広げる

 上記を踏まえて、理想的なブレストの進行ってこんな感じです。

【理想的なブレストの例】

部下1:「A案、って考えてみました」(「云い出し」アイデアを披露する)

部下2:「だったら、こういうのもありますかね(A’案が出る)」

部下3:「もっと広げると、A’’はどう?」

部下2:「なるほど〜。だったら A’’’もあるか〜」

上司:「実現度は後にして、だとどうかね?」

部下3:「予算のこと後回しですけど、A’’’’もありそうっすね」

(などアイデアが増えつつ、どこかで「云い換え」が止まる)

上司:「じゃ、次行ってみよっか」

部下2:「B案考えてみました」

部下1:「B’案、どうすかね」

部下2:「云われて気がついたけど、B’’案忘れてたっす」

部下3:「B案からは離れちゃうけど、P案とか」

上司:「おお。あるねあるね〜。もっと数出してみよう?」

(以下、時間制限までアイデアの数が増えていく)

 どうでしょう。部下1が持ち寄ってくれた「A案」を起点に、A’案、A’’案と「云い換えアイデア」がその場で部下2や部下3から生まれる。この’(ダッシュ)アイデア、もともとA案を考えてくれた、部下1は思いつかなかったものです。これが「集合知」。2人以上集まっているからこそ生まれたアイデア。こうした「派生アイデア」を手に入れることができるかどうか、で上司の皆さんが取り得る「選択肢の幅」は広くなるはず。広げたいですよね?

 また、ダッシュ案からポンと跳んで「P案」が生まれる可能性があることもブレーンストーミングのありがたさ。同じ1時間を費やしたとしても、「云い出し&判断」と正しいブレストとの間で、上司の目前に出てくるアイデアの数、幅、豊かさが異なってきます。この嬉しい状況を創り出すのが、ブレストを主催し進行する上司の皆さんの役割です。

 あ、アイデアが多すぎて困る、なんて言わないでくださいね。出てきたアイデア全部についてコメントする必要はありません。良いアイデアだけ、最後にピックアップすることは、そんなに難しいことではないはずです。

 並行して、A案からA’案、A’’案を引き出すための「云い換え」の技を部下の皆さんが使えるようにならないと、こうした展開にはなりません。ブレストはチームプレーなので、プレーヤー個人が「云い換え」に慣れていないと、あるはずの「表に出てきていないアイデア」はいつまでも水面下のままです。これはこれで上司として部下のアイデア創出力を鍛える、導く役割があるのは言うまでもありません(詳しくは次回以降に!)。

 さらに言えば、1回のブレーンストーミングで、「これこれ!」ってグッドなアイデアが出てくるかどうかはわかりません。場合によっては「もういっちょ」もあり得ます。上司はアイデア出しのデッドライン=いつまでアイデアを迷っていられるか、はわかっているはずですから、メンバーの状況も見ながら、適切なブレストの回数を設定することも必要になります。

 ブレストで良い案が出ないなあ……とお悩みだとしたら、その責任、実は上司にあることが多いです。個別のアイデアを一つ一つ判断しない。ダメなアイデアだったとしても、そのアイデアを元手にしてアイデアを追加できるように部下を促していく態度。最初はちょっと苦労しますけど、試してみる価値大いにあります。ぜひトライしてみてください。

※本連載では読者の皆さまから加藤氏へのご質問もお待ちしております。質問は全て加藤氏にお届けします。その質問、送ってください!

質問送り先:企画編集担当・大澤osawa@keizaikai.co.jp(タイトルに「加藤氏連載の質問」とご明記のうえ、本文に「質問内容」と、記事の感想なども頂けたら嬉しいです)