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「健康流通」が当たり前の世界にAI活用で人々が幸せになるーヒューマノーム研究所

ヒューマノーム研究所 社長 瀬々 潤(せせ・じゅん)

データを解析する新しいAI(人工知能)を作り出すアカデミックの世界から、ビジネスの世界へ飛び込んだ瀬々潤社長。「生命科学」と「データ科学」を融合し「気づいたら健康状態が保たれている世界」を実現した未来を思い描いている。その具体的なプランは壮大だ。

ヒューマノーム研究所 社長 瀬々 潤(せせ・じゅん)
ヒューマノーム研究所 社長 瀬々 潤(せせ・じゅん)

人類の健康データを取得し解析データを社会に還元する

新型コロナウイルスの蔓延を機に、スマートウォッチに注目が集まっている。症状を測る目安の一つである血中酸素飽和度を簡易的に測定できるタイプがあるためだ。他にも、メガネや靴にセンサーが埋め込まれ、「生体データ」を取得できる商品がさまざまなメーカーから販売されている。これらを活用すれば、心拍数や日ごとの歩数、仕事中の姿勢などの生体データを容易に得られるのだ。

ヒューマノーム研究所はさまざまな企業や研究機関と協業することで、大量の生体データを集めて解析する「ハブ」だ。精鋭のプロ集団がAI解析し、病気の早期発見や健康維持、未病対策などに取り組むヘルスケア分野へ解析データを社会還元する。

「当社は人々が幸せになるためにAIの活用を考える会社です。無意識のうちに健康が維持されている環境を通じて、人々が幸せになれる世界を創りたい。そのためには健康流通をもっと増やす必要があります」

「健康流通」は瀬々氏の造語だ。今後の社会では、生体データを含むあらゆるデータが貨幣と同等の価値を持ち、健康データが人々の幸福を生み出すようになる。瀬々氏が思い描くのは、健康データの流通量を増やすことで人々の健康の総和が増える未来だ。

瀬々氏はもともとアカデミックの世界で新しい機械学習アルゴリズムやAIの構築をする研究者だった。扱ってきたデータは主に、医療・製薬・農業分野の遺伝子情報やカルテ、細胞画像など生命科学の分野のもの。20年以上続けた研究者生活からビジネスの世界へ飛び込んだのは「研究で得られた成果をもっと世の中に還元したかったから」。研究成果が研究業界内で終わらず、人々に活用されることを願った。

しかし現状は健康データが世の中にさほど流通していない。そもそも「研究を行えない」。これが課題だ。

健康流通を実現するためまずはAIを当たり前に

AIはビッグデータと呼ばれる、膨大な量のデータを必要とする。AIの解析結果を社会や個人に還元するためには、まず大量のデータを取得しないことには始まらない。

インターネット上にはさまざまなデータが巡っているが、生体データはそうではない。病院のカルテなどで扱われる患者情報は、基本的には流通しない。医療業界内に存在するのは、基本的には病を患う人のデータで、健康な人のデータではない。健康流通には、健康な人のデータ収集が不可欠。このままでは健康流通の実現は夢のままで終わってしまう。

「人は自分が健康なときは、機器を身に付けるのが面倒などの理由で、データを積極的に取得しようと考えません。しかし、平常時の健康状態が分かっていないと、健康でない状態との差分を明らかにできません。そこで私たちは一定の基準を満たす団体と提携し、倫理審査を通した上で、健康な方やそれに準ずる方々の生体データを提供いただいています。ただ、コロナ禍で対面での計測が難しくなったため、参加してくださる方へのバリュー提供に重きを置いて、AIに慣れ親しんでもらう環境づくりに私たちはフォーカスしました」

個人が生体データを積極的に取得すれば、AI解析のデータを得られ、健康面のメリットを享受できる。その一連のサイクルをイメージできれば、AIの便利さを実感し、人々は健康機器を使って積極的にデータを取得するようになる。そのサイクルが回り始めるには、手始めにAIの便利さを身近に体感してもらう必要がある――。そんな仮説を元に、ヒューマノーム研究所ではAIを簡単に扱えるサービスを提供している。最も多く利用されているのは、ビジネスで使える表データ向けのAI解析ツール「CatData」だ。

「プログラミング不要でプログラムを組めるノーコードと呼ばれる仕組みで、直感的にAIを使えるサービスを開発しました。売り上げや財務諸表などの表データを数年分取り込むだけでグラフ化ができ、自社専用のAIが作れます。将来の売り上げ予測なども可能です」

介護現場や飲食業界、流通、農業、建設業など、どの業界で働く人も直感的に使えることを目指している。

「さらに同じ業界や同じ社内でも担当者によって必要なAIは異なります。企業で働く一人一人が自分専用のAIを作れれば、皆がAIを使うようになるでしょう」

AIが自分事化すれば、特殊な技術者だけのものではなくなる。より身近で当たり前になれば、積極的に健康データが提供され、健康流通も増やせる。描く未来地図は壮大だ。

「データを使うと皆が幸せになれる。その感覚を広めたい。ビジネスというより、社会を舞台にした研究を行っている感覚です。今後は、計測した生体データをさらに蓄積し、AI活用を本格稼働させたい。AIで人々が健康で幸せになる世界をこれからも創り続けます」 

会社概要
設立 2017年10月
資本金 2,000万円
本社 東京都中央区
従業員数 15人
事業内容 ヒトの理解に関連する人工知能技術の研究開発など
https://humanome.jp/