壁一面に有名なアニメーションのポスターが並ぶ。所狭しと音響機器や録音スタジオが備わっており、エンタメ専門の制作会社のようだ。しかし実は、多くのシステム開発も手掛けている。コロナ禍以降はリモートワークに切り替え、オフィス通勤者は数人しか見当たらない。それでも、なぜか絆を感じる不思議な会社だ。
顧客の期待に応えて17年。コロナ禍以降も増収増益
「弊社はひたすら顧客の求めているものを形にしてきました」と話すのは、アールアールジェイ(以下、RRJ)の共同創業役員の一人、小川純平氏。小川氏は前職で橋満克文代表と同僚だった。「『銀河英雄伝説』を手掛ける事業を立ち上げたい」と橋満代表が言い出し、エンジニアだった小川氏が話に乗ってRRJが誕生。さらに小池順平氏ら3人が加わり、共同創業役員5人が揃った。
当初は橋満代表の住むワンルームをオフィスとし、システムの受託開発をメーンに事業を開始。それから17年が経った。共同創業役員は一人も辞めることなく、会社は70人規模へと拡大。現在はデザイナーや動画制作のディレクターも擁する。営業職は一人もおらず、ほとんどの案件が評判の良さからくる紹介だ。
業務内容は多岐にわたる。オフィスの一角には収録スタジオを備え、動画やシナリオの制作まで手掛ける。一見、エンタメ系制作会社だが、システム面も強い。
「売り上げ予測や会員管理、動画配信システム、アプリやゲームなど、お客さまのご要望に応えていくうちに、事業が拡大してきました」と小池氏。コロナ禍にありながら、増収増益を達成している。
社長自ら社員宅へマスク配達、社員を家族のように思う会社
現在は全員がリモートワークで事業が成り立っている。社員同士のコミュニケーションはオンライン中心。顧客との打ち合わせは対面とオンラインを使い分けている。
「全社員がリモートワークを続けたいとの意向もあり、今後も継続していきますが、コミュニケーションの課題はあります」と小川氏。
オンラインでの雑談タイムや、アバターを使ったバーチャルオフィスを設けたものの、全社員に効果的な施策はまだ見つかっていない。
「同じチーム以外の人との会話は通りすがりにPC画面を覗き込んで始まったりします。今そんなことをやってるんだ、みたいに。リモートだとそういったおしゃべりが発生しないのは課題ですね」と小池氏が話すと小川氏も頷きつつ、「ただ、体調不良の人は減りました。満員電車に乗らなくて済むなどストレスが減ったんだと思います。逆に自宅に引きこもるストレスもあるので出社も自由に選べます。リモート状況の見える化は適度にしています。やり過ぎるとストレスになりますから」。
ここまでの話で見えてくるのは、メンバーへの深い気遣いだ。合言葉は「共存共栄」だという。
「目の前の人を大事にしよう、とメンバーには常々伝えています。社外へ発注する際は上から目線にならないようにする。社員を大事にする。お客さまの喜ぶことを考える。自社だけが儲かればいいとは考えない。だから、一発当てて大ブレークすることを狙ってはいません。地道に目の前のことに取り組み、人の顔が見える商店街のような感覚で、社員の生活を守っていければと」と小川氏。
共存共栄や目の前の人を大事にする精神は、橋満代表の生き方そのものだ。橋満代表はコロナが出始めた頃、「社員が満員電車で通勤するのは危険だ」と自ら車を運転し、社員を自宅まで送っていた。リモート化に伴いゲーミングチェアを欲しい社員の自宅まで届けたり、消毒液やマスクを届けたりも。そういう生活に直結する部分を大事にし、即行動に移す人なのだという。
「親族がコロナにかかったメンバーに手当を出しました。農業を兼業している社員もいます。オーストラリアに住みたいという社員の要望を叶えてコロナ前からリモートワークも実施していました。生活が一番との考えで、橋満が会社員時代に嫌だと思ったことをRRJではやらないようにしてきた結果です」と小川氏は力を込める。
これに小池氏も同調する。
「橋満代表は社員を本当に家族のように考えています。墓場まで面倒を見たい、終身雇用を目指すと本気で言っていますから」
人を大事にする考えは、採用面にも反映されている。
「人柄を重視し、当社を好きだと言ってくれる熱量で採用しています。たとえ経験不足でも、育てればいい。実際、異業種からエンジニアに転身したいと当社の門を叩き採用した社員は、2年後、一線級に成長しました」と小川氏はうれしそうに話す。
経営戦略を立てるよりも目の前にあるものを大事に
将来に向けてNFT(非代替性トークン)やAI(人工知能)などの最先端技術にも取り組んでいるが、あくまでも顧客からの要望に応えるためだ。RRJのサービスに「声優の『声』と『演技』で朗読を楽しむ新感覚オーディオブック『キクボン』」があるが、規模よりも専門性に特化してファンのニーズに応えていきたいそうだ。
また、グッズの制作や販売も手掛けており、目の前の顧客の意見を大事にしたいのでイベントブースに出展するなど、社員が店員としてファンと交流している。
小川氏が今後の展望を語った。
「経営戦略を立てるよりも、顧客の要望に応えていく。あるいはニッチを狙った製品で、少なくとも目の前のファンを大切にする。上場も目指してないし、身の丈にあった会社の規模で行きます。生活を大切に、今目の前にあるものを大事に。これがRRJらしさです」
会社概要 設立 2004年5月 資本金 300万円(自己資本) 本社 東京都新宿区 従業員数 70人 事業内容 システムの企画、設計、運用、保守に関する受託開発/デジタルコンテンツの企画・制作など https://www.rrj.jp/ |