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計測・認識・制御のニッチトップが描く2030年への戦略シナリオー東京計器 安藤 毅

東京計器社長 安藤 毅

東京計器はさまざまな精密機器を通じて暮らしの基盤を支える「計測・認識・制御」機器の総合メーカーだ。船舶港湾機器、油空圧機器、流体機器、防衛・通信機器、鉄道・検査機器が主な事業分野。コア技術の組み合わせと独自のアイデアで、社会に役立つ新製品を創出し、国内外のニッチ市場でいくつものトップシェアを獲得している。文=榎本正義

東京計器社長 安藤 毅
東京計器社長 安藤 毅
(あんどう・つよし) 1956年熊本県生まれ。79年九州産業大学電気工学科卒業。81年米国ノースロップ工科大学アビオニクスコース修了。同年東京計器入社、97年制御システム事業部コンバーティングプロジェクト長、2002年子会社のトキメック自動建機社長、06年本社に戻り、08年取締役、17年常務、18年6月社長就任。

ニッチトップ企業ゆえの強みと課題とは

東京計器 飛行機
最先端のジャイロ技術、自動操舵技術が航海の安全安心を支えている

 東京計器といえば、1896年に創業された計測・認識・制御の総合メーカーである。4月からの東京証券取引所の市場区分変更で東証プライム市場への移行が決まった優良企業だが、扱う製品がBtoBのため一般にはあまり知られていない。しかし、国内外のニッチ市場で多くのトップシェアを有する。

 主なものとして、船舶港湾機器のオートパイロット、ジャイロコンパスでは世界の商船の6割以上、国内内航船の8割以上、油圧機器(国内プラスチック射出成形機用)では約4割、流体機器の超音波流量計は世界で初めて実用化に成功し、国内上下水道、農業用水向けで6割以上、防衛・通信機器の海上交通のレーダー/VTS(船舶通航業務)システムは全国の海上交通センターのVTSシステムで100%、地震計用加速度計は気象庁向けで約8割、アンテナ自動指向装置は国内TV局の報道ヘリ搭載で9割以上、鉄道機器・検査機器の超音波レール探傷車はJR各社・民間鉄道会社向けで7割以上など、占有率が非常に高い製品群を有する。その部分を問うと、安藤毅社長は苦笑いしながら、裏腹な課題を次のように語った。

 「確かに国内でシェア100%の製品がありますし、世界でも6割以上のシェアがあるオートパイロットやジャイロコンパス、他にも高いシェアの製品もあります。しかし、国内でのシェアは高くても、海外展開はあまりやってこなかった面はあります。ようやく数年前から、こうした部分の見直しを行っているところです。もともと、流体、防衛・通信、鉄道機器は事業の特性上、下期に売り上げ・利益が偏重し、船舶港湾、油空圧は売り上げに季節性があまりありません。油空圧は景気に業績が左右されますし、防衛事業は低利益率ですが、海上交通機器も含め案件の内容により利益が大きく上下する傾向があります。民需製品の売り上げ拡大により利益率の拡大と安定を図っています」

 安藤氏は、2002~06年まで子会社のトキメック自動建機(TOC)の社長を務めた。TOCは主に土木建設市場や官公庁向けに公共事業用の計測器を扱っていた。TOCで扱う事業は小規模ながらも、コア技術であるジャイロ応用技術や慣性センサー応用技術などを用い、独自の製品を開発・販売していたが、00年ごろから当時の政府の方針により公共事業予算の縮小が決定し、業績が悪化しつつあった。赤字を繰り返すようになり、責任を取るような形で前任のTOC社長が突然辞任し、事業立て直しを図るため、安藤氏に白羽の矢が立ったのだ。

 「政府の方針から公共事業の増加は見込めず、狭くなっていく市場の中でどのように事業を安定させるか苦心しましたが、事業の選択と集中、効率化などを図り、私の就任中は黒字に立て直しました。根本的な解決にはならなかったため、最終的にTOCの再編成を決定。東京計器本体に組み入れました。このときの決断がきっかけとなり、現在は子会社だったころよりも3~4倍の売り上げ規模の事業に成長を遂げました。大きく成長する芽を見つけ、植え替えというきっかけを作ったのは私ですが、この事業を成長させたのはTOCをはじめとした社員たちです。企業は人である、ということを改めて実感した出来事でした」

東京計器ビジョン2030で大きく成長に舵を切る

東京計器 船
独自のマイクロ波応用技術、慣性センサー技術で社会を支える

 2月10日に発表した22年3月期第3四半期決算は売上高が284億円で前年同期並み、営業利益は2億9300万円で増益となった。通期では売上高421億円、営業利益14億4千万円で増収増益を予想している。

 21年5月に創立125周年を迎えた同社は、SDGsを切り口としたグローバルニッチトップ事業の創出によって持続的な成長と中長期的な企業価値向上を図ることを目的とした「東京計器ビジョン2030」を、昨年6月に策定した。ここでESG(環境・社会・企業統治)への取り組みやサステナビリティを切り口として成長に向け大きく舵を切ることを宣言している。その実現のため、強化すべき5つの事業領域や既存事業の深化のポイント、人材育成や組織改革に関する課題などを明示している。

 社内改革の一環として、ボトムアップのイノベーションを狙った「未来創出推進課」と、ESGやSDGs活動の全社的推進を狙った「サステナビリティ推進室」を新たに創設。さらにサステナビリティ推進室を統括するものとして「サステナビリティ委員会」を設置し、安藤社長が委員長を務めている。この新たな体制のもと、サステナビリティの視点からイノベーションを引き出し、成長戦略へつなげていくという。

 30年までの経営目標として、連結売上高1千億円以上、連結営業利益100億円以上、連結営業利益率10%以上、自己資本利益率10%以上、時価総額500億円以上(株価3千円以上)を掲げている。かなり意欲的な目標設定となっている。

 30年の予測される社会を見据え、SDGsの地球規模の共有と追求、AI、IoT、ビッグデータ活用に適応するセンサー機能の多様化と高度化、クリーンエネルギー革命の進展、宇宙ビジネス本格化、モビリティ領域におけるソフトウェア技術の高度化が必要と定義。本業を通じて解決していくべき社会課題・5つの事業強化領域として、AI・ICT革命のキープレーヤーとして未来を創造する、地球環境を護る、モビリティ社会を進化させる、少子高齢社会の課題を克服する、社会生活の安全と人々の健康を確保する、というものを挙げている。

 また、21年度からの3カ年中期事業計画は、「東京計器ビジョン2030」で設定した10年後の目標を実現するため、中長期戦略を基にした基盤強化と基盤固めを主な目的としている。同時にこの3年間は、未来を支える成長ドライバーの発掘・絞り込み・育成のフェーズでもあるとしている。

 今後の同社の歩みに期待したい。