ゲストは、MPowerの関美和さん。キャシー松井さん、村上由美子さんと共に女性3人で日本初のESG重視型グローバルベンチャーキャピタルファンド「エムパワー・パートナーズ・ファンド」を組成。ファンド総額160億円が話題となりました。ファンドの特徴と関さんの素顔を覗く対談となりました。聞き手&似顔絵=佐藤有美 構成=大澤義幸 photo=市川文雄(雑誌『経済界』2022年11月号より)
MPower関美和氏プロフィール
事業の苦労を知った幼少期。会社員を経て夢の翻訳家に
佐藤 本日はお会いできて光栄です。昨年、関さんを含む女性3人でMPowerを起業されたと聞いて興味を持っていました。
関 ありがとうございます。こちらこそお会いできて光栄です。
佐藤 事業のお話の前に、ご経歴について伺います。関さんはハーバード・ビジネス・スクールでMBAを取得し、電通や外資系金融に勤務された後、翻訳家として書籍『FACTFULNESS』などの翻訳を手掛けられています。また、ご実家は「チロルチョコ」製造元の松尾製菓だそうですね。家業を身近に見て育ち、起業への思いを募らせたとか、何か感じたことはありますか。
関 幼い頃は、家業の製造工場の経営は自転車操業で大変だと感じていました。「チロルチョコ」がヒットし、2000年代初頭にコンビニが店舗を拡大していく中で活路を見いだして経営も安定しましたが、私自身は不安定な暮らしを経験していたので、普通の会社員になりたいと思っていました。しかし、実際に社会に出て会社で働いてみると、起業への気持ちが芽生えたんです。
佐藤 電通やモルガン・スタンレーなどの大企業で多忙な日々を送られていたそうですが、そこから翻訳家になった経緯は。
関 もともと本が好きで、子どもの頃から翻訳本も読んでいたのですが、日本語が読みづらいな、自分で翻訳したら読みやすくなるかなと考えていました。会社勤めの時に翻訳したいと思える本に巡り合い、ご縁を頂いたのがきっかけです。
佐藤 出版後、たくさんの人に読まれる喜びは感じられましたか。
関 うれしい気持ちはあまりなくて、逆に恥ずかしいので読まないでほしいと(笑)。間違いを指摘されないかとか。ネット書店のレビューもなるべく見ないようにしています。世の中にはプロの翻訳家がたくさんいるのに、なんだか申し訳なくて。
佐藤 謙虚ですね(笑)。
ESG重視型のファンドで社会を創る企業を支援
佐藤 MPowerではESG重視型のグローバルベンチャーファンド「エムパワー・パートナーズ・ファンド」を運用されています。ESG経営は現在、大企業ばかりでなく、中小企業やスタートアップが経営戦略を組み立てる上でも必須の観点となっていますね。
関 そうですね。私たちはESGを重視して支援を行っていますが、ここには二つの意味があります。一つは、社会課題を解決するスタートアップに投資するということ。社会課題を解決し、それをビジネスチャンスとしてグローバルに拡大する起業家を応援したいという強い思いがあります。もう一つは、そうしたスタートアップ自身にESGを実践してもらいたいということ。社会貢献している企業でも、多様性がなかったり、ブラックな職場環境のところは多いので。
佐藤 成長企業にありがちですね。
関 はい。そこでコアビジネスをESGと結びつけて、スタートアップもESGを実装し、ビジネスチャンスの拡大を目指してほしい。私たちのファンドはこれを実現できるので、この取り組みを投資家や市場に評価してもらいたいですね。
佐藤 起業家やスタートアップからすると、ビジネスの成長の支援だけでなく、人間的な成長の機会と、その支援が得られるのは素晴らしいことです。10~30代前半の若い起業家も増えていますが、その頃からESGの観点を持つことは大切ですし。あとは、個人的には女性経営者が世の中にもっと出てきてほしい。女性の時代と言われて久しいですが、DeNA創業者の南場さんのような、力のある女性経営者がなかなか現れないのは寂しいことです。
関 当社はミドルステージからレイターステージの将来有望な女性起業家と出会うチャンスは他のVCよりも多いと思います。ただおっしゃるように、スタートアップもVCも女性の比率は多くありません。私たちが最初から160億円規模のファンドを組成したのも、世の中にインパクトを与えたかったからです。
佐藤 私も衝撃を受けました(笑)。関さんをロールモデルとして憧れる女性も多いと思いますが、一方でシングルマザーとして子育てと仕事の両立もされています。現代の女性の働く環境についてはいかがですか。
関 私は幸いにも大きな苦労はありませんでしたが、日本は母子家庭の約半数が貧困と言われています。また、就業率はOECD諸国の中でも70%近くと高めですが、男女の賃金格差は最低レベルです。都会では夫婦で共働きをしないと生活できないのに、フルタイムで働ける環境もそうありません。この状況は、一法人の力だけでなく、政治主導で制度から変えていかなければなりません。
佐藤 そうですね。逆に日本が他国より進んでいる制度はありますか。
関 先進国の中でも、日本は男女共に育児休暇制度は充実しています。これは政治主導でやってきた成果。育休取得率も上がっており、役割意識も変わっているように見えます。
佐藤 男性も女性も共に活躍できる世の中にしたいですね。MPowerとしての今後の展開は。
関 まず失敗しないようにする。経営支援は大きな責任を伴います。そしてファンド規模1千億円超を実現し、足跡を残したい。これからも社会のインフラに不可欠なスタートアップを支援していきます。