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300万円で始めた事業が400億円に化けた「原宿ドリーム」 テクストトレーディングカンパニー 本明秀文

本明秀文 テクストトレーディングカンパニー

進撃のベンチャー徹底分析 第19回

「自分は実在するのか」。そう意味深な言葉を残すのは、人気スニーカーブランドショップ、〝アトモス〟を運営するテクストトレーディングカンパニー代表の本明秀文氏だ。同社は昨年、米国最大手スニーカー販売ショップのフットロッカーに3600万ドル(当時のレートで約400億円)で売却を果たした。300万円の運転資金で原宿に2畳のスニーカーショップを始めて約25年。本明氏は原宿ドリームを果たしたことで日本のアパレル業界に衝撃が走った。今回はそんな本明氏が創業期から大切にしている成功の鍵を取材した。文・戸村光(雑誌『経済界』2022年12月号より)

本明秀文 テクストトレーディングカンパニー
本明秀文 テクストトレーディングカンパニー

大学受験は全落ちアルバイト代を貯め渡米

 日本の教育を受けた本明氏だが、勉学が苦手で学年で問題視されるほどの成績だったという。大学受験は全落ち。仲良くしていたクラスメイトと疎遠になったことで逆に勉強への熱が生まれた。同時に当時通っていた喫茶店の店主が世界を渡り歩いていたことから、海外に興味を持ち、アルバイト代を貯めて渡米を決意する。

 最初は単なる旅行のつもりだったが、米国の大地や自然の美しさに魅了されたことで、日本の大学への興味をなくし、米国の大学へ進学することを決意した。

 裕福な家庭で育ったわけではないため、親から振り込まれる授業料で最大限意義のある学生生活を送ろうと努力し、奨学金をもらえるまでに学力を伸ばす。結果、授業料は半額免除。しかも4年制大学をたった3年で卒業することとなる。

親の紹介で貿易業に就職。フリマで独立を決意

 大学卒業後、親の紹介で貿易事業を行う会社に就職。上司が突然辞職したことから、新卒の身で買い付けから税関の手続きなど貿易に必要な知識をすべて身につけることができた。それでも給料は安く、将来に悲観的になっていたところ、先輩から、その会社では販売から除外される傷のついた商品が、フリーマーケットで高く売れると教えてもらう。そこで休みの日を利用して家族でフリーマーケットで商売を始めたところ、想像以上に商品は売れ、給与以上の収益を得ることができたことで独立を決意する。

日々の生活の中に大きなビジネスチャンス

 ある日いつもと同じようにフリーマーケットに出店していると、商品ではなく、自分が履いていた靴を2万円で売ってほしいというお客さんに出会う。その靴は米国で数千円で購入した靴だった。〝自分が米国で購入したスニーカーが日本では数倍の価格で売れる〟ことに気づいた本明氏は、スニーカーに特化したフリーマーケット市場は競合が少なく、ビジネスチャンスがあることを直ちに理解した。

 独立に父親は猛反対。しかしそれを押し切り手元資金300万円を手に原宿でスニーカーショップを開く。

会議は少なく1日の大半をスターバックスで過ごす

 今回取材で指定された場所は原宿の中心にあるスターバックスの店頭だった。過去何度も本明氏と面談しているが、場所は決まってスターバックスだ。400億円を手にした企業の代表がなぜオフィスを使わず、スターバックスを使うのか。その理由を聞いた。

 その答えは「カルチャーがここで生まれる」から。

 本明氏がオフィスに行くと社員が列を成して相談をするため、その対応に追われることで手いっぱいになってしまい、新しい発想が生まれにくい。ところがスターバックスにいると、常に新しく生まれてくるカルチャーが体感できると本明氏は言う。この刺激がクリエイティブな発想につながるようだ。

 新型コロナウイルスが流行する中で、Zoomを初めとするオンライン会議ツールが普及した。しかし、本明氏がオンライン会議を行うことはほとんどない。「ビジネスの新しい着想のほとんどが、会議中の無駄話から生まれる。オンライン会議をすると、仕事に必要な話のみでミーティングが終わってしまうことが多い」と本明氏。

毎日11時に就寝。1カ月の食費は5千円

 「自分は他の人に比べ優秀じゃないから、毎朝誰よりも早く起きて努力する必要がある」と本明氏は語る。400億円を手にした後でも、毎晩11時に就寝し、朝4時に起床。1時間歩き、自ら弁当を作る。この毎日のルーティンを守っている。月の食費は5千円だ。富、名声、力。これらのすべてを手にしてもなお、謙虚な姿勢と直向きな努力を続けることが成果につながることを痛感させられた。

非連続的に成長するブランドを国内から生み出す

 本明氏の挑戦は止まらない。300万円を元手に始めたものがわずか25年で400億円の企業価値へと成長した。この成功体験を自分だけのものにするのではなく、次世代の若者に託していきたいと本明氏は言う。今後はゼロからブランドを創出するためのノウハウを提供するスクールを、成功を収めた著名経営者の仲間たちと始め、そこで育った生徒に積極投資をしていくという。

 今後、アトモスのように世界のアパレル市場を震撼させる企業が日本から創出されていくことに目が離せない。

戸村 光(とむら・ひかる)――1994年生まれ。大阪府出身。高校卒業後の2013年に渡米し、14年スタートアップ企業とインターンシップ希望の留学生をつなぐ「シリバレシップ」というサービスを開始し、hackjpn(ハックジャパン)を起業。その後、未上場企業の資金調達、M&A、投資家の評価といった情報を会員向けに提供する「datavase.io」をリリース。一般向けには公開されていない企業や投資家に関する豊富なデータを保有し、独自の分析に活用している。