九州経済連合会がアフターコロナに向け本格始動している。経済の枠組みを超え、地域全体の活性化につながる新たなビジネスモデルの創造、提案に挑んでいる。(雑誌『経済界』2023年1月号より)
幸せコミュニティで持続可能な経済成長を実現
「動いていい、いやむしろ動くべきだという声を臆することなく上げて、九州の社会・経済を再び活性化させたい。これが私の役割」と強い決意を示す倉富会長。コロナ禍で過度に委縮した経済活動への反省を込め「科学的根拠が前提だが、人、モノのリアルな移動が経済の基本。リモートワークだけでは限界があり、先細りになる」と語る。
2021年、九経連としては初めての交通事業者出身の会長として就任し、30年までに実現を目指す「九州将来ビジョン2030」では「幸せコミュニティ」を未来の姿として掲げている。
「九州に行けば自分の思いを実現できる。住んでよし子育てもしやすいといった地域環境にすることが心の豊かさ、ひいては持続的な経済成長につながるはずだ」と説明する。
九州にはアジアに近い「地の利」、鉄道や道路、空港といった充実したインフラ、有効活用できる土地といったアドバンテージがある。一方で、若者を中心に首都圏に向かう人材流出の大きな流れはコロナ禍でも変わっていない。
「大切なのは人、とりわけこれからは女性の活躍が不可欠だ。県境を越えた魅力ある地域づくりの提案は九経連だからこそできる」
観光だけでない可能性を秘めた九州MaaS
九経連の重要施策の一つである「九州MaaS(マース)」が、全国的に注目を集めている。当初は九州域内で、スマートフォンを使い複数の移動手段、例えば鉄道やバス、フェリーなどの検索や乗車券の購入ができる次世代移動サービスのイメージだった。「利用者はスマホで自分の計画や料金を自由に選択できる。競争も必要だが、協力して国内外から観光客を増やそうとの呼びかけに、九州の交通事業者の反応は上々だ」と倉富会長。
このアイデアが新たな展開を見せている。「各県知事の理解が進むと、観光担当だけでなく交通政策を担う企画部門が乗り気になっている」という。背景には人口減少、過疎地域の拡大、高齢化がある。観光だけでなく、地域の足となっているタクシーやデマンドバス、その先にある病院や福祉施設等と予約などの連携ができないか、と考え始めたのだ。22年9月に開いた「九州MaaSシンポジウム2022」にはリモートを含め600人を超える参加があった。「国のデジタル戦略とも合致しており、九州から日本を変える先進的な事例にしたい」と手応え十分だ。
九経連ではコロナ禍を弾みに、企業のDXやGX(グリーントランスフォーメーション)の導入・推進も図っている。「コロナ禍を経験してデジタル技術の活用・DX推進が各企業とも急務だという認識では一致しているが、まだ敷居が高い。その意味でMaaSが分かりやすいモデルケースといえる」と思わぬ相乗効果に笑顔を見せる。
シリコンアイランドの復興。中長期の戦略を
22年初め、熊本県に半導体受託製造で世界最大手の台湾積体電路製造(TSMC)の進出計画が発表され、「シリコンアイランド九州の復活か」と国内外で大きな注目を集めた。九州は豊富な水、労働力などを背景に、80年代には「シリコンアイランド」と呼ばれるほど半導体産業が集積した。当時と比べて半導体は全世界的に不足、一方で産業や日常生活に不可欠な存在となっている。
倉富会長は「TSMC進出は歓迎だが、単なる外国企業の下請け製造地域になってはダメだ。世界最先端の半導体設計から製造まで九州内でできる体制こそ必要。そのためには大学や高専などと連携し人材を育て、ベンチャー企業も誘致し、各県が協力しあって産学官全体で盛り上げる必要がある」と冷静に語り、中長期的な戦略の必要性を訴える。
福岡市を国際金融都市にする構想も進んでいる。9月にはシンガポールのフィンテック企業・M‐DAQ(エムダック)と、台湾の玉山銀行の進出が明らかになった。誘致を主導する産官学組織「TEAM FUKUOKA」の会長でもある倉富氏は「海外金融機関の進出は、新たな視点で九州の強みを発掘し、人や技術、企業への投資チャンスとなる。地元の金融機関にもよい影響を与えてくれる」と分析する。
同じ時期、砂むし温泉で有名な鹿児島県指宿市と観光や農産物の販路拡大といった包括連携協定を締結。「『九州はひとつ』という理念は不変。鹿児島や宮崎など南九州の視点も大切にして活動を続けたい」