スマホ完結型の国内初のデジタルバンク「みんなの銀行」が、斬新な機能で「銀行らしくない」と注目されている。開業1年で口座開設40万件を突破。ローンサービスも好調な出足で、3年目での単年度黒字化を目指す。(雑誌『経済界』2023年1月号より)
開業1年で100万DL、40万口座を突破
「ユーザーからは『まるで銀行っぽくない』と言われる。当行にとって最高の褒め言葉です」
国内初のデジタルバンクとして、2021年5月のサービス開始から1年半が経ったみんなの銀行の永吉健一頭取が笑みを見せた。
みんなの銀行は、Z世代とミレニアル世代を合わせたデジタルネイティブ世代をターゲットに、専用アプリで24時間365日、口座開設からATM入出金、振り込みなど、すべてがスマホ上で完結できる。運営会社は地銀大手のふくおかフィナンシャルグループ傘下ではあるが、サービスの中身はいわゆる既存銀行のスマホ用アプリといったものから一線を画し、デジタルネイティブな思想・発想でゼロベースから設計されたスマートフォン専業銀行だ。このため、金融業界内外から注目を集めている。
専用アプリ内の主な機能は、普段使い用の普通預金口座「ウォレット」と貯蓄預金口座「ボックス」、キャッシュレス決済にも対応したバーチャルデビットカード、自分が使ったお金を振り返り、管理する「レコード」など。同行は「銀行〝らしさ〟 からの脱却」を掲げており、実際にアプリ全体のユニークなデザインや、ドラッグ&ドロップでお金を振り分けることができる斬新な便利さなどが受けている。
サービス提供1年目を振り返ると、ユーザーの約7割が10代から30代のデジタルネイティブ世代だった。アプリのダウンロード数は約120万。口座開設数は40万件を超え、このうち約7割は口座開設時に既存ユーザーが新規ユーザーを紹介し連れてくる「お友だち紹介プログラム」によるものだった(22年10月末現在)。永吉頭取は「日頃からSNSに触れ、『いいね』や口コミに関心を寄せる世代ならではの広がり方です」と語る。
一方、「ウォレット」の預金残高は58・5億円(22年3月末)で、初年度目標の250億円には大きく届かなかった。永吉頭取は「われわれは最も後発の銀行。ユーザーのほとんどが別に銀行口座を持つ中、われわれの口座をメインではなくサブ的に位置付ける人が多かった」と要因を分析。ただ、「22年7月から『みんなの銀行ローン』の提供も始めました。預金獲得につなげたいですね」とする。
同ローンは、みんなの銀行に口座を持つユーザーであれば、アプリで年収を入力するだけで申し込むことができる。利用限度額は10万~1千万円で、金利は1・5%~14・5%の間で0・1%刻みの130パターンを設ける。提供開始から1カ月程で約3万件の申し込みがあり、「出だしは順調です」という。
このほか、デビットカードは初年度で32万枚を発行。月額600円で複数の優遇サービスを受けることができるサブスクリプションプランの「プレミアムサービス」は、ユーザーの約半数が利用している。
2年目以降も「引き続き口座、預金、ローンそれぞれの獲得を強化していきます」とする永吉頭取。3年目で110万口座、預金残高950億円、ローン残高600億円を目標に、単年度黒字化を目指す。
BaaS事業で非金融業と新たな価値を共創
今後、みんなの銀行が個人向けサービスとともに力を入れていくのがBaaS(Banking as a Service)事業だ。同行の金融・機能サービスをAPI(アプリケーション・プログラミング・インターフェース)を通じて他の事業者に提供するもので、これまで約180社にヒアリングをしたところ、決済業務に関心が高いことが分かった。消費者と事業者の間で銀行口座直接引落し型の決済サービスの実現などが見込まれるという。21年にはインターネットサービスのピクシブ、人材派遣のパーソルテンプスタッフの2社とBaaS事業による新たな価値共創について基本合意を締結した。今後の具体的な共創例が期待される。
22年度から新卒採用も開始した。学生からの注目度も高く、母体のふくおかフィナンシャルグループにも「みんなの銀行に憧れて入社試験を受ける人がいる」とか。システムの内製化のために、今後3年間でシステムエンジニアを中心に200人を採用し、社員を倍増させる計画だ。
「われわれはスタートアップ企業だと思っています」と永吉頭取。実は同社アプリのデザインや機能は、世界的に権威のあるデザイン賞も受賞している。「地方発でも世界と戦える企業であることをこれからも示していきたい」と意気込む。
会社概要 設立 2019年8月 資本金 165億円(資本剰余金含む) 本社 福岡市中央区 従業員数 133人(2022年4月末) 事業内容 スマートフォン専業銀行 https://www.minna-no-ginko.com/ |