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株情報を提供してきたみんかぶがウェブマガジンに進出した理由 みんかぶ 鈴木聖也

鈴木聖也 ミンカブ・ジ・インフォノイド

株式情報サイトのみんかぶは、投資家ならば誰もが知っている。ところが最近になり、みんかぶマガジンというウェブメディアを立ち上げ、投資情報以外の記事を掲載するばかりか、一部の記事の有料化に踏み切った。その理由を鈴木聖也編集長に語ってもらった。聞き手=関 慎夫 Photo=横溝 敦(雑誌『経済界』巻頭特集「ウェブメディアの現在地」2023年1月号より)

みんかぶ 鈴木聖也氏プロフィール

鈴木聖也 ミンカブ・ジ・インフォノイド
鈴木聖也 みんかぶ編集長
すずき・せいや 1988年、前橋市生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒。共同通信大阪社会部、同名古屋経済部、経済誌プレジデントなどを経て、2022年5月より現職。2019年「編集者が選ぶ雑誌ジャーナリズム賞デジタル賞」を受賞。

有料会員を獲得するフックとしてのメディア

 ミンカブ・ジ・インフォノイド(以下ミンカブ)の運営するみんかぶというウェブサイトは、もともと銘柄情報や株価予想などを提供する、株式投資家にとっては馴染みのサイトです。ところが最近、サイト内に「マガジン」コーナーをつくり、株式情報以外のニュースを提供しています。しかも一部記事は有料会員以外は読めません。なぜ、みんかぶがこのようなメディアをつくったのですか。

鈴木 みんかぶの中でもっともPVが多いのは銘柄情報のページです。広告収入もそれなりに上がっています。でも将来を考えたら、今のフロー型からストック型ビジネスモデルに移行していかないと厳しいのではないかと考えました。無料の広告依存型メディアは、当然ですが、広告収入に左右されます。PVがいくら多くても世の中の経済情勢の影響を大きく受ける。コロナ禍によりPVを増やしたウェブサイトは多いですが、その一方で広告単価は下がっています。

 2023年の景気がどうなるかは分かりませんが、大不況が来るともいわれています。そうなると広告単価は下がってしまう。これはビジネスモデルとしては非常に不安定です。そこで広告に頼るより有料会員を増やしていった方がメディアとしては安定します。ただし、有料会員の特典は有料記事だけではありません。複数口座の一括管理や、資産情報レポートなどが読めるなど、資産形成に役立つ機能を提供しています。他のウェブメディアを見ていても、記事だけで有料化するのはなかなか厳しい。記事以外のみんかぶの持つ複合的なサービスを利用できることがポイントです。

 そうなると、目的はみんかぶの有料会員を増やすことで、マガジンはそのためのフックという位置付けですか。

鈴木 みんかぶでしか読めないニュースを読ませることが有料会員を獲得するためのフックになっています。今、ライト層と呼ばれる投資家が増えています。iDeCoやNISAを利用している若い世代や、老後の心配をしている人たち。その人たちにより豊かな人生を歩むための情報を提供しています。

 ではPVにはあまりこだわらないわけですね。

鈴木 私のミッションとしては有料会員を増やすことです。でも結局、有料会員を増やすには、母数となるPVを増やさなければ難しい。ですから有料会員とPVの二兎を追っています。

 既にPVが多い媒体なら話は違いますが、みんかぶおよびみんかぶマガジンは発展途上です。その中で有料会員獲得だけだとどうしても広告に頼らざるを得ない。でも費用対効果を考えると、無料記事がフックで入ってくる人たちをいかに有料会員化するかが大事だと考えています。

 現在のみんかぶマガジンではどんな記事が読まれているのですか。

鈴木 資産形成メディアではありますが、資産形成記事よりも今のトレンドに関する記事の方が読まれています。例えば日経平均がどうなるというより、プーチン・ロシア大統領が何を考えているか。あるいは岸田首相もそう。そういう考察記事はニーズが高いですね。岸田首相の考え次第で円安がさらに進行するかどうかが決まる。ですから直接投資には関係なくても、こうした記事は読まれます。

PVを増やすためにはキーワードを重視

 無料記事と有料記事で作り方の違いはありますか。

鈴木 お金を払ってでも読みたいという人と、単にお勧めにあったから読んだ人。どちらも大切なPVですが、やはりお金を払ってくれる読者により丁寧な、よりいい記事を出したいという気持ちはあります。

 一方、無料記事は、下手をするとPVを追うための記事になってしまう。実は、単にPVを稼ぐだけなら、そんなに難しくはありません。私は以前、プレジデント編集部にいながらプレジデントオンラインも手伝い、チームとしてPVを倍増させたことがあります。自分たちが伝えたいことを記事にするのではなく、読者が今何を読みたいかを因数分解していき、それを記事にする。

 どうやって因数分解するのですか。

鈴木 いろんなところにヒントがあって、例えばグーグル上で今何が検索されているか、ヤフーニュースのランキングで何が1位か、あるいはツイッターのトレンド入りしているのは何か。ここから出てくるキーワードをつなぎ合わせてタイトルをつくり、記事を発注するというやり方です。

 中には全然PVに結び付かない記事もありますが、間違いなく平均値は上がっていく。あとは本数を増やしていけば、平均値×本数でPVは増えていく。そして金鉱脈を見つけたら連打連打です。こうやって倍増させました。

 プレジデントオンラインは完全無料なのでそれも有効かもしれませんが、みんかぶの場合はむしろ読者の信頼を失うかもしれませんね。

鈴木 ですから今は質にこだわった記事をできるかぎり提供していきたいと考えています。

 特に有料記事を読んでもらうには、誰が書いているかが非常に重要です。この人が書いているから、お金を払っても読みたい。ですから書き手の発掘は非常に重要です。それと紙媒体に比べると、年齢層は圧倒的に若く20~40代が大半です。ですから、この人たちが何を読みたいのか、どんな情報を欲しがっているのか。そういう記事を丁寧につくっていきたいと考えています。

 最後に、ミンカブは先日、ライブドアを買収しました。みんかぶおよびみんかぶマガジンとどうコラボしていくのですか。

鈴木 私自身、深く関与しているわけではありません。ですから話せることはあまりありませんが、会社全体ではさまざまなことを考えているので、期待してもらいたいです。