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業界を牽引するデジタル機器の総合病院を目指して 日本PCサービス 家喜信行

日本PCサービス 家喜信行

「JAFのパソコン版をつくろう」をコンセプトに創業した日本PCサービス。当時はPC修理のサービスを提供する会社はほとんどなく、ノウハウを一から積み上げてきた。法人向けサービスと個人向けサービスの両方を手掛け、拠点数を拡大してインフラ化を実現させるまでの道のりには何があったのか、家喜信行社長に聞いた。文=大橋高広(雑誌『経済界』2023年2月号より)

日本PCサービス 家喜信行
日本PCサービス 家喜信行 代表取締役
いえき・のぶゆき 1976年3月生まれ。98年翼システムに新卒入社。2003年、27歳で日本PCサービスを創業。パソコン修理サービスを開始。大手企業との提携により事業を全国へ拡大し、14年11月に上場。

豊富な事例を武器にスキルとサービスを向上

 2023年で創業20年を迎える日本PCサービスは、PCをはじめスマホやタブレット、ゲーム機、コピー機といったあらゆるデジタル機器の設置・修理・保証などを行う総合サポートサービスを提供している。取り扱う機器は実に幅広く、事例も豊富に蓄積している。
 「お手持ちのデジタル機器が壊れた時に、サポートセンターへ電話をしたり修理に出したりした経験がある方は多いと思います。その際『自社製品しか修理できない』と言われ修理を断られたり、修理に出したものの対応をあちこちたらい回しにされたり、場合によってはデータが初期化されてしまうといった予想外の事態が発生することも多かったのではないでしょうか。当社はあらゆるメーカーのトラブルに対応しており、これまでに蓄積した事例も豊富にあるので、さまざまなデジタル機器を迅速に設置・修理することができます」
 社長の家喜氏はこう話す。実際に、オフィスや家庭で使用するさまざまなデジタル機器を全部同じメーカーで統一しているケースは少ない。一つの窓口で完結するのは、利用者にとって非常にうれしいサービスではないだろうか。
 「デジタル機器の修理を実施する際は、メーカーに登録しているアルバイトや外部委託の方がお伺いするケースが大半です。そのため、複雑で難しい修理に対応できなかったり、依頼してから修理をするまでに日数を要したりする場合があります。当社では、すべて自社の正社員が対応しますので、依頼を受けた当日に訪問することが可能ですし、豊富なノウハウで複雑な設定・設置・修理も得意としています」
 当初は事例も少なく、人材育成に苦労したという。スタッフを一人前にするのに半年間の教育期間を設け、毎月300万~500万円の赤字を出しながらもひたすらサービス向上に努めた。

転換期は生活関連サービスとの提携と株式上場

 当初は自社で集客を行っていた同社だが、新たに生活関連サービスと提携したことが大きな転換期となる。
 「家庭においても当社のサービスは需要があるはずですが、ネットで検索したり店頭で問い合わせたりしてもなかなか当社のサービスにたどり着かないんです。そこで新規の顧客獲得を狙って、200万枚のチラシを配布したり出張費の3千円を無料にしたりしてみたのですが、お客さまの数は増えませんでした。それどころか、逆にクレームや支払い拒否の件数が増えたこともありました。しかし、ジャパンベストレスキューシステムと提携させていただき『生活救急車』のサービスの一つとして提供させていただくようになってからは、出張費などをいただいてもクレームや料金の支払い拒否はなくなりました」
 その後、このジャパンベストレスキューシステムとの実績を足掛かりに、大手メーカーや大手家電量販店との提携を順調に増やし、現在の規模に至っている。
 14年には株式上場を果たした同社だが、株式上場を目指すきっかけとなる出来事があったという。
 「業務提携のお話が出たにもかかわらず、3件連続で競合に負けてしまったことがありました。当社の方が品質が良く、営業担当の方も当社を推してくれたのですが、経営会議や取締役会では『資本金が多い方に決めてほしい』『上場している会社に』という話になったそうです。さすがに3件も同様のことが続くと、同じ土俵に立たないと勝負ができないのだと実感しました」
 また、当時は業務提携の候補となる企業に外資系企業が増えてきた時期でもあった。先方での決裁の際、上場企業であればスムーズに進むところを、未上場企業は提携する理由を英語の説明文にして提出しなければいけなかった、という背景もあって業務提携の話がなかなか前に進まなかったという。
 「もともと困っている企業はたくさんあったので、上場をきっかけに当社のサービスへ移行したお客さまは多かったです。上場前は400社ほどの提携でしたが、上場後は一気に800社以上にまで提携先が増えました。また上場前は、営業に行くと当社の会社説明から始めなければいけなかったのが、上場後は具体的な提携の話から始められるようになったので、仕事の話がスムーズに進むようになりました」
 顧客の需要を丁寧に見極め、事業を着実に拡大していった同社。現場でも顧客の声を積極的に吸い上げ、「お客さまの役に立つ」「社会に貢献する」という想いを実践している。

インフラ化を目指して事業を拡大

 「お客さまの声を聞いたところ、電話で気軽に質問したい、店頭に持ち込んで修理をしてもらいたいという声が多かったので、最近はコールセンターの設置や店舗への持ち込みサービスといった新しい事業も展開しています。より良いサービスの提供を実現するため、スマホスピタルやリペアネットワークなど積極的にM&Aを活用しながら事業を拡大しています」
 このように全国をカバーするインフラが着々と構築されてきたため、21年からは保証サービスを充実させているという。
 「21年12月にJAFのデジタル機器版となる『e-おうち』をスタートしました。ネット回線とPCやスマホ、タブレット、ゲーム機などを年に2回、1回あたりの上限10万円までを保証するサービスです。また、20名以下の法人向けには『アフターPCケアfor Business』を提供しており、トラブル発生時にPC5台までであれば月額5千円で即対応可能となっています。さらに、PCやプリンター、ルーターなど事務所の中にある機械が壊れた場合、年間15万円までは補償される保険付きサービスも含まれています。コスパの良さが評価されています」
 現在、これらの保証、保険付きサービスの会員は約21万5千人と順調に増えているが、将来的には住宅やロボットにも同社のサービスが付帯している形を実現していきたいという。
 「さまざまなことがオンラインへ移行していく時代の到来にあたり、デジタル機器に関するお困りごとは増えてくるため、ニーズは必ず増加していきます。当社が提供するサービスをより幅広いお客さまに使っていただくためには、月額一定の料金で、高品質なサービスを提供することができる仕組みが必要だと考えております。22年9月からは某大手企業のスマホ修理窓口の運営受託など新しいサービスも提供していますので、ご期待いただきたいと思います」