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アフター万博も視野に中小企業の情報発信が関西発展のカギになる 大阪商工会議所 鳥井信吾

大阪商工会議所 会頭 鳥井信吾

2025年に迫る大阪・関西万博を好機に企業の飛躍・発展を支援する大阪商工会議所。中堅・中小企業、そしてスタートアップ企業との連携を推進する。デジタル技術を生かし、かつてビジネスの先駆的存在であった関西企業の新時代の活躍を後押しする。(雑誌『経済界』「関西経済! 次の一手!特集」2023年3月号より)

鳥井信吾・大阪商工会議所会頭のプロフィール

大阪商工会議所 会頭 鳥井信吾
大阪商工会議所 会頭 鳥井信吾
とりい・しんご──1953年大阪府生まれ。甲南大学理学部卒業、南カリフォルニア大学大学院修了。83年サントリー入社、2014年よりサントリーホールディングス副会長。大阪青年会議所理事長、関西経済同友会代表幹事を歴任し、22年3月より大阪商工会議所会頭。

大阪・関西万博を起点に関西経済の新たな活性化を

── 2022年に会頭に就任されました。関西はどう見えますか。

鳥井 関西の名目GDPは8110億ドルで、オランダに続きます。(総務省「世界の統計」、内閣府「県民経済計算」)。大阪府の人口は約880万人で、デンマークは580万人ですから、世界主要国に並びます。さらに大阪は世界に名だたる企業が誕生した地であり食、芸能、アートといった文化も世界に誇れるレベルです。

 コロナや円安、原料高など不安材料は残るものの、心配ばかりしていられません。復活を見据えた再起のスタートが大阪・関西万博になると見ており、今は試走の時期です。もともと大阪は爆発的なエネルギーや町人文化の花開いた自由な雰囲気が発展に寄与してきました。現在、地元企業と車座になって対話を重ねる中で、皆さん希望を持っているように見えます。5年、10年、30年後、かつてのように日本を支える産業が生まれることを期待しています。

── 万博の準備はどう進めていますか。

鳥井 万博は全ての人々が主人公となり、新しい感動・ひらめきと出合えるチャンスです。

 万博には2つの特徴があります。一つは「いのち輝く未来社会のデザイン」というテーマです。人間、自然、地球といった命を取り巻く社会課題をどう向き合うかが体感できるでしょう。来場者はパビリオンを見て回るだけでなく、課題と向き合い、理想の社会を実現するためのインスピレーションを得ることができます。

 もう一つの特徴は、IoTなどデジタルテクノロジーの活用によって新しい未来社会が提案できる機会であることです。技術の披露にとどまらず、「こんな社会にしていきたい」というグランドデザインを描き、技術と結びつけて示すことが大切です。

 コロナ禍でデジタル技術の利便性や可能性を体感できた一方で、人と人が対面によってリアルに感じる尊さも実感できました。万博は人々のエネルギーを伝え合う場です。特に20~30代の働く世代に足を運んでいただき、未来創造のための意見交換をしてほしい。世界中から大阪に人が訪れる機会はそう多くありません。先進技術はもちろん、食糧問題やエネルギー問題など世界中の社会課題を持つ国や地域が集まり、生命をテーマに交流し合える好機です。

── 中堅・中小企業の発展のために大商が取り組んでいることは。

鳥井 万博に関しては、大阪産業局と共に大阪府・市などが出展する大阪ヘルスケアパビリオンの「展示・出展ゾーン」を企画しています。ここでは26の課題を挙げ、そのテーマの解決策を持つ企業やスタートアップが参画できるようにし、週替わりの展示を予定しています。

 大商が長年取り組んできた中小企業への支援は、新たな時代への発展を後押しするものです。例えば、「町工場×スタートアップ コネクト」を発足させました。町工場同士がコラボレーションし、そこに全国のスタートアップや大学が加わり試作開発を実現していくことでイノベーションを生む環境を創ります。中小企業には大企業にはない五感、経験、観察眼、手技といった技能が資産としてあります。連携の薄かった同業種同士や異業種がタッグを組むことで、新たな価値を創造できるはずです。

 これ以外にもかつて日本の発展を支えた関西産業の活性化を図っていきます。例えばかつて隆盛を誇った繊維業界で、デジタル技術などを用いた新たな事業革新による再興を期待しています。

復興のカギはものづくり無形資産の情報発信を

── 中小企業はじめ大阪の発展をどのようにお考えでしょうか。

鳥井 アフター万博は必ずやってきます。25年以降、大企業のように重厚長大な活性化でなくても、中小企業が個々の力を発揮することで、関西ひいては日本経済の底上げにつなげたい想いがあります。

 東京一極集中の現象を紐解くと、東京完結主義になっていると感じます。さまざまな事業や活動が東京で生まれ、東京だけで回っています。発展のスピードに伴い、巡る情報量は膨大です。

 関西を復興させるカギは、この情報にあります。東京に情報を取りに行くのではなく、情報を生み出す都市になる。ものづくりの大阪と言われますが、設計図を描かなければものづくりはできません。無から有を生む叡智の引き出しは中小企業が豊富に持っています。目に見えるものだけでなく、目に見えない創意工夫は貴重な財産です。

 素晴らしい未来を描く関西の無形資産とコミュニケーション力を生かし、情報発信によって一層の発展を遂げられると信じています。