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「人」重視の採用と人材育成で未来のエンジニア不足を解消へ キャル 前田明

キャル 社長 前田 明

経済産業省の発表によると、2030年にはIT人材が最大で79万人不足すると予想されている。多くの企業が人材採用に苦慮する中、エンジニア採用に成功しているキャル。その背景には「人」を重んじる前田社長の経営姿勢がある。(雑誌『経済界』「関西経済! 次の一手!特集」2023年3月号より)

前田 明・キャル 社長

キャル 社長 前田 明
キャル 社長 前田 明

10年間で社員数が90倍に人材獲得成功への取り組み

 クライアント企業に対し、システム開発や運用、インフラネットワーク構築といったIT分野全般業務を行う常駐型支援を中心に、受託開発や自動車部品の機械設計など、あらゆる分野にエンジニアの技術を提供するキャル。大阪・東京のオフィスをはじめ国内13カ所、海外2カ所に拠点を持つ。

 官公庁向けシステムに特化した受託開発を長年行ってきたが、より幅広い分野へサービスを展開するため、現在の柱であるエンジニア事業本部を立ち上げたのが2011年。当時20人弱だった社員は、22年12月時点で1875人に。豊富な人材と技術力を生かし、基幹系、ウェブ系、ネットワーク系、機電系などあらゆる分野の開発・運用サービスを提案できるのが強みだ。

 IT系、機電系ともにエンジニア不足が叫ばれる中、なぜこれほどたくさんの人材を確保できるのか。

 「私たちのビジネスは人がいなければ成立しません。そのため採用活動に注力してきましたし、15年からはグローバル採用にも取り組んでいます。それでも人材は不足しています。ならば人材を育成しようと、22年から『キャルITカレッジ』という労働局の認可を受けた求職者支援訓練校3校の運営をスタートしました」と前田社長は話す。

 その売りは「半年間で0から学べるJavaスクール」。訓練校の講師は、同社で開発業務に携わってきた元エンジニアや大手SIerでプロジェクトマネージャーなどを担ってきた人材が務め、実践に即した独自のカリキュラムを提供している。就職率100%の実績があり、教室は毎回定員オーバーになるほど受講希望者は増加している。

 「今期は卒業生100人の輩出が目標。今後は大阪以外の地域にも展開したいと考えています。IT業界を目指す人が増え、人材不足の一助になればうれしいですね」

社員教育への注力と海外人材採用・育成も強化

 同社が採用する人材は7割以上が業界未経験者だ。採用時に最も重視するのは「スキル」ではなく「人柄」と明言する前田社長。ビジネスマナーや技術は入社後の研修でフォローし、プロフェッショナルとして強みを伸ばしていく。22年に人材能力開発室を新設し、社員教育への注力で人材の定着率が高まった。

 「研修はオンラインではなく同時期に入社した社員が集まって対面で行います。研修で一緒にプレゼンなどに取り組むことで同期の連帯感が生まれ、仕事上の不安や悩みなどを共有できる環境ができたことが定着率向上につながっているのではないでしょうか」

 組織全体の業務レベルの底上げも期待されている。

 同社では人材獲得を海外にも広げている。韓国とモンゴルの大学に出向いて日本語でコミュニケーションが取れる人材をスカウトしている。この2カ国を選んだのは、日本文化になじみがあり、日本語でコミュニケーションを取れる人が多いため。今後は世界各国に採用拠点を展開する計画があり、海外人材の獲得を加速させていく。

 また海外で新たなIT人材を輩出するため、現地に日本語学校を開校し、日本での就労に不可欠な日本語の習得をサポートしている。授業料は無料、教科書代のみの負担で、エンジニア職への興味の有無にかかわらず門戸を開き、現地の若い人材のキャリア形成に貢献している。

「いい会社」であることが業界の未来を変えていく

 「海外と比較して最先端とは言えないものの、一般的なシステム開発案件のボリュームが多い点は日本のIT業界のメリットです。ただし、需要の高まりによってITがありふれたものになり、その価値が低く見積もられていることは問題です。生産性向上も大切ですが、業界全体で仕事の単価を上げていきたい。そのためには海外の仕事を受注することも必要です」

 今後10年のうちにリアルタイムでの異言語コミュニケーションが可能になると踏む前田社長。そうなれば世界中どこでもオンラインで仕事ができる。海外の人材だけでなく、海外の開発案件の獲得も容易になり、業界の発展につながるだろう。

 今後のビジョンを伺うと、「社員からは『ダサい』と言われますが、シンプルに『いい会社』を目指したい」と笑う前田社長。

 これは社員にとっての「いい会社」であり、働きやすく、社会的にも信用のおける会社を意味する。

 「職場は1日の大半を過ごす場所。その環境が快適であることは、社員の人生を幸せにします。人材教育を充実し、しっかりと利益を生める体制をつくり、社員が誇れる『いい会社』であり続けたいですね」

 日本のIT業界とエンジニアの評価が高まれば、優秀な人材の海外流出を防ぎ、日本での活躍も増える。業界を超えて日本の明るい未来の創造に向けて取り組む同社の今後に期待したい。 

会社概要
設 立●1990年2月
資本金●1億円
売上高●91億100万円(2022年8月期)
本 社●大阪市中央区
従業員数●1,875人(2022年12月)
事業内容●IT事業、機電事業、受託開発事業(官公庁、民間企業向け)システム開発、職業訓練校の運営など
https://cal.co.jp/