経営者コミュニティ「経済界倶楽部」

オートバイ業界のダイナミックな変革に向けたプロジェクトを推進 ナップス 望月真裕

望月真裕 ナップス

オートバイ用品の小売り・開発を行うナップス。関東エリアを基軸に、東北・東海・近畿など国内各地の他、台湾にも展開。計31店舗を擁する、日本最大級のオートバイ用品店だ。創業60年の歴史を刻む同社は、業界初のSDGs宣言を行い、持続可能なオートバイ業界実現のため、Naps +Eプロジェクトを推進している。文=榎本正義(雑誌『経済界』2023年3月号より)

望月真裕 ナップス
望月真裕 ナップス社長
もちづき・まさひろ 1982年神奈川県生まれ。関東学院大学卒業後、不動産会社のスターツに入社。24歳で不動産会社のNIKKEI(現日京ホールディングス)を設立。2015年5月ナップスの取締役に就任。17年2月代表取締役社長に就任。

国内最大級のオートバイ用品店の新たな取り組み

ナップス フルドライカーボンボディKIT
ナップス フルドライカーボンボディKIT

 ナップスは、1962年の創業以来、オートバイ用品の小売り・開発・販売を行っている。店舗事業、ウェブショップ事業、プライベートブランド事業の3事業をビジネスの柱として展開している。

 合計31店舗(中古バイク用品買い取り販売「アップガレージライダース」6店舗を含む)を運営し、店舗取り扱いアイテム数は3万5千点以上。国土交通省認可の認証工場でのピットサービスを完備し、部品の交換や取り付け、車検などオートバイライフに必要なあらゆるサービスを提供。ワンストップチャネルとして、約30万点のアイテムを取り揃えたウェブショップの運営、さらに潜在的なニーズに応えるための新商品の企画・製造・販売を行っている。

 同社を率いるのが、4代目社長の望月真裕氏。しかし、望月氏は当初、全く別の業界で仕事をしていた。

 「祖父が創業した会社ではなく、親族が経営にかかわっている業種でもなく、自分で選び興した会社の経営者になりたい。地図に残る大きな仕事がしたいと、不動産業の起業を視野に、大学在学中に宅地建物取引主任資格を取得。卒業後は大手不動産会社に就職しましたが、業界の慣習に疑問を感じ、24歳の時に不動産ベンチャーを起業しました」

 5人で立ち上げた不動産会社は、10年で従業員数70人となり、新卒を採用できるまでに成長した。順風満帆な経営者としての道を歩んでいた望月氏だったが……。

 祖父が62年に創業した日京自動車。当初は自動車部品の卸、小売り、用品類の卸売りとしてスタートした。社名は、創業当時の取引先である日産自動車の「日」と、東京の「京」。読み方は、創業の地である横浜色を出すために「京浜(ケイヒン)」の読み方にならい「ニッキョウ」ではなく「ニッケイ」とした。81年にオートバイ用品販売に参入し、2007年に社名をナップスに変更した。これはNIKKEI AUTOMOBILE PRO SHOPの頭文字を取ったもの。

 しかし、バイクブームに乗った創業から、次第に業界は右肩下がりとなっていた。国内のバイク市場は、40年前のピーク時に比べ10分の1の規模まで縮小。少子高齢化の影響を受けメーンターゲットが50~60歳代になり、世代継承が進んでいない。オートバイは排気ガス問題や危険な乗り物といったイメージの悪さがあり、オートバイ用品業界では、値引き・低価格戦略のみのコモディティ化が進んでおり、業界全体が脆弱化しているといった問題点があった。

多種多様な企業と共に二輪業界の再構築を

ナップス_春日井店店内写真㈰
ナップス 春日井店店内写真㈰

 ナップスは、この状況を打破してくれるリーダーを探していた。そんな時、創業者である祖父が倒れたとの一報を聞く。このままではナップスは立ち行かなくなるかもしれない。

 望月氏は「創業者親族としての責任感」と「大きな船を操縦したい」という気持ちから、継承を決意。12年にナップスの常務として入社し、銀行出身の小島英彦社長と共に新生ナップスの基盤作りを始めた。

 「自分で創業した不動産会社は、3年かけて継承し、ナップスに移りました。入社後は、2年かけて社内や業界全体を把握することに努めました。全社員と面談し、業界の全社と会って、今業界では何が起きているのかを分析しました。社長に就任後は、事業戦略作りに没頭しました。それがないと、ただの消耗戦になってしまいます。特に、なかなかパイが伸びない市場では、これが大事だということを、前の不動産会社経営で学んでいます。まずは正確な情報に基づき、社内全体で危機感を共有し、皆を巻き込んでいくようなイメージで改革を進めていきました」

 社内の改革を進める中で、オートバイを取り巻く現実を見つめ直すと、もはや一企業の問題ではないほど深刻な状況であることに気づいた。今、取り組むべきは、企業やユーザーといった垣根を越えて、すべてのオートバイを愛する者が協力し、より良い未来を築く戦略の開発だった。そこから2年間戦略の作り込みに向き合い、経営戦略を築き上げていった。

 22年2月、オートバイ用品業界初のSDGs宣言を行い、持続可能な取り組みへと進化させたモビリティ革命の好循環を図る取り組みを開始。SDGs活動として取り組んでいく柱は、国際的な支援、次世代の子どもへの安全啓蒙、ロングユース、EVモビリティの促進、寄付活動の5つ。オートバイという趣味を次世代に繋げるために、個社ごとではない枠組みでSDGs活動に取り組んでいくという。

 同年10月には、未来でもオートバイを楽しめるような、時代に合ったイノベーションを実現するプロジェクト「Naps +E」と、オートバイ本来の楽しさを追求するブランド「Naps Sports」を立ち上げた。「Naps +E」プロジェクトとは、オートバイメーカー、オートバイ用品メーカー、オートバイショップなど、オートバイにかかわる多種多様な企業と、オートバイを愛するすべてのライダーの、オートバイの未来のために何かしたいという想いの受け皿となり、オートバイという趣味を次世代まで継承できるようにしていく社会活動。既に30社以上がパートナー企業として賛同しており、引き続きこのプロジェクトへの賛同の輪を広げていくという。

 新ブランド「Naps Sports」は、「For ultimate Riders.」(究極のライダーのために)というキーメッセージを掲げ、「ライダー心を極限まで追求した創造」のために立ち上げたプライベートブランド。グローバル展開を見据え、高い技術力と実績を持つ国内メーカーと共に、オリジナルプロダクトの企画・製造・販売を行う。

 「当社では、“For all Riders”、豊かなオートバイライフの創造に貢献し、顧客の夢を叶えるため、これからもさまざまな取り組みを実施していきます」