自転車小売のダイワサイクルと、作業服メーカーのたまゆら。一見共通点がないように見える両社が、運命的な縁により新たな可能性の扉を開く。カギは「お客さまの潜在ニーズの深掘り」。個人向けサービスはもちろん、法人向けのサービスも充実しているからこそ湧いてくる斬新なアイデアに注目したい。文=大橋高広(雑誌『経済界』2023年3月号より)
まさに運命と呼べる両社のコラボレーション
神口 ダイワサイクルさんは今年で創業から42年、会社設立から32年がたちますが、主事業の自転車の販売と修理以外にもさまざまな取り組みをされていてすごいなといつも思っています。
涌本 ありがとうございます。当社は通常の自転車販売はもちろん、新しい形の自転車の開発や出張費無料の自転車修理サービスを提供しています。また個人向けのサービスに加えて法人向けのサービスも展開しており、業務用自転車の配送納品、学校を通した新入生への自転車の販売斡旋、さらにイベントの見回り用車両の納品など、幅広いサービスを実施しています。日々、お客さまのニーズを聴き取りながら工夫をしているという感じですね。
企業が今後生き残って発展していくためには、オンリーワンであることが大事だと思っています。現在、全国に100店舗を展開して今後も店舗拡大を目指していますが、ダイワサイクルの今のブランドイメージはオンリーワンなのか。そうであればもっと磨きをかけていかなければいけないし、社員にもしっかり伝えていかなければいけないと思っています。今回は、たまゆらさんとコラボするという形で奈良への初出店を果たしましたが、たまゆらさんも長く事業を続けている会社ですよね。
神口 ありがとうございます。当社は主に現場作業用のユニフォームや小物を作っていますが、お陰さまで今年で創業58期を迎えます。
先代社長の父が創業者で、当初は一般向けの衣料品店を経営していたのですが、和歌山の島精機製作所からの要望で軍手を作るようになりました。それがきっかけとなって、作業服メーカーへシフトしていきました。それから40年間、この事業に携わっています。また、創業者の出身地ということもあり、和歌山に「たまゆらの里」という施設もつくっています。
涌本 軍手を作り始めたのが、たまゆらさんのターニングポイントだったのですね。「たまゆらの里」は私もお伺いしたことがありますが、素晴らしい施設でした。
神口 ありがとうございます。たまゆらの里は、小川が流れていて子どもたちも川遊びができますし、鮎のつかみ取りやプール、花火もできます。全部屋にバーベキューができる鉄板もあって家族で楽しむこともできるので、とてもおすすめです。
今回のダイワサイクルさんとのコラボは、本当に不思議なご縁から始まりましたよね。
涌本 そうですね。当社が奈良への初出店を考えて市場調査をしていたところ、視野に入れていた良い物件があったので問い合わせたのですが、既に別の会社が手を挙げているとのことでした。しかし、話を聞くうちに、その会社が昔から親しくしているたまゆらさんだということが判明したのです。以前の当社のユニフォームもたまゆら製のものでしたし、とても仲良くさせてもらっていたのでその話を聞いた時は驚きました。たまゆらさん自身も、この物件の広い敷地をどう使おうか悩んでいるということを知り、同じ敷地内でのコラボ出店を提案しました。
神口 本当に、すごいご縁ですよね。
涌本 そうですね。私もせっかくの機会でありご縁だと思ったので、単に敷地を間借りさせてもらうのではなく、相乗効果でお互いが生きるようなやり方がないかと考えました。いろいろ話し合って、敷地や店舗内は間仕切りなどをせず、セールや販促のチラシ作成も合同でやることにしました。さらに、作業服メーカーのたまゆらさんと自転車のダイワサイクルがどう協業していくかについて、お互いのニーズをよく話し合い分析したうえで商品開発を進めていこうと考えています。
顧客ニーズの共有で新たな可能性を
涌本 同じ敷地内にいると、お互いの顧客のニーズを協力して分析することができますね。
神口 例えば、雨天時に着用するカッパはフード部分に工夫をこらし、左右へ首を動かした時にフード自体も一緒に動いて視界を良好にするようなものを開発しているのですが、これは自転車でカッパを着る際の左右確認でも生きてくるため、ダイワサイクルさんとのコラボが可能だと思っています。このように、現場からいかに声を吸い上げて商品開発につなげるか、そこが新たな顧客を獲得するチャンスになると考えています。また、当社目線でどんなコラボができるかを考えると、例えば、現場仕事の方が道幅の狭い場所で車から自転車に乗り換えるような場面があります。このような時に、作業道具一式を載せられるようなコンパクトな自転車があれば現場の方のお役に立てるのではないか? などと考えています。
涌本 顧客ニーズを深く分析されているのがよく分かります。
神口 また、たまゆらでは「ワーク&ライフウェア」の提案として、普段使いできる洋服や現場作業をする方向けに撥水・ストレッチの加工などを施したスーツも開発・販売しています。今後、新たな活路を見いだしていくためにも今回のコラボは非常に有効と考えています。
涌本 同じ敷地で出店していると、お互いの仕事内容や顧客ニーズを理解することができて新しいチャレンジにつながります。今後、奈良への出店に限らず他県への出店の際もたまゆらさんとコラボしていきたいと思っています。
ショッピングモールが流行るのは、専門店同士が横並びに展開している様子が楽しいというのが理由の一つです。これを踏まえ、たまゆらさんとダイワサイクルが同じ敷地に出店することで、どのような楽しさや世界観を作り出せるのかを考えていきたいですね。
神口 両社がコラボして顧客のさまざまなニーズを引き出していくことで、今後も新しい展開ができそうですね。
涌本 そうですね。特に奈良は、流行にも厳しい目線を持つ方々が住んでいる地域です。だからこそ、顧客の潜在的なニーズまでとらえてサービス提供をできるお店がこの先も地域の皆さまに必要とされると考えています。奈良に限らず、今後コラボ出店をしていくにあたっては顧客のニーズを深掘りしていくことをずっと大切にしていきたいですね。