新型コロナの感染拡大によってテレワークなどの新しい働き方や長期病欠によるリスクなど「健康管理」は企業にとって大きな経営課題となった。この課題に対して健康志向のメニューを社員食堂に揃えるなど食生活の改善をサポートする企業が増えてきた中、結わえるの「寝かせ玄米」の売り上げが好調だ。同社の荻野芳隆社長に話を聞いた。文=井上 博(雑誌『経済界』2023年3月号より)
完全栄養食ブームで注目される「寝かせ玄米」
完全栄養食のパンやパスタを開発、販売するベースフードが昨年11月に東証グロース市場に上場し、日清食品が発売した33種類の栄養素が摂取できる「完全メシ」がヒットするなど、一食に人間に必要な栄養素が含まれる「完全栄養食」が話題となっている。
「完全栄養食が話題になったことで、当社の『寝かせ玄米』のレトルトパックの注文が急増しています」と語るのは、「寝かせ玄米」の製造、販売からOEMでの提供、飲食店までを手掛ける結わえる社長の荻野芳隆氏。
玄米は昔から完全栄養食と言われ、白米よりもビタミン・ミネラル・食物繊維を豊富に含み人間が健康を保つために必要とされる栄養素のほとんどが含まれているが、いまだにダイエットや健康に気を使う人が食べるイメージが強く、白米に代わる主食として普及はしていない。
「完全栄養食で、市販の炊飯器のほとんどには玄米が炊ける機能がありながらなかなか普及しない理由は簡単で、そのまま炊いたのではおいしくないからです。食べやすく玄米を五分や七分づきに精米する炊き方もありますが、それではせっかくの玄米の栄養素を削ってしまいます。当社の『寝かせ玄米』は特許製法によって玄米の栄養を100%そのままで、おいしさと食べやすさの両方を実現した商品です」と、荻野社長は、自信を持つ。
「寝かせ玄米」の開発をはじめたきっかけは、大手コンサルティングファームにてヘルスケア関連企業のコンサルティングを担当する中で、ライフスタイルの激変を起因とする生活習慣病の増加に問題意識を抱き、「根本的に病気にならない世界を作っていくべき」(荻野社長)と考えたことにある。同氏は、予防分野のコンサルティングを専門に行いながら、毎日の食事、特に主食を研究し、完全栄養食である玄米に着目する。
「健康三要素と言われる『食事・運動・睡眠』の中で、日本人に多い生活習慣病の起因の多くは毎日の食事にあります。食事の基本となる主食を完全栄養食の玄米にすれば栄養面だけではなく、野菜や肉など主菜と副菜の栄養吸収効果も高まり、食べすぎなど生活習慣病の予防にもつながります」
同氏は大手コンサルティングファームに勤めながら休日を利用して自宅で玄米の炊き方の実験を重ね、特殊な圧力釜で炊いて数日間寝かせる炊飯技術にたどり着き、白米にはないモチモチ食感とおいしさを併せ持つ『寝かせ玄米』を完成させる。完成を機に2009年に結わえるを起業し、電子レンジで1、2分温めるだけで食べられるレトルトパックを商品化。会社設立から14年目の今では茨城県の自社工場で月間40~50万食のレトルトパックを出荷し、昨年11月には累計1千万食の大台を突破した。
「当社も百貨店に出店していた直営の販売店の撤退など新型コロナの影響を受けましたが、在宅でのテレワークが長引き社員の健康管理が課題となったことでネット通販での販売が好調でした。健康管理を食生活から考えたとき、完全栄養食という栄養面と、玄米ならではの腹持ちの良さ、レトルトパックの便利さがテレワーク中の食事にピッタリと、まとめ買いのリピーターも多いです」と、荻野社長。
テレワークや外出自粛によって食への健康意識が高まり、在宅で買い物ができるネット通販が好調だけに、通販会社にとって既存の顧客に向けてヘルスケア関連商品を提案できる絶好の機会でもある。同社は以前より健康食品や化粧品メーカーの通販商材としてOEMの形で提供してきたが、OEM先の商品とバッティングせず、完全栄養食とおいしさという優位性から顧客に提案しやすい商品としても好評。定期的に購入するリピーターが増えたことでOEM先の売り上げに貢献し、顧客の囲い込みにもつながっている。
「ここにきてネット通販だけではなく、美容関係の卸や商社などBtoBの販路を持つ企業からもOEMの引き合いが増えています。OEM先の商品とバッティングしない主食という商品特性からさまざまなチャネルで販売ができ、今流行りのサブスクの商材にも適しています」
創業以来、目立つ宣伝はせずに商品力でリピーターを増やし、販売数と販路を拡大してきた結わえる。完全栄養食の新規参入が増える中、あらためて同社の『寝かせ玄米』が注目されそうだ。
「健康経営」企業が取り組む、「食生活」の改善
社員の健康管理を経営的な視点で考え、戦略的に取り組んでいる企業に認定される経済産業省の「健康経営優良法人」。その評価項目の中にある「食生活の改善に向けた取り組み」として管理栄養士や保健師による特定保健指導や、惣菜が定期的に届く置き型サービスなどを利用する企業も多い。
「テレワークで社員の健康管理が課題となり、『寝かせ玄米』が食生活の改善のニーズに応えたように、社員食堂にも導入したいというニーズも増えています。当社は自社運営の飲食店のノウハウがあり、炊飯技術のライセンス供与からメニュー開発まで社員食堂への導入のための提案も行えます」と、荻野社長。
「寝かせ玄米」を社員食堂で導入するには同社独自の圧力釜とライセンス契約だけで、玄米の仕入れ先は導入する企業の自由。すでに飲食店への導入実績もあり、同社が導入からメニュー開発までコンサルティングした温浴施設では、糀を使った発酵食品と「寝かせ玄米」を組み合わせた健康志向のメニューが人気となっている。
「社員だけではなく、社長や役員の健康管理は企業のリスクヘッジにつながります。『寝かせ玄米』の社員食堂の導入によって会社全体で食生活の改善に取り組むことは企業にとってメリットも大きいはずです」と、荻野社長は社員食堂での取り組みを提案する。
新型コロナの感染拡大によって健康管理が企業の大きな経営課題となった今、長年玄米による食生活の改善に取り組んできた結わえるのノウハウは課題解決のひとつの方法として注目されそうだ。