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“強い東映”を掲げ年間歴代最高興収アニメと特撮の次は実写を世界へ 手塚 治 東映

東映 社長 手塚治

8年ぶりにメディアを集めたラインアップ発表会を実施し、2022年を70周年からの新たなスタートと位置付けた東映。その結果は「ONE PIECE FILM RED」が興収186億円(12月5日時点)を超える大ヒット。自社の年間興収最高記録となる幸先の良い1年になった。“強い東映”への変革を掲げる手塚社長に聞いた。(雑誌『経済界』2023年3月号より)

熱盛エンタメ VOL.19

手塚 治・東映社長のプロフィール

東映 社長 手塚治
手塚 治 東映社長
てづか・おさむ 1960年3月生まれ、千葉県出身。83年青山学院大学卒業、東映入社。テレビ・映画プロデューサーとして「スケバン刑事」シリーズ、「味いちもんめ」、「科捜研の女」「大奥」などのヒット作を手掛ける。2009年テレビ第一営業部長、10年執行役員、12年取締役、16年常務取締役を経て、20年6月に代表取締役社長に就任。

8年ぶり大規模発表会を実施強い東映を社内外にアピール

ーー 映画界にとってコロナからの本格復興と位置付けられる年に自社の年間興収最高記録となる業績を残しました。2022年は東映にとってどんな年でしたか?

手塚 この2年間は、コロナによって公開時期がずれるなどラインアップ編成が不安定になっていたこともあり、それを立て直すひとつのきっかけとして8年ぶりにリアルのラインアップ発表会を22年の年初に行いました。22年は東映が勝てる魅力ある作品を編成することで、〝強い東映〟をメッセージとして発信するのと同時に、良い作品を生み出す力があることを社員にも認識させたいという思いがありました。年間ラインアップをきっちり意識していく。それが22年最大の取り組みです。

ーー ラインアップ発表は社内に向けたメッセージでもあったんですね。

手塚 社内に関しては、同時に創業以来となる大がかりな組織改変を行いました。これまでずっと変わっていなかった映画部門を一新して次なる時代に向けて動き出す。それが22年の戦略でした。

 ラインアップ強化とつながりますが、最大の目玉は、年間を通じて作品を並べる責任を負う映画編成部を新設したことです。そこを中心に周辺組織の人事を含めて一新しました。社員それぞれが今までの仕事をベースに新しいことに取り組むポジションを与えられています。まず社長の私自身からですが(笑)。

 この組織改変によって、若い人たちを中心にいい効果が出ており、23年はさらに社内が活性化していくことを期待しています。一方、採用に関しても中途や第二新卒など枠を増やしました。さまざまな才能が集まる入口を増やしています。

ーー 映画製作においてはこれまでとどう変わったのでしょうか。

手塚 1本の映画は、劇場公開からパッケージ、配信など2〜3年先まで収支が続きます。その流れを、最初に企画を立ち上げた映画企画部やラインアップに責任を負う映画編成部のほか、どの部署でもすぐに確認できるようなシステムを構築しています。これにより、初期予算や宣伝費用とアプローチ、興行による客層、2次および3次利用の収支など、1本の作品にまつわるあらゆるデータが、従来のような手間をかけずに確認できるようになります。

 もちろん最大のテーマは面白い映画を作ることですが、そのためには過去作品のデータを知ることも必要です。映画へのアプローチを多面的にし、企画の活性化と収益の最大化を図ります。

歴代最高興収達成の背景業界トップの東宝に迫る

OP メイン① ONE PIECE FILM RED
OP メイン① ONE PIECE FILM RED

ーー 新たなスタートとなった22年の好業績には、さっそく変革の成果が現れているのでしょうか?

手塚 本質的にはもっと先々に現れてくるものですが、こうした取り組みとそれによる意識改革が足元の業績に影響している部分はあると思います。組織改変を行ったことで、社員一人一人の考え方や行動が変わってきていると感じます。そのことは大きいです。

ーー 社会現象となる記録的ヒットが22年に生まれたのは、変わろうとしている東映のこれからを象徴しているように感じます。

手塚 「ONE PIECE FILM RED」は、長い時間をかけて諸先輩方が作り上げてきたものが、ようやく大きな花を咲かせたんです。そういう意味では、この作品が22年の編成になったことは幸運なのですが、一方それほどの大きなヒットになった過程には、新たなスタートを切った東映の次へ向かっていこうとする取り組みも根底にあると思います。

ーー 日本の映画会社では東宝が最大の興収を上げていますが、22年はかなり迫るのではないでしょうか。

手塚 島谷能成会長と松岡宏泰社長の顔が浮かぶので、発言は慎重にしないといけない(笑)。現時点(11月末)では、東宝さんに迫る、あるいは超えられるように頑張っています。ただ、企業のサイズもビジネスのスタイルも違いますので、本質的な狙いは違います。われわれは自分たちで作って売る〝産直〟の会社です。だからラインアップを一番大事にしています。

ーー 新たな東映の23年には、22年を超える業績への期待も高まると思います。

手塚 186億円を超えるヒット作を毎年生み出すのは並大抵のことではありません。われわれがこれからまず取り組むのは、自社製作作品を増やし、ラインアップを豊かにしていくこと。これは22年から始めたことでもあり、諸先輩方のお陰で予想を大きく超える業績になりました。23年以降もこの方針に沿ってさらに魅力ある作品を生み出し、いい興行成績を残すことを目指していきます。

路線優先でなく脚本ありき時代にあった作品を作る

レジェンド&バタフライ
レジェンド&バタフライ

ーー 任侠や実録もの、仮面ライダー、スーパー戦隊シリーズなどは東映らしい作品と言われています。手塚社長が考える〝東映らしさ〟とは何でしょうか。

手塚 任侠やアウトローなど、かつて不良性感度と呼んでいた作風が東映らしさとは思っていません。今の時代にあった作品を作っていくべき。もちろん任侠があっていいし、「孤狼の血」のような昭和の世界を魅力的に描く脚本があればやるべきです。ただ、あくまで路線優先ではなく、脚本ありき。一方、「探偵はBARにいる」のような探偵ものこそ、これからの東映的な作品にしていきたい。こういった娯楽シリーズをいくつか立ち上げる準備を進めています。また、仮面ライダーとスーパー戦隊シリーズは会社が存続する限り未来永劫大切に育てていきます。

ーー 22年は創業71年目でしたが、幸先の良い新たなスタートの年になりました。

手塚 どんな年だったかと聞かれれば、22年から変えていこうという意識を全社的に強く持って取り組み、結果的にリスタートにふさわしい年になりました。この勢いをずっと続けていきます。ただ、もし組織形態や仕組みが社会と合わなくなればもちろんその都度変えていきます。

ーー リスタートの先に掲げる会社としてのあるべき姿を教えてください。

手塚 アニメーションが東映の強みの1つであり、世界で高く評価され、愛されています。それに加えて、パワーレンジャーなど特撮ものも世界進出に成功しています。次にわれわれが狙うのは、実写作品の海外展開です。そのために東映東京撮影所に数十億円をかけて最新のデジタル設備を導入します。そのあとは東映京都撮影所。最新の映像を撮れるようになれば企画自体も変わっていきます。自社製作で世界の人に届く作品を作っていく映画会社になります。

 もう1つは、社員が自由闊達で楽しい職場だと思うような風通しのいい会社に変えていきたい。この2つが私のやりたいことです。

ーー 1月27日には70周年記念映画「レジェンド&バタフライ」が公開されます。

手塚 全社員に試写を見るように号令をかけました。これまでは作品を見ないまま上映が終わることも少なくなかったのですが、それは東映社員として違う。作品を見れば、これが東映の力だと感じられます。今社員たちがすごく盛り上がっています。だからこそこの作品は何としても当てて結果を出したい。23年は早々から「シン・仮面ライダー」も含めて話題性の高い、力のある作品が続きます。22年に続いて、強いラインアップで勝負します。