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「最適な選択をして戦えた」森保監督が語った日本代表の進化 森保 一 × 二宮清純

森保監督

昨年、日本中が熱狂したサッカーW杯カタール大会。日本代表チームを率いた森保一監督は、優勝経験国のドイツとスペインを破るなど、歴代最強とも言われるチームを作り上げた。続投が決定した森保監督は、いかにして勝てるチームを作るのか。スポーツジャーナリストの二宮清純氏が聞いた。Photo=山内信也(雑誌『経済界』2023年4月号より)

森保一 SUMURAI BLUE 日本代表監督×二宮清純 対談
森保 一 SAMURAI BLUE(日本代表)監督
もりやす・はじめ 1968年8月23日生まれ、長崎県長崎市出身。小学校でサッカーを始め、87年に日本サッカーリーグ(JSL)のマツダ(現・サンフレッチェ広島)に加入。92年に日本代表に初選出された。93年にJリーグが開幕し、同年のFIFAワールドカップアメリカのアジア予選に出場。2003年に現役を引退。広島の監督に就任すると、6年間でチームを3度のJリーグチャンピオンに導く。17年10月からU-20(現U-24)日本代表監督、18年7月よりSAMURAI BLUE監督を務める。22年のW杯カタール大会では、ドイツ、スペインを破り決勝トーナメント進出。

二宮清純 スポーツジャーナリスト
にのみや・せいじゅん 1960年愛媛県生まれ。スポーツ紙、流通紙記者を経て、スポーツジャーナリストとして独立。広島大学特別招聘教授。『勝者の思考法』『スポーツ名勝負物語』『プロ野球の職人たち』など著書多数。最新刊は『証言 昭和平成プロ野球』。HP「スポーツコミュニケーションズ」が連日更新中。

選手、コーチ、スタッフ。それぞれの良さを引き出す

―― W杯から少し時間がたちました。昨年を振り返ってどんな1年でしたか。

森保 仕事全般で言うと、充実していて幸せな1年でした。W杯での戦い方については、残念ながら目標としていたベスト8の壁は超えられなかったので悔しさはありますが、優勝国と戦っても勝負できるんだという自信につながり、これから日本がW杯で優勝する夢を持てる戦いだったと思っています。

―― カタール大会終了後、2026年大会までの新たな4年契約を結びました。もともとオファーが来たら受けようと思っていたのですか。

森保 そうですね。家族のプレッシャーも大きいですから、妻と子どもに確認をして、お受けさせていただきました。私自身としては本当に好きなことに、やりがいを持って取り組める場所ですし、日本人としての喜び、誇りをもって戦えることが何より幸せなことです。

 具体的な戦い方について言えば、われわれが目指すべき方向としては、いい守備からいい攻撃を組み立てることです。攻撃の部分では自分たちでボールを持ち、主導権を握りながらゲームをコントロールして勝っていくことを目指さなければいけません。もちろんカタール大会でも目指してきましたが、なかなか現実的には表現できることが少なかったです。新たなチームを作り上げるにあたって、私のサッカーの攻撃部分をブラッシュアップしてくれるコーチ陣を招聘したいと思っています。

―― いろんなコーチの適性を見ながら、適材適所で使っていくということですか。

森保 おっしゃる通りです。オープンプレーの攻守、セットプレーの攻守等々、各コーチやスタッフには、それぞれの役割に基づいて責任を果たし、チームを勝たせることに集中してもらえるようにします。

 そのためにも、私自身が中心となってチームとしての戦い方や目標の指針を共有しつつ、コーチ陣にもスタッフにもそれぞれの良さを出してもらえるような関係づくり、組織づくりをしていきたいと考えています。

―― 成長著しい選手も続々と出てきています。4年後が楽しみですね。

森保 カタール大会の代表メンバーでは、初出場組が19人いました。彼らをそのままコアメンバーにしていく考え方もありますが、そこはニュートラルに見て、その時々のベストチームを編成していきます。最終的に26年のW杯で最強のチームを作れるようにしていきたいです。

―― どうしても試合に出られないメンバーもいます。森保監督はそちらのケアにも力を入れたそうですね。

森保 できる限りの説明をするようにしました。試合に使う選手、残念ながらそうではない選手に分かれるわけですが、全員を貴重な戦力として招集していますので、平等に働きかけをしていかなければいけないなと、日頃から思っています。

「やらない」と「できない」その違いは大きい

―― カタール大会が終わった後、リアクションだけじゃなくてもっと積極的に主導権を取るべきだとか、攻撃のオプションを増やせだとか、いろいろ意見がありましたよね。それはどう思いますか。

森保 試合を見ていただいて、いろいろなご意見があったかと思います。しかし、「やらなかった」と、「できなかった」は違います。われわれはいい守備からいい攻撃につなげることを大事にして、速攻ができれば速攻、そうでなければボールを握りながらゲームをコントロールすることを常に目指しながらやってきました。
W杯本番の戦いの中で、現実問題として、自分たちがボールを握りたくても相手が強かった。そこは理想と現実を分けて考えるべきです。現在の日本の立ち位置で考えれば、まだまだ我慢し、耐えながら勝たなくてはいけない現実がありました。守勢に回った時に我慢強く、粘り強く戦うことは選手にも伝えていました。

 選手たちも、試合の入りは自分たちが相手に対してアグレッシブに戦って、自分たちの良さを出そうとトライしつつ、結果として相手との力関係で後半は守備を優先して戦うことになりました。

 この部分は、ピッチ上で選手たちがいい判断をして戦ってくれたと思います。私自身は、これこそが日本サッカーの進化だと思っています。やりたいことはありますが、その状況、流れの中で最適なことを選択して戦うことができていた。

―― グループリーグ初戦のドイツ戦前のインタビューでも、ニコニコとして楽しそうでした。森保監督の楽観主義的な部分は、選手たちにも伝播するんでしょうね。

森保 本大会が始まる前は、もちろんいろいろなことを最大限考えました。けれど、あとはもう世界の舞台で優勝経験国と真剣勝負ができることが、何よりも楽しみでした。

 ただ実は、私自身が楽観主義だから自信をもっていたというよりも、むしろ選手たちの言動を見ていたからこそなんです。世界のトップリーグで勝負している選手たちが世界の中で自分たちは十分戦えるということに本当に自信を持っていて、落ち着いていました。それを見て私も前向きな考え方ができたんです。本来は監督が自信を与えなければいけないのに自信をもらっていました(笑)。これからまた厳しい戦いが続きますが、より高い目標に向けて頑張っていきたいと思います。