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コンテンツプラットフォームがネット上の「街」になる 加藤貞顕 note

加藤貞顕 note

文章や写真、映像などを投稿・販売できるメディアプラットフォーム「note」。基本無料で使用することができ、シンプルな操作性やSEO面の強さ等が人気となって、2014年4月のサービス開始から着実にユーザーを増やしてきた。加藤社長は「既に起きた未来」に向けて事業を進めると長期的なビジョンを語る。聞き手=和田一樹 Photo=小野さやか(雑誌『経済界』2023年4月号より)

加藤貞顕・note CEOのプロフィール

加藤貞顕 note
加藤貞顕 note CEO
かとう・さだあき アスキー、ダイヤモンド社に編集者として勤務。日本を代表する編集者として『もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの「マネジメント」を読んだら』(岩崎夏海)、『ゼロ』(堀江貴文)、『マチネの終わりに』(平野啓一郎)などベストセラー作品を多数手がける。2012年、コンテンツ配信サイト「cakes」をリリース。14年、メディアプラットフォーム「note」をリリース。22年、東証グロース市場へ上場。

個人も企業もオンラインへ引っ越す未来

―― メディアプラットフォーム「note」は、操作が簡単で、SEOにも強く人気のサービスです。昨年12月の上場時、公開価格は340円。同年4月の資金調達時の発行価格が2062円だったことで、ダウンラウンド上場、ギブアップ上場など厳しい評価もありました。

加藤 私たちにとって初値で高値を付けることがメインのイシューではありません。上場は長期的にサービスを伸ばすために必要なものだと捉えて準備してきました。外部環境が厳しい中で延期しなかったのも、そのためです。

―― 上場時の会見でも「長期的な視点で考えた時に、やるべき時にやろうということで決めた」と述べていました。長期的というのは、どれくらいのタイムスパンで事業を描いているのでしょうか。

加藤 変化の激しい現代社会で長期的な見通しを立てるのは簡単ではありませんが、少なくとも10年といったスパンになると考えています。 2年や3年先のことではない。未来は不確定ですが、はっきりと言えることは、これから人や企業がネット上に「引っ越す」ということです。

―― 引っ越すというのはどういう状態をイメージしていますか。

加藤 例えば、仕事や遊びなど日常生活の大半をネット上で過ごすようになることです。すでに、東京の30代、40代くらいのビジネスパーソンの一部はそのような暮らしになっていますよね。もはやオンラインに住んでいる。ただ、これはまだまだ特殊な人たちです。地方に目を移せば、リアルをメインに生活されている方が多数ではないでしょうか。では、これが10年後どうなるかと言えば、地方でも半分以上の人が、日常の大半をオンラインで過ごすようになるでしょう。

 これはほぼ確実に予想できる話です。ドラッカーの言葉で言えば「既に起きた未来」。そうなった時に、noteというサービスは、みんなの集う場所でありたい。自分の情報をためて、人とコミュニケーションをとり、必要であればそこでビジネスもする。そんなオンラインに引っ越した方々の本拠地、インターネット上の街を目指しています。

―― コロナで伸びた感じがするEC化率も、現実は10%以下です。10年間で地方の大半の人がネットに引っ越すなんてことが起きますか。

加藤 変化というのはそういうものです。部分で始まり全体を覆う。個人的な話で言えば、1995年にカシオから初めて民生用のデジカメが発売されて、画質がそこまで良くなかったこともあって流行らないなんて言う人もいましたが、私はこれがスタンダードになると確信しました。コンピューターの集積度が高まっていくのは自明なことで、それに伴い画質のクオリティが上がっていくことは見えていたからです。

 ですから、長期的な視点というのは決して理想を語っているのではなく、地続きの未来の話をしています。2022年11月末時点で、会員数は585万人、月間アクティブユーザー数は3880万人です。noteの存在を詳しく知らないまま、Twitter等のSNSでリンクを踏むなどして訪れ、閲覧している人もいると思いますので、noteを認知している人は日本人の1割くらいかもしれません。サービスのリリースは14年でしたが、われわれはまだまだ事業の序盤だという認識を持っています。

街が賑わえばそこには企業も集まる

―― 業績面を見れば、22年11月期は売上高が23億1700万円、営業利益は7億3200万円の赤字です。ここからどう事業を伸ばしていきますか。

加藤 赤字の大きな要因は、人材面を中心に投資を先行してきたからです。必要な人員の採用はほぼ完了しており、売り上げも順調に伸びていますので、今後赤字幅は縮小していくと考えています。その上で、成長戦略も明確に描けています。

 まずは幅広いクリエーターに使っていただけるようにして、CtoC事業を伸ばすこと。プラットフォーム事業はネットワーク性が働くので、賑わう街には人が集まって、より賑わっていきます。そうすれば、ここで顧客とコミュニケーションをしたい企業も増えて、収益面も伸びていきます。22年11月末にnoteを使っている法人のアカウントは、1万9千件を超えました。

―― 法人向けには月額8万円の「note pro」を提供されていて、その契約件数は635件です。ここが伸びるということですか。

加藤 オンラインに引っ越すのは個人だけでなく企業もそうです。例えばアップルを考えてみてください。本拠地はApple.comです。あそこでメッセージを発信して、顧客とコミュニケーションし、ビジネスも行う。これはテスラもそうですね。一方で、日本企業は大企業でも本拠地はリアルにあります。ネット上のサイトは看板みたいなもので実体が薄いんです。

 note proは、noteの高機能プランでオウンドメディアやホームページをノーコードで簡単につくれる仕組みです。現状は、みなさんが一から自前で作っているケースが多いですが、すごく大変ですよね。昔は、家もみんなが自分で職人たちに発注して作っていましたが、今はハウスメーカーが工務店や大工、材木屋を束ねています。ウェブサイトの領域も今後そうなるはずで、note proもさらに機能を拡充することで、そのインフラになることを目指しています。

―― まずtoC向けでクリエーターの利用を増やすことが基本線になるかと思いますが、結局発信したい人だけが発信する場で終わってしまいませんか。

加藤 創作、発信というのはネット上で暮らす時の居場所を示すようなものなので、今後は誰もがやるようになります。というより、既にみんなクリエーターなんですよ。TwitterやInstagramで世界に向けて発信するなんて、昔では考えられなかったことじゃないですか。それだって創作活動ですし、いまや日常になっている。

 noteは、「みんなクリエーティブなことに挑戦しよう」と煽っているのではないのです。みんながネット上で暮らす「既に起きた未来」は近づいてきているので、みんながnoteだと気づかないくらい自然に使ってもらうインフラのような存在になりたい。その時、noteはもっと大きく成長しているはずです。