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もはや〝K-POP〟ではない?躍進する韓国エンタメ界の前途

韓国が国を挙げて国外へと発信する文化のひとつ、K-POP。日本の音楽番組にもたびたびK-POPアーティストが登場し、流暢な日本語を操る姿が話題となる。これまでの発展に、どういった背景があったのか。今やアジアのみならず、欧米圏を含む「世界」で活躍する彼らの現況を追う。文=小林千華(雑誌『経済界』2023年4月号より)

世界で話題を呼ぶ韓流文化。国家ぐるみの戦略が奏功

 昨年11月29、30日、韓国大手音楽専門チャンネルMnetの運営会社CJ ENMは、K-POP界最大の授賞式「2022 MAMA AWARDS(以下:MAMA)」を開催した。韓国企業が主催の授賞式ながら、これまでに日本、マカオ、香港、ベトナムなどアジアの各地域を会場としてきたMAMA。パンデミックを経て3年ぶりに有観客で開催された今回の会場には、大阪・京セラドームが選ばれた。授賞式と会場でのパフォーマンスのために、20組以上ものK-POPアーティストが来日。史上初となる2日間のイベントに、リアルでは約7万人の観客が参加し、約200の国、地域のファンが生中継を見守った。

 前回までは「Mnet Asian Music Awards」の名で催されていた本授賞式だが、今回からは各単語の頭文字をとった「MAMA」を正式名称とした。「Asian」が抜けた新しいタイトルに生まれ変わったMAMAについて、CJ ENMのキム・ヒョンス音楽コンテンツ本部長は「韓国発のアジア音楽授賞式を超えて、世界最大級のK-POP授賞式として新しく出発する」と説明している。

 結果的に今回のMAMAは、韓国エンタメ界がいかにグローバルな市場を意識しているかを知らしめるイベントとなったと言える。司会進行は韓国語、日本語、英語の3カ国語で行われ、授賞式全体を通して、「K-POPで完成する『世界市民意識』」というメッセージが繰り返し伝えられた。

 近年、世界のエンターテインメント市場の中でK-POPの存在感が年々強まっている。今年1月に韓国関税庁が発表した輸出入貿易統計によると、2022年の韓国のCD輸出額は2億3311万米ドル(約300億円)で、過去最高額を更新している。輸出額上位は日中米の3カ国だが、オランダ、ドイツ、フランスといった欧州諸国での売れ行きも好調だった。

 そもそも韓国において、音楽やドラマをはじめとするカルチャーの世界発信は国家戦略の一部だ。韓国統計庁の発表によると、22年時点で人口5163万人(外務省)と、日本と比べても国内の市場が小さいことから、カルチャーの生産にあたっては、グローバルな人気が期待されている。10年には政府が、音楽やドラマをはじめとする韓国コンテンツ事業の支援に、文化関連予算の17・25%に当たる2千億ウォン(約200億円)を投じ、結果として同年のコンテンツ総輸出額は、3兆ウォン(約3千億円)に達した。もともと日本を含むアジア諸国では、00年代前半から韓流ドラマの流行をきっかけに複数回にわたる韓流ブームが起きていたが、こうした政府の経済的バックアップの影響もあり、徐々に韓国のカルチャー全般が世界的な人気を博するようになっていった。

 特にK-POPに関しては、さまざまな国・地域にルーツを持つメンバーを集めた「多国籍グループ」の編成、巧みなSNS戦略など成功の要因はいくつかあるが、世界的ブームのきっかけのひとつは、K-POP界でもトップクラスの人気を誇る男性グループBTSが20年8月に発表した楽曲『Dynamite』の記録的ヒットだろう。

 BTSとして初めて歌詞全編が英語で書かれたこの楽曲は、コロナ禍の巣ごもりにより、SNSや動画配信サービスを通して、韓国カルチャーが全世界での認知度を急激に高めつつあった時期にリリースされ、爆発的ヒットを呼んだ。同年9月1日には米音楽チャートbillboardの「HOT 100」で1位を獲得。これは韓国歌手として初めての快挙だった。

〝Korean〟POPから世界の中心的エンタメへ

 こうした韓国エンタメ界のリーディングカンパニーの1つに、総合エンターテインメント企業HYBE(ハイブ)がある。同社はBTSの所属するBIGHIT MUSICをはじめ、複数の芸能プロダクションや関連会社を傘下に置き、韓国発エンタメの世界進出をけん引する。かつて日本でトップアイドルとして活躍した元HKT48の宮脇咲良氏、元欅坂46の平手友梨奈氏も、現在はHYBE傘下の芸能プロダクションで活動している。

 2月2日(現地時間)billboardが公開した、音楽業界で最も影響力を持つ人物のランキング「THE BILLBOARD 2023 POWER 100」リストでアジア人としては最上位の18位に名を連ねたのが、HYBE創業者であり筆頭株主のパン・シヒョク氏だ。同リストには、ユニバーサル・ミュージック・グループのルシアン・グレンジCEO、ソニー・ミュージックグループのロブ・ストリンガーCEOなど錚々たる顔触れが並び、彼らと同じリストにランクインした時点でパン氏はまさに、世界の音楽市場のキーパーソンだと認められたといっても過言ではない。

 パン氏はこの日同時に、音楽産業の成長と革新に寄与した功労者に授与される特別賞「Clive Davis Visionary Award」を受賞。賞の名のもとになり、ホイットニー・ヒューストンなどを見いだしたことでも知られる音楽プロデューサー、クライヴ・デイヴィス氏からも、「作曲家、作詞家、プロデューサーとしての驚くべき力量を通じて、新しいジャンルであるK-POPを全世界に広め、これによってBTSはグローバル市場で歴史的なアルバムセールスを記録することになった」と、祝福の言葉を贈られた。

 今や世界のエンターテインメント市場を揺るがすK-POP。各国から音楽プロデューサーやアーティスト候補といった優秀な人材を取り込み、単なる「韓国発」ポップミュージックから、エンタメ界全体をリードするカルチャーのひとつとして成長の角度を広げつつある。コロナ禍に終わりが見え、欧州を含む海外での公演活動も徐々に再開され始めた今、主要企業がどのように活動の幅を広げていくのか。これからも目が離せない。