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外資へ身売りする「西の名門ホテル」リーガロイヤル

関西で「大阪を代表するホテルは?」と聞けば真っ先に名前が上がるのがリーガロイヤルホテルだ。設立に多くの関西企業が関わり、関西財界のイベントの多くがここで開かれる。ところが、この名門ホテルが3月末に外資系に売却されることが決まった。一体何があったのか。文=ジャーナリスト/小田切 隆(雑誌『経済界』2023年4月号より)

2025年の万博に合わせて大規模改修

 「大阪の迎賓館」と呼ばれ親しまれてきた名門ホテル「リーガロイヤルホテル」(大阪市北区)が、カナダの生命保険会社傘下の不動産投資会社に売却されると発表された。関西財界が「つくりあげてきた」ホテルで、国際会議の要人の宿泊場所などにも使われてきた「関西経済の中心地」なだけに、「外資の軍門に下る」という今回の発表は関係者に衝撃をもって受け止められた。関西経済の凋落の象徴とみる向きもあるが、今後、銀行や財界関係者らからなる経営陣がどう処遇されるのか、ホテルの位置づけがどうなるのかが注目される。

 リーガロイヤルの売却を1月20日に発表したのは、運営会社のロイヤルホテルだ。売却先はカナダ生保系の不動産投資会社「ベントール・グリーンオーク・グループ(BGO)」。金額は非公表となっている。

 土地、建物の信託受益権などがBGOへ譲渡される。ホテルの運営は、受託を受けるかたちでロイヤルホテルが引き続き行う。

 BGOは2025年3月の完了を目標に、大規模な改修工事を進める。25年4月に大阪・関西万博が半年間の期間で始まるため、それまでに間に合わせたい考えであると見られる。

 BGOとロイヤルホテルは資本提携し、BGOは33%を出資してロイヤルホテル本体の筆頭株主になる。BGOは、代表取締役1人を含む取締役2人の指名権も得る。

 「リーガロイヤルホテル」の名称は一応残る形だ。国際的なホテル運営大手「インターコンチネンタルホテルグループ」とも提携し、改修後、「リーガロイヤルホテル(大阪)-ヴィニェット・コレクション」という名前で再スタートする。

 1月20日の記者会見で、蔭山秀一社長は売却する理由を、「新しいホテルが(大阪に)次々と出ているのに、このままでは万博などのメリットを受けられない」と説明した。

 新型コロナウイルス拡大前のインバウンドの爆発的な増加をきっかけに、大阪は大きな宿泊需要が見込める場所と海外から認知されるようになった。今もコロナの収束や、25年の万博開催、29年のIR(カジノを含む統合型リゾート施設)開業を見越して、相次ぎ新しい外資系ホテルがオープンしている。

 リーガロイヤルは客室1千室以上と大阪最大級の規模を誇るが、築年数が古くなり、内装も時代遅れの印象を与える客室が増えた。

 一部の日本人客からは「昭和レトロのムードが漂い素晴らしい」との声も上がるが、海外の富裕な旅行客からみれば、他の新しい外資系ホテルと比べると見劣りするため、とうてい「選ばれるホテル」とはなってこなかった。

 そうであればホテルの改修を進めればいいのだが、ロイヤルホテルはバブル期の投資の失敗の影響やコロナ禍で有利子負債が約320億円にまで膨らみ、自力での改修は不可能。この有利子負債は、今回の売却で手にするお金で完済し、改修は、BGOによる巨額の投資で行われることになった。ほかの外資系高級ホテルに負けない魅力的なホテルへ生まれ変われるのか注目される。

バブル崩壊で大やけど裏目に出た拡大戦略

 もっとも関西の経済界に詳しい人たちにとっては、手放しで喜べる話ではない。特に国内勢でなく外資に売却されることになったのは大きなニュースだ。在阪のメディア関係者からは「関西財界が作り上げてきた関西経済の中心地ともいえるリーガロイヤルが、よりによって海外勢の支配下に入るのか」と、驚きとも落胆ともつかぬ声が上がった。

 ここで、リーガロイヤルの歴史と、その特殊な位置づけをみておきたい。

 前身となる「新大阪ホテル」がオープンしたのが1935年。「大阪に賓客を迎えられる近代的なホテルを造りたい」という政財界の要望を受け、関西有力企業の出資を受けてつくられた。開業当初から関係が深かったのは、旧住友財閥系だ。

 65年には、現在のリーガロイヤルである新しいホテル「大阪ロイヤルホテル」が開業。大阪以外にも系列のホテルが建設され、90年には新たに「リーガロイヤルホテルグループ」と称した。ネットワークは東京や広島、福岡・小倉、愛媛・新居浜などにも広がった。

 この間、リーガロイヤルは、大阪で95年に開かれたアジア太平洋経済協力会議(APEC)、2019年に行われた20カ国・地域首脳会議(G20サミット)に参加した海外要人の宿泊先として使われ、その存在の特別さが認識された。

 一方、この間、拡大戦略がバブル経済の崩壊で破綻。有利子負債が膨らみ、01年には主力銀行である住友銀行などから約300億円の債務免除を受けている。

 そして06年、傘下に入ることによって経営再建を目指すことになったのが森トラストだ。森トラストは東京発祥の総合デベロッパーで、関西系の企業ではない。だが、森トラストには、ロイヤルホテルと手を結ぶことで、関西での事業展開を強化したいという狙いがあった。

 具体的には、ロイヤルホテルは同年、森トラストに対する150億円の第三者割り当て増資をおこない、森トラストがロイヤルホテルの約40%の株式を握って筆頭株主となった。それまでの筆頭株主は、戦前から関西で強いブランド力を誇っていたアサヒビールだ。

 ロイヤルホテルは森トラストから調達した資金を使い、リーガロイヤル、京都市の「リーガロイヤル京都」の設備投資資金や、有利子負債の圧縮に充てるとした。

 11年には、新たにロイヤルホテルと森トラストとの間で業務提携を締結。20年東京五輪をきっかけとしたインバウンド拡大を見越し、21年を目標としたリーガロイヤルの建て替えと、同ホテルを含む周辺の中之島地区の再開発事業を進める計画を打ち出した。

 そして、ロイヤルホテルはリーガロイヤルの敷地を約190億円で森トラストに売却。ロイヤルホテルは森トラストから土地を賃借して営業を続ける形をとった。売却益は、有利子負債のさらなる圧縮のため使われることになった。

 一方で森トラストは保有するロイヤルホテル株の約半数を、上位株主6社に対して売却。筆頭株主には新たにアサヒビールがなり、森トラストは第2位の株主となった。当時、株式売却の理由は「関西財界との関係を強化するため」と説明された。

 しかし、11年の東日本大震災後の自粛ムードによる旅行・宿泊需要の低迷などを経て、ロイヤルホテルと森トラストの関係に変化が生まれる。

 15年、ロイヤルホテルがリーガロイヤルの敷地を約270億円で買い戻すことになり、同時に、21年を目標としていた建て替えは延期することが決まった。森トラストとの提携は続けるとしたものの、ロイヤルホテルは「自力」で建て替えを続ける道を選んだことになる。

 リーガロイヤルは、すぐ近くには京阪中之島線の中之島駅があるが、同線は主要な鉄道と接続しておらず、交通の便が悪い。

 大阪市の橋下徹市長(当時)が、関西国際空港と新大阪駅を直結させるJRなにわ筋線の建設に前向きな姿勢を示し、中間駅・中之島駅(仮称)がリーガロイヤルの近くにできる方向になったものの、当時は開業時期もよく分からず、開業の実現性に半信半疑な見方があった。

 森トラストはこうした事情を比較・分析し、思うほどの成長戦略を実現できないとみて、「撤退」を決断した可能性もある。

変化は避けられない。関西財界との蜜月関係

 こうして〝単独〟で再建の道を進むことになったロイヤルホテルとリーガロイヤルだが、今回、カナダ系不動産投資会社の傘下に入ることになったことを考えれば、結果的に「自らを助ける」ことができなかったことになる。

 インバウンド拡大を見越して大阪に次々と外資系ホテルが進出してきたにもかかわらず、リーガロイヤルは有利子負債が足かせとなり、対抗する改修が間に合わなかった。

 何しろ大阪は、国内有数のホテル激戦区だ。コロナ前も高級な外資系ホテルが大阪へ次々に進出してきたが、足元でもコロナ後を見越し、数々のホテルの大阪進出が計画されている。

 例えば、大阪市中央区の大阪城公園すぐ近くにある日本経済新聞の旧大阪本社跡地には、ヒルトンが「ダブルツリーbyヒルトン大阪城」を24年春に開業する。ヒルトンはこれまでにも大阪市内に「ヒルトン大阪」「コンラッド大阪」をオープン。さらにJR大阪駅北側に「ウォルドーフ・アストリア大阪」「キャノピーbyヒルトン大阪梅田」を開業する予定だ。

 大阪城公園の近くではこのほか、NTT西日本の旧本社跡地に、シンガポールのカペラホテルグループが「パティーナ大阪」を25年春にオープンする。こうした外資系の攻勢に対し、今後もリーガロイヤルがこれまで通りの体制だったら、とうてい太刀打ちできず、「座して死を待つ」ことになっただろう。

 これからの新体制でリーガロイヤルは、海外の富裕層をひきつける改修をどこまで進められるのか。そして、世界的に知名度のある「ヴィニェット・コレクション」のブランド名を生かし、どこまで海外からの送客につなげられるのか。こういったことが今後の注目点となる。

 そしてもう一つ、注目されるのが、「関西財界が作り上げてきたホテル」という位置づけ、性格がどう変わっていくかだ。

 ロイヤルホテルの蔭山社長は三井住友銀行出身。社外取締役には、パナソニックホールディングス、三井住友フィナンシャルグループ、大阪ガスなど、関西発祥の名門企業の元経営者らが名を連ねている。BGOが筆頭株主になり、果たして彼らの処遇はどうなるのか。

 そして、外資系の傘下に入るリーガロイヤルが、これまで通り、財界の各種イベントが行われたり、死去した経営者の「お別れの会」が開かれたりといった特別な使われ方をされ続けるのか。

 なにしろ「外資は日本の国土を土足で踏みにじるやつら」(国内大手デベロッパー幹部)という声が日本企業の中にはある。リーガロイヤルが海外の富裕客に好まれるホテルに生まれ変わったとしても、経済界が特別な使い方をする特別なホテルという地位は、失ってしまうかもしれない。