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不祥事相次ぐ関西電力。加速する発送電完全分離への道

競合相手の顧客情報の不正閲覧や、営業地域に関するカルテルなど、電力会社で不祥事が相次いでいる。中でも関西電力は、3年前に経営トップが総退陣する不祥事を起こしていながら、再び信用を失墜させた。再発防止のために、発送電完全分離の議論が活発化しそうだ。文=ジャーナリスト/小田切 隆(雑誌『経済界』2023年7月号より)

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関西電力

新電力の顧客情報を不正閲覧し営業利用

 関西電力が、相次ぐ不祥事に揺れている。1つは、子会社を通じて新電力の顧客情報を不正に閲覧していたという問題だ。もう1つは、中国、中部、九州というほかの電力大手3社と、電力販売においてカルテルを結んでいた問題で、不正閲覧とともに、電力自由化の理念を汚すものといえる。

 不正閲覧の仕組みは次のようなものだ。2016年の電力の完全自由化にともない参入した新電力は、電力の家庭などへの供給を電力大手の子会社である送配電会社に委託している。関電の場合、子会社の関西電力送配電がその委託を受けていた。

 当然、送配電子会社は、新電力の顧客の電力使用状況などについて情報を持っている。電気事業法は、電力大手が、送配電子会社のその情報を見たりして共有することを禁じている。ライバルである新電力の「手の内」を電力大手が知り尽くして有利になり、公正な競争が阻害されるからだ。

 ところが関電は、関西送配電に蓄えられている新電力の顧客情報を共有していたという。システムに不備があるなどし、関電社員が顧客情報を見られるようになっており、一部の社員はみずからの営業活動に使うという悪質ぶりだった。

 関電が4月までに明らかにした内部調査の結果によると、19年11月から22年12月の約3年間で、家庭向け電力で社員ら1606人が15万3095件の不正閲覧を行っていた。

 このうち、社員62人・5万4774件が営業目的で情報を閲覧していた。不正閲覧全体の約3割に達する多さで、3911件の契約が不正閲覧の後に新電力から関電へと切り替えられていたという。

 また、調査によると、39人は、不正閲覧が電気事業法上、問題になる可能性があることを認識していた。

 実は、同じような不正閲覧は、ほかの電力会社も行っていた。昨年12月に関電で問題が発覚したことをきっかけに経済産業省が調べたところ、相次いで発覚したのだ。

 そして経産省は4月17日、関電のほか、関西電力送配電、九州電力、九州電力送配電、中国電力ネットワークの合計5社に対して、電気事業法にもとづく業務改善命令を出した。

 具体的には、関係者に対して厳正な処分を行ったり、小売り部門の従業員が、送配電子会社の持つ新電力の顧客情報を閲覧できないようにしたりするなどの対応を求めた。

 関電をはじめ、これらの電力会社による不正閲覧に関して言えるのは、電力大手の新電力の公正な競争を促し電気料金の引き下げにつなげるという「電力自由化」の理念を完全にないがしろにしていたということだ。

 今回の情報共有を許してしまった背景には、まず、情報システムの管理が不十分だったことがある。具体的には、情報を閲覧するためのIDやパスワードを、小売り部門の社員が知っているなどのケースがあった。

 関電の場合は、関西送配電の本店は関電と同じビルに入り、人事交流も行われていた。電力大手も送配電子会社も、社員はもともと同じ会社に所属しており、情報を共有することにあまり抵抗感を感じないケースも多かったとみられる。

根本的な対策は発送電の完全分離

 今回の不祥事を受け強まるかもしれないのは、「発送電をより徹底して分離すべき」との声だ。

 電力自由化にあたり、電力大手の小売り部門と送配電部門の分社化が行われたが、あくまで電力大手が発送電子会社の株式を持つ「法的分離」でしかない。

 関電の場合は、関西送配電を100%子会社として傘下に収めている。しかし、今回の不祥事で浮き彫りになったのは、小売り部門を持つ会社と送配電を手掛ける会社の間に強い関係が残っていれば、情報を切り離す管理システムがしっかり運用・構築されず、結果として不正な情報共有が許されてしまうという事実だ。

 この点については、政府の「再生可能エネルギー等に関する規制等の総点検タスクフォース」が今年3月に開いた会合でも、「事業者の認識の問題が非常に大きいのではないか。法的分離下の行為規制が機能していなかったと言わざるを得ない」との指摘が出た。情報を徹底して切り離すには、小売り部門を持つ会社と送配電の会社の資本関係をなくし、完全に別会社とする「所有権分離」を進めるべきだとの声が今後、強まるかもしれない。

 今のところ、電力会社や経産省は、所有権分離に後ろ向きだ。「災害時に送配電システムトラブルがあった場合、完全に別会社なら、復旧のための十分な人員を送り込めない」ことなどをその理由に挙げている。

 だが、今回、業務改善命令を受けた電力会社の改革が不十分とみられれば、所有権分離を求める声が強まり、電力会社や経産省も検討せざるを得なくなる可能性がある。

関電の度重なる不祥事。険しい信頼回復への道

 また、関電が悪質なのは、不正な金品受領問題で業務改善命令を受けて3年程度しかたっていないのに、またもや業務改善命令を受ける事態を招いたことだ。

 金品受領問題では、関電の元役員ら合計83人が原発の立地する福井県高浜町の元助役(故人)や、その関連会社から総額約3億7千万円相当の金品を受け取っていた。

 金品の受領は、元助役が退職した1987年から約30年間、続いていた。問題を調べた関電の第三者委員会は、工事発注といった元助役側への便宜供与があったと認定し、長きにわたって経営陣が不祥事を断ち切れなかったことや、その内向き体質を批判した。

 この問題を起こした関電に対し、経産省が業務改善命令を出したのは2020年3月。国が電力大手に対して業務改善命令を出すのは初めてのことだった。

 これを受けて、関電は経営陣を刷新。ガバナンス(企業統治)とコンプライアンス(法令順守)の強化に乗り出し、内部通報、研修などの体制を整備した。当時の森本孝社長は会見で「真摯に受け止め改革を実行し、信頼回復につとめる」と記者団に「約束」していた。

 しかし、今回の業務改善命令は、それからわずか3年しかたっていない。不正閲覧は、関電が金品受領問題で業務改善命令を受けた後も、ずっと行われていたことになる。森本社長の「約束」「反省」は「口だけのもの」であり、少なくとも社員らにはコンプライアンス順守の意識が広がっていなかったと言わざるを得ない。

 また、関電のコンプラ軽視の姿勢は不正閲覧問題にとどまらない。その一つが、関電が主導し、ほかの電力大手を巻き込んで引き起こしたカルテル問題だ。

 カルテル問題の発端は18年秋ごろ、当時、企画担当の副社長だった森本氏が、中部、中国、九州の3電力に対し、それぞれの管内での営業活動の中止、縮小などを呼びかけたこと。カルテルの対象は、オフィスビル、大規模工場向けの「特別高圧電力」や中小ビル、中規模工場向けの「高圧電力」の販売だった。背景には、電力自由化で電気料金が下がり、電力大手の経営への悪影響が懸念されていたことがある。

 カルテルは独禁法に抵触する行為だが、関電は「言い出しっぺ」にもかかわらず、公正取引委員会に最初に違反を申告したため、課徴金減免(リーニエンシー)制度が適用された。ほかの3電力は多額の課徴金を納めるよう命じられたが、関電は納付しないですむことになったわけで、これに関しては、ほかの電力からは「恨み節」が出ている。そして、このカルテルも不正閲覧問題と同じく、電力自由化の理念をないがしろにするものだといえる。

 ほかにも最近、関電では不祥事が相次いでいる。たとえば子会社での案件で、実務経験が不足している社員が工事の施工管理に必要な国家資格「施工管理技士」を不正に取得していた問題や、子会社で、家庭向け低圧電流において測定検査を行うことを怠り、虚偽のデータを本店に報告していたとされる検査不正の問題もあった。

 金品受領問題で「反省」の意を示したはずなのに、性懲りもなく不祥事を繰り返す関電。本当に不祥事の根を断つことができるのか。信頼回復への道のりは厳しい。