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51歳での遅すぎない挑戦。東貴博が語る大学生活の魅力 東 貴博

リスキリング特集 東貴博(メイン)

2021年4月から人生のやり残しを果たすためにと大学への進学を決意した東貴博氏。父の死をきっかけに一度は大学進学を諦めていたが、51歳(当時)にして再び大学受験に挑戦し、念願の大学生活を送っている。今年で3年生の東氏に、学生生活の様子や仕事にどのような影響があったのか伺った。構成=佐藤元樹(雑誌『経済界』2023年8月号より)

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東 貴博 お笑いタレント
あずま・たかひろ 1969年生まれ。昭和のコメディアン東八郎の次男として産まれ、父の死後、萩本欽一に弟子入りをして芸能界入り。以後、テレビやラジオで活躍を続け、2021年4月から社会人入試枠で駒澤大学法学部政治学科に51歳で入学。

一度は諦めていた大学進学。人生のやり残しを果たすために

 そもそも、僕が大学に入ったのは、改めて勉強したいという目的ではありませんでした。

 18歳の時に大学を目指して浪人生活を送っていましたが、父が亡くなったため、進学を諦め、欽ちゃん(萩本欽一さん)の弟子になりました。

 その後、仕事が順調だったこともあり、大学への想いをすっかり忘れてしまっていたのですが、欽ちゃんが73歳の時に大学に入学したことで「大人になってからでも大学に行けるんだ」と気づかされました。

 それに、欽ちゃんが大学生活のことを楽しそうに話してくれるのを聞いているうちに、大学に行きたいという想いが再び芽生えてきましたが、仕事が忙しく、なかなか機会に恵まれませんでした。

 ところがコロナで、状況が変わりました。舞台の仕事はなくなるし、テレビのレギュラーも、半分ほどに減りました。

 空いた時間で何をしようかと考えた時に、大学への進学をやり残していたことを思い出して、一回ダメ元で受験したところ一発で合格することができました。

 とはいえ、周りは18~19歳と若い人ばかりで、本当に通うべきか、迷いはありましたが、通ってみたら、むちゃくちゃ楽しかった。

 今は週4でガッツリ通って、学生生活を謳歌しています。 

 それと、大学進学を決意した理由には子どもの存在もあります。

 僕と同じタイミングで小学校受験を迎えていて、「僕は、これから子どもに何を教えてあげられるだろう」と考える機会が増えました。その時に、僕はいい歳をした大人なのに社会の仕組みをよく知らないなと気づきました。

 駒澤大学を選んだのは、欽ちゃんと同じ大学というのもありますが、大学のホームページに「社会の『骨組み』を理解しませんか」と書いてあったからです。

 実際に授業を受けると、僕が人生で体験してきたことが授業になっていました。ロッキード事件、リクルート事件などニュースでは聞いていたけど、なぜ世の中があんなに騒いでいたのか、理解していなかったことが紐解かれていき、世の中の仕組みが理解できるようになりました。

 「なるほど」と思うことが次々に出てくるので、レポートを書くのも楽しかったですね。

 大学に入ったことで、パソコンも使えるようになりました。使い方を覚えた方がいいのは分かっていましたが、「覚えたい」だけでは使えるようになりません。しかし大学ではパソコンが使えないと授業の効率が悪いので、周りに教えてもらいながら必死に覚えました。

 授業を受ける時は必ず一番前の席に座ると決めていました。

 欽ちゃんから「後ろに座ってると寝ちゃうよ、みんな寝てるから」と聞かされていて、授業中に後ろを振り向くと、本当に寝ている。ちゃんと勉強している子の数が少ないことに驚かされました。

 多くの学生は、就職のために卒業さえできればいいと考えていて、ギリギリまで欠席するし、課題も最低限のものしか提出しません。そんな状況を見ていたら「成績で1番を獲れるんじゃないか」と思うようになり、そこからさらに熱が入りました。

 駒澤大学では成績のランクが出るのですが、1番上の評価が「S」。大学内でS評価を取れるのは全体の5%しかいないそうです。

 さらに学部内で1位になると奨学金50万円が出るので本気で獲りにいきました。

 結果として1位にはなれなかったのですが、先生に話を聞くと、10位以内には入っていたようです。50歳を超えても頑張れば結構いけるんだなと思いましたね。

逆スキリングになってしまうことも

 僕は仕事をしながら通っているので、全ての授業に参加できるわけではありません。

 そういう時は、前方で授業を受けている子に話しかけて、友達になり、代わりにノートを取ってもらうなど助けてもらっています。

 2年生の時に授業を13科目取っていて、各授業に1人そういう友達をつくっていたので、僕は彼らのことを勝手に「駒澤殿の13人」と呼んでいます。3年生になった今も駒澤殿の13人とは情報交換のために連絡を取り合っています。

 来年には4年生になりますが、順当にいけば卒業に必要な単位は、今年度中に取り終えるので、学生生活もあまり残されていません。そう思うと少しさみしくなってきます。

 大学に通ったことで、何かを始めるのに遅すぎることはないことを強く実感するようになりました。これは何の勉強でもリスキリングでも同じです。

 これは僕が欽ちゃんから学んだことです。僕が弟子入りした時、欽ちゃんはまだ40代でしたが、「いつか大学に行くんだ」と言いながら自宅で毎日勉強していました。そうして73歳にして有言実行するのだから、本当に驚かされました。

 そんな欽ちゃんの姿を見ていたからでしょうか。就職のために、とりあえず大学に来て、当たり前に寝て、単位を取るという学生を見ていると不安になります。

 今、少子化対策の一環で大学無償化の話も出ていますが、タダにして本当にいいの? と思います。

 それに無償化すれば、より入試が厳しくなるのではないか、もしくは一部だけ無償にするというのも教育の格差問題につながるかもしれない。とても難しい問題です。

 池上彰さんが司会を務める特番に度々出演させてもらっていますが、その影響で選挙特番のオファーをいただくことがあります。

 大学に通ったことで、政治や経済の知識、社会の仕組みへの理解を深めました。

 しかし、番組では大学で学んだことが生かしにくくなります。芸人がテレビで求められるのは「最低限」の知識です。専門的な話は専門家が解説してくれるので、芸人は視聴者目線になることが大事で、番組内で丁寧に伝えたいところは、視聴者目線になって「ちょっと、そこ分からないんですけど、教えてくれませんか?」と言う程度の知識の方が使いやすい。

 その意味では、僕が法学部政治学科で学んでいる知識は生かしにくく、むしろ逆スキリングですね。それでも、後悔はありません。それほどまでに学生生活は楽しい。こうしてメディアで取り上げてもらったりして、仕事にもつながるのだから、大学に入って本当によかったと感じています。(談)